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死闘


「方法を考えようと言ったが、実は俺にはこの村を抜け出す方法は1つしかないと思ってる。」


「まぁ、そりゃそうだろうな、俺が今思い浮かんでいる方法もアレンと同じものだろうな。」


アレンさんの言葉にうんうんとリーパーさんが頷き、私を見る。


「ヒューデットにかなりの効果がある回復魔法を使えるリーフにヒューデットを弱らせてもらう、または倒してもらい、俺達はリーフの援護をして、村の入口まで向かう。この方法しかないだろうな。

どうだリーフ、引き受けてくれるか?」


「もちろんお引き受けします。」


私は迷わず首を縦に振る。


「ありがとう。リーフは確か魔法回復力が高かったよな?

アンデット相手に回復魔法を使った時は、魔法回復力がそのままダメージに繋がる。しかも、リーフはスキルに回復の魔法使いを持ってるからさらにダメージに期待ができる。

それに得意属性が光属性なら、EXスキルの光の魔法使いも持ってるだろ?さらに光属性の魔法の効果が上がるから、さらにヒューデットを倒しやすくなるはずだ。」


期待に満ちた表情でアレンさんが言うが、私は範囲回復魔法の『サークルリカバリー』ではヒューデットを1撃では倒せない。

魔石を使っていたため、魔法の魔法回復力が下がっていたのもあるが、それを加味しても『サークルリカバリー』では1撃で倒すことが出来ないだろう。

そのため、確実に1体倒せる『ライトヒール』を使うか、『サークルリカバリー』で弱らせて、アレンさんとリーパーさんに倒してもらうか、それか『マジックチャージ』を使用して魔法の効果を上昇させるかのどれかだろう。

それでも、中級魔法を連発するため魔力の消費が多く、途中で魔法回復力が下がってしまうが、魔石に頼らなければならない場面もあるだろう。

決して、村を脱出できる可能性が高いとは言えない。

だが、生き残るためにはやるしかないだろう。


「絶対に生き延びてみせます。2人も力を貸してください!」


私の言葉にもちろんだと2人は言い、アレンさんが言葉を発する。


「なあ、一つ気になったんだが、村人達が変異したヒューデット、ここに来るまでのヒューデットと比べて弱くなかったか?」


「言われてみればそうですね、耐久力は同じくらいでしたが、なんというか攻撃力が道中のヒューデットと比べて弱かったような。」


本来なら私達3人であれだけのヒューデットを倒すことは不可能だ。こっちが死んでしまう。でも、生き残れたということは……


「手加減されてる?」


「手加減って……なんでまたそんなことをする必要があるんだ?」


リーパーさんが首を傾げる。


「さあ……それは分かりません」


「まあ、一応頭の片隅にでも置いておこう。俺達は生きてここを脱出するのが最優先事項なんだ。ラッキーとでも思っておこうぜ。

ところでお前達はステータス上がったか?あれだけの数のヒューデットを倒したんだ。結構ステータスが上がっていてもおかしくない。」


そう言ってアレンさんは自分のギルドカードを取り出す。

私もしばらく自分のステータスを見ておらず、自分のステータスが気になるため、同じようにギルドカードを取り出す。

確か最後に見たのが、得意属性が光属性になった時でステータスはたしか――


リーフ・クレイン(16)

魔法使い 得意属性【光属性】


魔法攻撃力 E--

魔法防御力 F

魔法回復力 D-

魔法制御力 E+

魔力回復速度 E--

魔力量 E-


Eランク


スキル欄(3)

回復魔法使い

詠唱省略(小)

デュアルアクション


EXスキル

光の魔法使い

詠唱省略(光Ⅰ)


こんな感じだったはずだ。

私は自分のギルドカードに目を落とす。


リーフ・クレイン(16)

魔法使い 得意属性【光属性】


魔法攻撃力 C--

魔法防御力 D

魔法回復力 C-

魔法制御力 D+

魔力回復速度 D-

魔力量 D+


Dランク


スキル欄(3)

回復魔法使い

詠唱省略(小)

デュアルアクション


EXスキル

光の魔法使い

詠唱省略(光Ⅱ)


