Welcome to hell
2日前の夕方
リーフ視点
「そろそろだな、なんとか夜になる前に村にたどり着けそうだ。」
リーパーさんが手綱でブラウンホースを操りながら呟く。
道中ヒューデットや他の魔物と遭遇したが、できるだけ戦闘を回避したため、あと数分もあれば村にたどり着ける。
空は既にオレンジ色に輝き、あと2時間もすれば日が暮れるだろう。
「リーフは明後日にまた村を出るんだろ?もうすぐビギシティの馬車が出るみたいだしな。」
「あー、確かハーパン学園の試験を受けに行くんだったよな。合格したらしばらくお別れだな。寂しいぜ。」
「あはは、合格したら1度村に報告に来るのでその時に会えますよ。まあ、その後はなかなか村に戻って来れないとは思いますけど。」
泣いているふりをしているリーパーさんに苦笑いを浮かべながら私は言う。
「にしても、正直リーフがいなくなるのは辛いな。
ミラン村での仕事の大半が畑仕事だ。怪我をすることも多いし、年寄りも多いから腰の痛みとかもある。そんな時にリーフの回復魔法が役に立つってみんな言ってたが……」
「おいアレン、リーフは魔法を学びたいって言ってるんだから、気持ちよく送り出してやれよ。そんなことリーフに聞かせると、村に残るって言い出すぞ。」
「どうしたんですか?」
なにかをボソッと呟いたアレンさんの頭をペしっとリーパーさんが叩く。
「いや、なんでもない。とりあえず、リーフは学園生活を楽しんできな。」
「はい!って言っても、まだ試験すら受けてませんけどね。」
「あ、そうだったな。」
わはは、とアレンさんが笑う。
「おい、そろそろ村に着くぞー」
リーパーさんの言葉に目の前を見ると、だんだんミラン村の門が近づいてきた。
「……おい、待て門が壊れてないか?」
目を細めてアレンさんは門を視認する。
門は木製ではあるが、丈夫に作っており、この辺にいる魔物で一番ランクが高いグレイウルフですら、力づくで突破するのは困難だ。
「嘘だろッ……、何が起こったんてんだ?」
リーパーさんがブラウンホースの走る速度を速めて門の元までブラウンホースを走らせる。
「これは……門番を任せていたデビットだ。」
壊れた門の近くに一人の成人男性が血にまみれ、うつ伏せで倒れていた。アレンさんがデビットさんの顔を確かめると、俺達に視線を向けて首を振る。もう生きてはいないということだ。
「デビットの死因は首を噛み切られたことによる大量出血によるものだ。そして、歯型は人間のもの……。」
アレンさんはデビットさんの傷確認し、門を見る。
ここからだと、まだ村の入口部分しか見えないが、多くの人型のなにかが入っていったと思われる。地面にうっすらと人間の無数の足跡が確認できるからだ。
「……もしかしたらヒューデットが襲撃に?」
私の口からその言葉がこぼれ落ちる。グレイウルフよりも強く、門番をしていたデビットさんの死因は人間による噛みつき攻撃によるもの、そして極めつけに人間の無数の足跡。
否定して欲しい、もしもヒューデットが大量にこの村に襲撃しにきたら1日と持たないだろう。
ミラン村は人は多いが、そのほとんどが戦闘経験などない。もちろん農作業でそれなりに鍛えられているため、全く戦えないという訳では無いが、村人とヒューデットが1対1で戦ったとしてほぼ100%村人が負ける。実際に戦ったから分かってる、ヒューデット達の恐ろしさは……
だから、お願いだから否定して下さいッ……
「そう、かもしれないな。ここに来るまでヒューデットと戦ったが、あいつらの筋力は以上だ。あいつらが力づくでこの門を破ったと言われたら、納得してしまう。」
アレンさんが顔を歪めながら、私を見て呟く。
「そん……な……いえ、まだ生き残りがいるはず、助けないと!」
「お、おいっリーフ!」
まだ生き残りがいるかもしれない、家族が生きているかもしれない、そんな願望が私を突き動かす。
私は馬車から降りて、リーパーさんの声を無視し、ミラン村の内部に入る。
ミラン村の入口部分は、家は無い。元々魔物がいるような土地に村を作り上げたため、魔物に襲撃された時に逃げやすくするためだ。かわりに左右に大きな畑が広がっており、そこを少し進むと、たくさんの村人達の住む家が見えてくる。
「皆、お願い無事でいて……」
左右の畑の間にある舗装された1本の道を駆けて、私は村人達の家に辿り着く。
「はぁ……はぁ……おい、リーフ気持ちは分かるが、もっと慎重に……なら……ない……と」
アレンさんとリーパーさんがすぐ後ろを着いてきたようで、少し息を切らしながらもアレンさんが私に苛立った口調で何かを言おうとする。しかし、その言葉は徐々に小さくなる。
「う、嘘だろ……おい、こんなことがあっていいのかよッ……」
怯えと驚愕の感情が混ざった口調でリーパーさんが呟く。
強く強くリーパーさんに心の底から同意したい。こんなこと起こったらダメなんだ。
激しく首を振って現実から目を背けようとする。しかし、何度見たって現実は変わらない。
「は……はは……あは」
乾いた笑い声しか発することが出来ない。
眼前の無数のヒューデットが私達を視界に捉える。
そこには、顔を知っている者もたくさんいた。
「村長、ハラドおばさん、ロックスおじさん……」
皆面識のある人達だ。小さい頃からお菓子を貰ったり、お世話をしてもらったり、回復魔法で怪我を治したりした人がヒューデットとなって、こちらを見つめている。
「お前達、後ろにも回り込まれたようだ。」
アレンさんが低い声で後ろを見ながら私達に忠告する。
いつの間にか別の村人……いや、大量のヒューデットが来た道を塞いでいた。
「なあ、なんなんだよ。次は俺達がヒューデットにされちまうのかよ……。」
膝をついてリーパーさんが項垂れる。
周りを見て確認できるだけでも、100を超えるヒューデットがいる。
「私達は皆に殺されるんでしょうか……?」
知っている人達を攻撃したくない。でも死にたくない。でも、多すぎて逃げることも叶わない。
絶体絶命だ。
「……お前達は死にたくないか?」
アレンさんは剣を構えながら、私とリーパーさんに視線をやる。
「あ、当たり前だ。だが、もうダメだ。死ぬしか――」
「本当に生き延びたいなら、最後まで戦うしかない。例え、知っている者が相手でも、絶望的な状況でも……諦めない限り、希望はある。俺は死にたくない、だから戦うが、お前達はどうするんだ?」
アレンさんは来た道を見つめる。そこには何十ものヒューデットがいるが、アレンさんはそこを突破する気なの?
「あ……」
アレンさんは1体のヒューデットを視界に捉えていた。あれは確かアレンさんの母親だったはず。
剣を握る手に力が入り、アレンさんの悔しさが、伝わってくる。リーパーさんもそれに気づいたようでハッとする。
「私も……戦います!まだ死にたくない、ここを生き延びてみんなの分まで生きるんです!」
「アレンすまない。俺が弱気になっていたようだ。最初から諦めるなんて俺らしくないな。」
全員で来た道を振り返り、リーパーさんは弓を構える。
「お前が覚悟を決めているってことが分かったんだ。俺も負けていられない。」
「ふっ……全員で生き残るぞっ、来た道を阻むヒューデットを突破して入口まで戻る!」
リーパーさんの言葉に苦笑いを浮かべたアレンさんは極わずかな時間で表情を引き締め、号令を掛けた。