「マジかッ!」


「えぇっ!?」


「えっ……」


予想以上のステータスの上昇に、驚きを隠せない。思わず、声が出るが、アレンさんもリーパーさんも同じだったようで、驚愕の声が聞こえる。


「おい、俺Cランクになってるぞ……。」


「俺ももうちょいでCランクになるくらいまでステータスが上がってる。」


アレンさんとリーパーさんが互いのギルドカードを見せ合っている。


「私も……EランクからDランクになって、しかもあとすこしでCランクになりそうです。

それにEXスキルの詠唱詠唱(光Ⅰ)が(光Ⅱ)になってます。」


説明を見ると、どうやら光属性魔法の中級魔法まで、詠唱が1節になり、魔法を発動できると書いてあった。


「マジか……これは……いけるぞ!」


さらに期待に満ちた表情にアレンさんはなり、生存率をあげるため、作戦を出し合い、次の日に備えるために洞窟の中で体を休ませることにした。






魔物達から身を守るために出来た洞窟

入り口は強引に魔法で塞いだが、避難用の洞窟であるため、ちゃんと出口も存在する。


「ここに魔力を注げば……」


先程まで休んでいた所からさらに奥に行くと、台座があり、そこに手形があった。

その目の前には扉があり、魔力を流すと、扉が開く仕掛けだ。


私は手形の場所に手を置いて、魔力を流す。

すると、ゴゴゴと音を立て、扉がゆっくりと開いた。


「よし、ヒューデットはいないな。2人とも来ていいぞ。」


アレンさんが先に扉の先に出て辺りを見渡し、安全を確認する。


「……っ、眩しいですね。それに……酷い臭いですね。」


一晩洞窟の中にいたせいか、日差しから目を守るため、手で日差しをさえぎりながら、私も辺りを見渡す。

いたるところに血やヒューデット化しなかった死体があり、昨日は逃げるのに必死で気にしていなかったが、冷静な今の状態だと吐き気を催す臭いに顔をしかめてしまう。


「飯を食ってなくて良かったな。食ってたら吐いてるところだ。」


リーパーさんの言うように、昨日のパンで食料が尽きてしまったため、今日の朝は何も食べていない。

水もほとんどなく、早めに村を出て、食べれる魔物か魔獣を狩って川などで水の確保もしなければならない。


「ゆっくり行くぞ……出来ればヒューデットには気づかれたくない。」


アレンさんが先行しながら、少しずつ村の出入口へと進んでいく。


いつもは歩けば10分程度で家がある村の中心に行けるが、ヒューデットに見つかる訳には行かないため、いつもの数倍の時間がかかり、かなりの集中力も必要となり、かなりの精神力を持っていかれる。

しかし、生き残るためだ。全神経を使ってヒューデットから逃げるため1歩1歩確実に村の出口まで進んでいく。


そして、それが無に帰すのはその数分後だった。


「あ――」


私の声がぽつりと零れる。

次の進行ルートを探すため、周りを見渡していたら近くにいたヒューデットと目が合ってしまった。

当然ヒューデットは声を上げ辺りのヒューデット全員が私達に気づき、襲いかかってきた。


「ごめんなさい、アレンさん、リーパーさん」


襲いかかってくるヒューデット達を見ながら、隣にいる2人に謝罪する。


「仕方ないさ、ヒューデットが多すぎる。いつかは見つかると思ってたよ。」


アレンさんが肩をすくめ、懐から閃光石を取り出し、ヒューデットが多く集まっているところに向かって投げる。


「こうなったら全力で逃げるしかないな!」


アレンさんとリーパーさんは『ボディエンハンス』を、私は『パワーライズ』でそれぞれ脚力を強化して、ヒューデットに背を向けて全力で村の出口を目指してダッシュする。


「ちっ、こっちにもいるか!」


しかし、前方にもさきほどのヒューデットの声を聞き付け、別のヒューデット達が待ち構えていた。数は20はくだらないだろう。


「リーフ、任せたっ!」


「了解ですっ!〈さらなる力を求む〉、〈さらなる力を求む〉、〈癒し施す陣よ〉!」


リーパーさんが閃光石を投げるのと同時に私は走り出し、『マジックチャージ』で次の『マジックチャージ』の効果上昇値を上げる。その直後に閃光石が爆ぜて光が撒き散らされるが、とっさに横を向きながら目を閉じ、光が収まったのを確認して、視界が潰されているヒューデット達の中心に飛び込み、『サークルリカバリー』を放った。


「「「ガァァァァァッッ!!」」」


流石に『マジックチャージ』を2回使用すると、『サークルリカバリー』でも、倒すことができるようで、1体残らずばたりと倒れる。


「あは……」


ステータスがすごい勢いで上昇するのが分かり、高揚してしまい、堪らず口元に笑みが浮かぶ。

ただ、自分達と一緒の村に住んでいた村人達を殺してしまったことに強い罪悪感を覚え、高揚感が一瞬で掻き消える。


「さっきの閃光石で足止めした奴らが動き出した。辛いと思うが、ここを出るまで頑張ってくれ。」


私の表情で考えていたことが筒抜けだったのか、アレンさんがそう言って、背中を軽く叩く。


「そう……ですね。今はここを脱出することに集中力しないと……。」


再び足に力を入れ、出口を目指し、走る


ヒューデットが立ち塞がる


アレンさんとリーパーさんが時間を稼いでいる間に、さっきと同じようにヒューデットを倒す


ヒューデットが立ち塞がる


『マジックチャージ』と『サークルリカバリー』で倒す


「くっ……」


私の手によって倒れていく村人達に、強いショックを受けながらも、魔法を放ち続けていたが、魔力がほぼ無くなり脱力感に襲われる。


「〈さらなる力を求む〉、〈さらなる力を求む〉、〈癒し施す陣よ〉!」


即座に中級魔石を砕き、これまでと同じように、『マジックチャージ』を2回発動し、『サークルリカバリー』で攻撃する。


「グ、ガ……ガァァァァァッ!」


「うそっ……」


しかし、今度は1撃では倒れず、瀕死の状態ではあるが、生きており、一気に何十体ものヒューデットが襲いかかってきた。


「リーフっ!『フルスイング』ッ!!」


「『ソードスラッシュ』!」


アレンさんとリーパーさんが私に近寄るヒューデットを倒してくれるが、アレンさんとリーパーさんが抑えていた別のヒューデットも一緒になって襲いかかってくる。

 

「目をつむってください、〈輝け光よ〉!〈癒し施す陣よ〉!」


2人が目をつむった直後に、『フラッシュアウト』で辺りのヒューデットの視界を奪い、その直後に『サークルリカバリー』で先程仕留め損なったヒューデット達を倒す。

アレンさんとリーパーさんが抑えていたヒューデットは倒れなかったが、数を減らすことができ、『サークルリカバリー』で弱ったところをアレンさんとリーパーさんが戦技を使って倒す。


「あ、危なかった……2人ともごめんなさい。」


「さ、さすがに今のは肝が冷えたな。……そうか、魔石を使ったから、『マジックチャージ』の上昇値と、『サークルリカバリー』の回復力が低下したから、1撃で倒せなかったのか。」


「なら、次からは3回ほど『マジックチャージ』を使わないといけないか……。それに1回『マジックチャージ』を使う量が増えるから、消費魔力量も増えるな。」


『マジックチャージ』の消費魔力量はF。あまり多くは無いが、今まで以上に早く魔力が消費されてしまう。


「早く村の外に出たいが……警戒されているな。

閃光石ももうない。リーフ、『フラッシュアウト』でヒューデットの視界を潰して一気に駆け抜けるぞ。リーパーもそれでいいな?」


「ああ、分かった。」


何度も戦闘しているため、戦闘音などでさっきから何度もヒューデットが襲ってきてもはや隠れるどころでは無い。

あちこちから現れるヒューデットを見て、村の出口を目指すことに作戦を変更し、私も魔法の準備をする。


「『フラッシュアウト』を強化するので気をつけてください。〈さらなる力を求む〉、〈さらなる力を求む〉、〈輝け光よ〉ッ!」


「「「ガァァァァッッッ!?」」」


『マジックチャージ』で光量を強化した『フラッシュアウト』を発動し、再び『パワーライズ』で両足を強化し、走り抜ける。

ほぼ完全にヒューデットの視界をつぶせたようで、近い場所にいたヒューデットは目を抑えながらのたうち回り、そこそこ遠くにいたヒューデットも目が見えていないようで、虚空を殴り、それが別のヒューデットに当たり、仲間割れをしている。


「上手くいったな!これで出口まで走り抜ければ俺達は生き残れる!」


興奮した様子でリーパーさんが出口へ続く道を駆け抜ける。

しかし、その先に進行を阻む者がいた。

背丈はアレンさんと同じくらいだが、ほっそりとしている。

それだけだと、普通の人間と同じだが、人間ではないとはっきり分かる。

なぜなら、黒の2対の翼を持ち、赤い瞳を光らせているからだ。そして、邪悪なオーラが周りに渦巻いている。


「逃がさないぞ?」


その者がニヤリと浮かべる。それだけで私の本能が危険信号を発し、逃げるべきだと忠告する。

多分、あれは悪魔だ。最低でもAランクはある化け物。

見たことは無いが話には聞いたことがある。

あれは、今の自分が戦って勝てる者じゃない。だが、体が恐怖で震え、ただ見つめることしか出来ない。

アレンさんとリーパーさんも同じようでその場から動けていない。


「初めましてだな、名をフロウアと言う。幻影と魔物の作成がちょっとばかり得意なただのSランクの悪魔だ。よろしく」


「え……Sランク……」


私の本能は正しかったようで、震えた声で悪魔に聞く。

  

「ああ、そうだ。まあそんなことはどうでもいい。ふむふむ、たんまり餌を与えてやったからかずいぶんとランクが上がったな。ヒューデット達に手加減をさせてよかった。

Cランク以上なら強力な個体も作れるからここで3体のCランクのシャープデットを作れるのはデカイな。」


にやにやと笑いながら、そんなことを呟き、近づいてくる。

ヒューデット達の足音も迫り、悪魔は指示をするようにヒューデットに向かって、軽く手を振る。


「まずい……囲まれた。」


アレンさんが恐怖を無理やり押し殺し、低い声でつぶやく。


ヒューデット達は悪魔の指示に従い、私達を囲むように広がる。

そして……私は見てしまった。


「お父さん……お母さん……?」


体のあちこちに大小様々な傷を負い、そこから血を流し、顔も打撲痕でぐちゃぐちゃ、それでも私は分かった、分かってしまった。


「そ……んな……」


アレンさんやリーパーさんが洞窟で揉めていた時、自分の家族もヒューデットとなっているか、死んでいるかどっちかだろう。家族が生きているなんて希望を持たないようにしよう。

そう思っていた。でも、いざそれを目の当たりにすると、その覚悟も一瞬で粉々に砕け散り、絶望が私を包み込む。

全身から力が抜け、両膝をつく。


「ふむ、そこの女の知り合いでもヒューデットのなかにいたか?まあいい。」


「あ……ぁ……」


悪魔がゆっくりと私の元に歩いてくる。

絶望と恐怖が入り交じり、死が迫っているのにもかかわらず、頭が混乱し、攻撃することも逃げることも出来ない。


「ふっ、いい表情だ。さらばだ〈鋭利なるま〉」

「やめろぉ!」


悪魔が私に魔法を使う直前に、リーパーさんが悪魔に斬りかかり、悪魔の意識がリーパーさんに逸れ、魔法が途中でキャンセルされる。


「俺の魔法の邪魔をするとは……よほど先に死にたいのだな。いいだろう。ちょうどお前もCランクに上がったみたいだからな。」


「く、来るな……」


悪魔は一瞬怒りの表情を浮かべるが、目を光らせ、すぐに笑みを浮かべる。

そして、リーパーさんへと歩を進める。

リーパーさんが恐怖に顔をゆがめながら、後ずさる。


「心配しなくてもいい、痛みは一瞬だ。ほんの少しだけ痛みを伴うが、いまのお前よりも強い存在に生まれ変われるぞ。」


「く、来るなぁぁぁっっ!」


悪魔に向かって手に持っていた短剣を振りかざす。

しかし、悪魔はその腕を軽く掴みあげ、片手をリーパーさんの心臓に当てる。


「さよならだ、〈鋭利なる魔弾よ〉」


悪魔が詠唱した直後に、リーパーさんの心臓に穴があき、ばたりとリーパーさんが倒れる。


「リーパー……?お、おい、お前……よくも、よくもリーパーをぉ!!」


「アレンさんダメっ!!」


恐怖に怒りが勝ち、アレンさんが剣を持って駆け出す。

アレンさんを止めようと、叫ぶがアレンさんには聞こえていないのか、足を止めない。


そんなアレンさんの様子を面白そうに見ていた悪魔は、パチンと指を鳴らす。

すると、悪魔の真横の宙に扉が出現し、そこから出てきた魔物?が人間の指ほどの長さの鉄のような鉤爪で悪魔を庇うようにアレンさんの剣を受け流す。


「なんだと……っ!」


「シャープデットの戦闘データはまだ詳しくとっていなかったな。シャープデット、お前の力を見せてみろ。」


「ギギィ!」


鼻のないのっぺりとした顔面、頬あたりまで裂けた口、真っ黒ですらりとして素早く動けそうな体、そして大きな鉤爪を持ったシャープデットと呼ばれた魔物が、主人の命令に従うため、アレンさんの前で両方の爪を構え……ものすごい速さで突進し、鉤爪を振りかざす。


「ぐっ……」


かろうじてアレンさんは剣で鉤爪を受け止めるが、ヒューデットと同じように筋力が高いのか、2回ほどシャープデットの攻撃を受け止めただけで、手に限界がきたのか、握る力が弱くなり、剣で受け止めきれずに剣が吹っ飛んでいく。


「〈更なる癒しよ〉!」


「ギギィッ!?」


私は恐怖と絶望に屈しかけた体にムチを打ち、シャープデットに、向かって『ライトヒール』を放ち、アレンさんから引き離す。


「ギギ……ギギィ!」


予想通りヒューデットのように1度で倒れず、少しふらふらとしながらも、一旦姿勢を低くして、その状態のままシャープデットは私に向かって駆け出し、鉤爪を薙ぎ振るう。


「〈守りし水膜よ〉っ!」


デュアルアクションを発動しながら、2枚の『ウォーターフィルム』で防御する。


「いっ……たぃ……」


『ウォーターフィルム』にシャープデットの鉤爪が当たる直前、キラリと鉤爪がひかり、『ウォーターフィルム』では防ぐことは叶わず、片方の鉤爪で『ウォーターフィルム』を破壊した直後に、もう片方の鉤爪で追撃され、鉤爪の1本が私のお腹を抉り、腹に深く一筋の傷が出来上がる。

そこからドクドクと血が溢れ、激痛に膝を折りながら、無駄と分かりながらも、手で傷口を抑える。しかし、手が血まみれになるだけで、なんの意味もない。


「……スキルを使っただと?」


私の様子を見たアレンさんがぽつりと呟く。


「そうとも、Dランクのヒューデットではスキルを使用させることは出来なかったが、Cランクのシャープデットは簡単なものではあるが、スキルを使用させることが出来る。今使った爪牙(そうが)のようにな。」


爪牙(そうが)――爪に魔力を込め、切れ味を上げた爪で引き裂くスキル。込めた魔力量に応じて切れ味が変わるが、やっぱりヒューデットと同じく筋力も高いのであろうシャープデットの爪牙はそこまで魔力は使われていなかったようだけど、とんでもない威力だった。


痛みを堪えながら、立ち上がってシャープデットと距離をとる。

すぐに怪我を回復魔法で治して戦線復帰しないと、アレンさんも私もやられてしまう。

体制を立て直そうと、アレンさんに剣を回収するように視線で伝え、私はシャープデットに負わされた傷を回復を行おうと詠唱をする。


「〈更な……る、癒し、よ〉……治ら、ない?」


『ライトヒール』の詠唱をして、お腹の傷を治そうとするが、癒しの光は本来の力を発揮せず、ほんの僅かに流れる血の量が減っただけだった。


「治らないか?」


「まさか……あなたのせい、ですか」


声のする方を見ると、悪魔が笑みを浮かべながらこっちを見てくる。悪魔の視線に背筋がぞわっとするのを感じながら聞き返す。


「いや、俺は何もしてないぞ。

ただ、シャープデットに中級回復魔法以下の回復効果を弱体化させるヒールレジェクトのスキルを攻撃時に爪牙と同時に発動できるようにしているだけだ。

ちなみにそのシャープデットに付与しているスキルは爪牙とヒールレジェクトだけと言っておこう。

さあ、シャープデット、殺せ!」


「ギギィッ!」


「〈癒しの光よ〉!」


余裕たっぷりといった表情で悪魔は追撃を命じる。

迫ってくるシャープデットに対して『ライトヒール』を放つが、他人に対して放つ回復魔法も弱体化しているのか、『ライトヒール』の光は弱々しく、『ライトヒール』を受けたシャープデットにも大したダメージを与えられない。


「ギギィッ!」


「……っ!」


「やらせるかぁ!!」


死を覚悟し、反射的に顔を背ける。しかし、鉤爪が私を引き裂く直前に私とシャープデットの間に、アレンさんが割って入り、回収した剣で鉤爪を受け流す。


「おらぁぁっ、『フルスイング』っ!!」


「ギギッ……!?」


「『ウェポンズブースト』、『フルスイング』!」


鉤爪を受け流され、体勢を崩したシャープデットの頭を剣で叩きつける。完全に体勢を崩し、そこを狙って『ウェポンズブースト』で強化した『フルスイング』でシャープデットを吹き飛ばし、近くにあった家の壁に激突する。


「『ダッシュストライク』、はぁぁぁぁぁぁっっ!!

『ペネトレイト』っ!!」


シャープデットの後を追うように、アレンさんは『ダッシュストライク』で加速し、シャープデットに剣が届く間合いに入ったと同時に、『ペネトレイト』で貫通効果を付与した剣を頭狙って力いっぱい突き刺し、シャープデットは動きを止めた。


「……まさかシャープデットが倒されるとは思わなかった。」


パチパチと拍手しながら悪魔は笑みを浮かべる。


「はぁ……はぁ……おい、リーフ大丈夫か?」


アレンさんが息を切らしながら壁から件を引っこ抜き、私に顔を向け、眉をひそめる。


「だ、だい、じょぶ……です……くっ!?」


お腹の痛みに耐えながら立ち上がるが、血を流しすぎたのか、立ちくらみが起き、再び倒れてしまう。


「ふっ、そこの女は限界のようだな。……今がチャンスか。」


悪魔は私達を鼻で笑い、リーパーさんの遺体の元まで歩き、手をかざす。

すると、リーパーさんの下の地面に黒い魔法陣が出現し、黒い光を放ってリーパーさんを包み込む。


「何を……リーパーに何をしたっ!」


「見ていれば分かる。」


黒い光がリーパーさんを包み込んで10秒ほど経つと、光は徐々に弱まり……リーパーさんの変わり果てた姿がそこにあった。


「ギギィィッ!!」


先程も見た真っ黒な全身のシャープデットがそこに誕生した。


「くくく、やはりシャープデットとなったか!

はははっ、おいお前達、チャンスをやろう。こいつとこいつらヒューデット10体を倒しきれたら、特別に逃がしてやる。」


上機嫌な悪魔は周りにいる10体のヒューデットを呼び、リーパーさんの周りに配置し、そんな提案をする。


「そんな……おい、リーパー、俺だアレンだ……」


しかし、その提案の内容をあまりの衝撃に聞き取ることが出来ず、まともに歩くことが出来ないアレンさんが、ふらふらとゆっくりリーパーさんの元に歩いていく。


「アレンさん……ダメです!」


体を無理やり起こし、アレンさんにそう叫ぶ。


「だ、だが……」


泣きそうな顔をしながら、アレンさんはリーパーさんを見つめている。


「リーパーさんはもう死んだんです!今のリーパーさんに出来ることは、私達が倒してあげることだけ……覚悟を決めて下さい。〈更なる癒しよ〉、〈更なる癒しよ〉」


そう言って、自分とアレンさんに『ライトヒール』をかけ、私は立ち上がる。

ヒールレジェクトの効果が切れたのか、回復量は先ほどと同じほどになっていた。

完治している訳ではなく、傷口は未だに少し開いており、まだ痛みはあるし、失った血も戻らないため、壮絶に気分も最悪だが、立ち上がって中級魔石を砕き、魔力を最大魔力量まで回復させる。


「リーフ……すまないリーパー。お前を助けられない愚かな俺を許してくれ。」


覚悟を決めたのか、剣を眼前に構え、アレンさんは戦闘態勢になる。


「覚悟は出来たか?では、殺し合いスタートだ。」


そう言いながら悪魔は、上空に魔法を合図代わりに放ち、殺し合いが始まった。


「〈炎を象りし赤き矢よ・猛る炎と鋭さ用いて・仇なす敵を刺し射抜け〉っ!」


「うおぉぉぉっっ、『ダッシュストライク』!」


開始の号令とほぼ同時に、1番前にいるヒューデット目掛けて『ファイアアロー』を放ち、アレンさんが『ファイアアロー』の真後ろを駆け、『ファイアアロー』がヒューデットに直撃した直後に『ダッシュストライク』で加速し勢いを増した状態で、剣をヒューデットのお腹に突き刺す。


「ガァァァッ!」


速攻で1体倒すも、アレンさんを別のヒューデットが4体とリーパーさんが襲いかかる。


「こっちにも……〈更なる癒しよ〉、〈小さな火球よ〉!」


アレンさんだけでなく、後ろにいる私の方にもヒューデットが5体殺到し、先頭にいるヒューデットに『ライトヒール』を放ち、先制攻撃を行い、さらに追撃として『ファイア』を放つ。


「ガァァァッ!」


魔石を使ったため、魔法の効果は低下しており、これだけでは倒すに至らないが、大ダメージをくらわせ、足止めに成功する。しかし、あとの4体が魔法をくらったヒューデットを追い抜き、私を殺そうと手を伸ばし、口を大きく開ける。


「〈輝け光よ〉、〈我は力を求む〉!」


今の一瞬で、近距離まで接近を許してしまったため、『フラッシュアウト』で視界を潰し、デュアルアクションを使用し、両足を強化してバックステップで距離を置き、さらに魔法を放つ。


「……っ、〈更なる魔力纏いて・爆ぜよ魔弾〉、〈更なる魔力纏いて・爆ぜよ魔弾〉!」


バックステップの着地の衝撃で、再度立ちくらみが起きるが、『フラッシュアウト』でヒューデット達の視界を潰せている今のチャンスを逃す訳にはいかない。

4体のヒューデットに向かって、『マジックボム』を2回連続で放ち、着弾地点で『マジックボム』による爆発が起き、地面が抉れ、ヒューデット達が吹き飛ばされる。

それでも、すぐに立ち上がり、私を殺そうとその血にまみれた手を伸ばす。

今の爆発で足がちぎれた者もいるが、そのヒューデットも私を殺そうと血を這いずってこっちに向かってくる。


「もう……辞めてください……」


目の前にいる血にまみれたヒューデット達の生前の姿が思い浮かび、ついそんな言葉が漏れてしまった。


「ガァ……ァァァ」


それでもヒューデット達は歩みを止めない。

分かってる……もうこの人達の意識はなくなって悪魔によって強制的に動かされていることも、あの悪魔のせいで私の村がこんな地獄になってしまったことも。


ギリッと、音が鳴るほど歯を食いしばり、気づけば拳に力が入っていた。

拳を広げ掌を見ると、かなりの力が入っていたのか、爪が皮膚を貫き、ほんの少しだが、血が流れていた。


「今の私ではあの悪魔は倒せない。」


痛みで我を取り戻し、悪魔に一瞬だけ視線をやり、ヒューデットに視線を戻す。


「でも、皆さんの仇は絶対にとります。〈風よ阻め〉」


5体のヒューデットを押し返すほどの風が起こり、ヒューデット達の進行を遅らせる。


「あの悪魔を倒せるくらいに強くなって、あの悪魔を倒します。〈さらなる力を求む〉」


『マジックチャージ』により、魔力が高まり、ヒューデット(村人)達を倒すための呪文をつむぐ。


「だから、眠ってください。〈癒し施す陣〉!」


5体のヒューデット達が『ウィンドブロウ』に耐えながら、私の元まで来る前に、『サークルリカバリー』を発動し、5体のヒューデットを光の陣が飲み込んだ。


「「「「「ガァァァァッッッ!!!」」」」」


「………………ごめんなさい」


必ず仇をとってみせる。光に飲まれ、塵になっていくヒューデット達を見て、周りで待機しているヒューデット(親や知り合い)達を見つめる。


「お父さんも、お母さんの分も……必ず……」


「ああぁぁぁッッ!?」


「え……!?」


野太い悲鳴が後ろから聞こえ、咄嗟に振り返ると……シャープデットが3本の鋭い爪をアレンさんに突き刺していた。


「……っ!?アレンさん!」


心臓はまだ刺されていない。お腹の傷を何とか回復魔法で防げばっ!

そう思考しながらアレンさんの元に駆け寄ろうと足を動かす。


しかし、それよりも早く


「ギギィ!」


シャープデットが爪を勢いよく横に振り払い、アレンさんの体に大きな傷跡を残す。

血が大量に飛び散り、アレンさんの近くまで駆けた私の髪や服にも、真っ赤な血が付着する。


「がっ……ぁ……に、げ……」


アレンさんは大量の血をまき散らし、地面に倒れ込む。僅かに顔を上げ、私に気付くと、口を動かそうとするが、アレンさんの頭をシャープデットが踏みつけ、アレンさんの顔が地面に打ち付けられ、トドメにアレンさんの心臓に狙いをつけ、鋭い爪を振り下ろす。


「あ……アレン……さん」


ピクリと、アレンさんの体が痙攣し、その直後にアレンさんの体は動きを止める。


「……う……そ」


「ふむ、ヒューデットはそこの男が倒しそびれた奴があと2体か。良かったなそこの女。

 シャープデッドとヒューデット2体を倒せば逃げられるぞ?1対3で勝てればだがな。」


「ギギギギッ」 


 悪魔は私が勝てないと思っているようで小馬鹿にしたような表情でシャープデットと共に笑う。


「〈内なる……闇払う光〉っ!

 はぁぁぁぁッ!〈宿れ光剣我が手に〉!!」


 心が折れそうになり、『マインドヒール』を自分自身にかける。

 それでも目に熱いものが込み上げ挫けそうになるが、怒りを力に変えて、走りながらヒューデットに向かって『ライトソード』を振り抜く。


「ガァッッ!」


「〈更なる癒しよ〉、〈小さな火球よ〉!」 


 ヒューデットの1体の首が落ち、もう1体のヒューデットの方に右手を伸ばし、『ライトヒール』でヒューデットの体力の大半を消し飛ばし、右手を引きながら左手に出現させた『ファイア』でとどめを刺す。


「はぁ……はぁ……あと、1体っ!」


「中々やるな。それにヒューデットを狩ることでどんどんステータスも上がっている。」


さっきから魔法の使いすぎと体の動かしすぎで体力も魔力も尽きそうで、息が苦しい。そんな私を見て悪魔はニヤニヤと笑っている。


「笑ってないで……はぁ……私に倒されて……ください」


 汗を拭い、懐に入れていた最後の魔石を砕き再び構える。

 早くこの悪魔を……村の皆を殺したこの悪魔を……


「おぉ、怖い怖い。よほど私を殺したいらしいが……その前にシャープデットが倒せないと話にならないぞ?

 シャープデット、行け」


「ギギッ!」


悪魔の命令に従い、シャープデットが体を低くし――地を蹴り、一瞬で間合いを詰めてくる。


「〈癒し施す陣よ〉!」 


 シャープデットの爪が私を傷つける前に、『サークルリカバリー』を展開する。


「ギっ!……ギギギッ」


 シャープデットは『サークルリカバリー』の範囲内にいたため、ダメージを負うが、その素早い身のこなしでバックステップをして『サークルリカバリー』の範囲外へ逃れる。

 しかし、距離があいたということはこっちだけが攻撃出来るということっ!


「〈不可視なる風よ・鋭利なる刃となりて・切り刻め〉っ!」


大ダメージを与えられる『ライトソード』や、『ライトヒール』は射程外。さらにシャープデットに避けられることも考慮し、魔法発動速度の高い『エアブレード』をシャープデットに放つ。


「ギッ……」


 シャープデットは回避しようとするが、『エアブレード』のスピードに間に合わず、右足の脛に『エアブレード』が命中し血が飛び散る。


「これで素早く動けないでしょう!〈我は力を求む〉、〈我は力を求む〉、〈我は力を求む〉、〈我は力を求む〉、〈さらなる力を求む〉っ!」 


私は魔石を取り出し砕きながら、デュアルアクションと『パワーライズ』を使用し、両足を4回ずつ強化し、シャープデットを倒す魔法を使う前に『マジックチャージ』を使用し、次に放つ魔法の効果を上昇させる。


「〈小さな火球よ〉、〈さらなる力を求む〉、〈炎を象りし赤き矢よ・猛る炎と鋭さ用いて・仇なす敵を刺し射抜け〉ぇ!」


シャープデットは回避が間に合わず、『ファイア』で吹き飛ばされ、その直後に『ファイアアロー』をまともにくらい、惚気けている。


「〈宿れ光剣我が手に〉っ!」


それを見た私は『ライトソード』を右手に構え、事前に掛けていた『パワーライズ』の効果で普段の倍近い速度でシャープデットの元まで駆けながら、『ライトソード』を振るった。


「ギアッッ!!」


「くっ……ぅ!」


『ライトソード』は、シャープデットの右の鉤爪で受け止められてしまい、『ライトソード』は消滅してしまい、『パワーライズ』で強化している足でシャープデットを蹴り距離をとろうとするが、シャープデットの左の鉤爪が振り抜かれ、私の右の太腿に決して浅くない傷を負う。

『パワーライズ』で強化していなければ、足を動かすことも困難だったかもしれない。


「〈風よ阻め〉、〈更なる癒しよ〉!」


右手で『ウィンドブロウ』を至近距離でシャープデットの顔に向かって放ち、怯んだ隙に左手をシャープデットに向け、『ライトヒール』でシャープデットにダメージを蓄積させる。


「ギ……ギ……」

 

「はぁ……はぁ……」


私もシャープデットもお互いにふらふらで今にも倒れそうだ。

特に魔力の消費が凄まじく数十秒前に中級魔石を使ったのにもう魔力が尽きそうだ。

懐に手を入れるが、魔石は全部使い果たしたことを思い出す。

  

「もっと……考えて使えば……はぁ……良かったですね。」


まあこんな命のかかった状態で、魔力と魔石のやり繰りをしながら戦うことができるほど、器用でもないけど……。


残る魔力は『ライトソード』1回と初級魔法2回くらい。

シャープデットはかなり疲弊しているように見える……多分『ライトソード』で頭を狙えば倒せる。


「すぅ……〈集えよ土玉〉…………今っ、〈風よ阻め〉!」


小さな土の塊を放つ『アースバレット』をシャープデットに向かって放つ。

シャープデットは軽く首を捻って回避しようとしたが、その直前に『アースバレット』に向かって『ウィンドブロウ』を放ち、『アースバレット』は粉々になる。しかし……


「ギギャァァァ!!」


粉々になった土の一部が避けようとしたシャープデットの目らしき場所に命中し、目を抑えながらシャープデットは叫び声をあげた。


「はぁぁぁぁ、〈宿れ光剣我が手に〉っ!」


魔力が空っぽになり強い脱力感に体が倒れそうになるが、歯を食いしばって堪えながら、シャープデットの首に向かって『ライトソード』を振るう。


「ギ……」


『ライトソード』がシャープデットの首を斬り飛ばし、シャープデットは崩れ落ち、そのまま動かなくなった。










今回使用した魔法

アースバレット 初級土属性魔法

魔法攻撃力 F

魔法制御力 F-

消費魔力量 G-

射程 G

魔法発動速度 G+

詠唱

ここに集え・丸く小さな・土玉よ

説明

土の塊を放つ魔法。


ピンポイントホール 無属性上級魔法

魔法攻撃力 B+

魔法制御力 A--

消費魔力量 C+

射程 D++

魔法発動速度 C

詠唱

無駄無く集え・数多の魔力よ・小さく鋭利な魔弾となりて・放たれよ

説明

魔力を凝縮した小さな魔弾を放つ。

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