魔法戦士と憧れの眼差し
現在時刻午前8時55分。
朝食も済ませ、装備をして冒険者へ行くと、リーエンが先についていた。
動きやすさ重視なのか、レザーアーマーと短パンという格好で、腰には1本の短剣と布袋を吊り下げていた。
「あ、おはようございますツキモトさん!」
リーエンは俺の姿を見つけると、駆け寄ってきてぺこりと挨拶をする。
「ああ、おはよう。リーエンは戦士なのか?」
短剣は、使い込んでいるのか持ち手に少し汚れが付いており、刃の部分も傷が入っている。
それほど使っているということは、魔法使いではなく多分戦士なんだろう。
「そうですよ、ツキモトさんも戦士なんですか?短剣持っていますけど」
リーエンの視線が俺の腰に付けている短剣に注がれる。
「いや、俺は魔法使いだ。短剣は魔力が無くなった時とか、投げたりして使うだけだ。」
「なるほど、魔法使いなんですね。魔法ってたくさんあるみたいですけど、強い魔法とか使えるんですか?」
強い魔法というのは上級魔法とかのことだろうか?
「中級魔法までなら使えるよ。流石に上級魔法はまだだが、中級魔法でもヒューデットは倒せるから安心してくれ
さあ、クエスト選ぼう。」
「そうなんですね、頼りにしてますね!」
リーエンは笑顔でそう言って、冒険者ギルドの中に入る。俺も冒険者ギルドの中に入り、一緒にクエストを確認する。
「いつもよりヒーリンソウの採取クエストが多いですね……。」
クエストが書かれている紙を見渡しながらポツリとリーエンが呟く。確かにいつもよりもヒーリンソウの採取クエストが多い気がする。
「よし、これにします!」
1枚の紙を剥がす。
その紙には、ヒーリンソウ30本を採取と書かれていた。
数が多いかわりに、その分クエスト達成した際の報酬も多い。
「数が多いが、大丈夫か?」
「ヒーリンソウはどんな環境でも育つことが出来るので、色んなところに生えているんです。だから多分数は大丈夫だと思います。」
「そうか、ならそのクエストを受けるとしようか。」
「すみません、このヒーリンソウの採取クエストを受けます。この人はDランク冒険者でクエストに付き添ってくれるツキモトさんです。」
受付へと向かい、リーエンがヒーリンソウの採取クエストの紙とギルドカードを職員に渡す。
「はい、分かりました。ツキモトさんは追加でこのクエストを受けてもらいますね。」
職員が紙を見せてくる。そこにはヒューデットが現れた際のEランク以下の冒険者の護衛のクエストが書いてあった。
「護衛時間1時間につき、3000ギル。ヒューデットを討伐すれば1体につき20000ギル、変異種の場合は30000ギルの報酬が支払われます。倒した際は、ギルドカードに表示されます。」
職員が俺のギルドカードをタップし、クエストを受注させ、俺にギルドカードを手渡しながらまだ言わないといけないことがあったのか、それと……と、口を開く。
「少し前から目撃されるヒューデットの数が増えていますが、昨日からさらに数は増え、変異種の目撃数も増えています。どうか充分に気をつけて下さい。」
「どんどん状況が悪くなっている気がするな」
「はい、なのでCランク以上の冒険者で調査隊が組まれ、原因を発見すべく、今日の朝に出発しました。原因が分かれば、このヒューデットの撃破に貢献していただいたツキモト様にもお知らせします。」
「そうか……とりあえず充分に気をつけていくことにしよう。」
隣のリーエンもそれに同意するようにこちらを見てこくりと頷いた。
「これで15本目ですね。」
あれから2時間後、つい最近、リーフと一緒にヒューデットの撃破クエストを受けた森の中でヒーリンソウの採取をしていた。
リーエンの言っていた通り、ヒーリンソウは日の当たるところはもちろん、木の影や落ち葉の下など、日の当たらないところにも生えていた。
「あと半分ってところか。」
リーエンがヒーリンソウの採取をしている間、いつでもリーエンを守れる位置で、俺は辺りを警戒する。
この2時間の間で、ヒューデット3体と遭遇した。
全部、1体ずつの遭遇だったため、1人でも難なく倒せた。
「〈魔の気配・察せよ波動〉……ん?」
視界が悪い森での行動ということで『エリアハック』で頻繁に辺りをサーチしているが、今回はさっきまでとは違った生命体の反応をキャッチする。
『エリアハック』は、最大で5体までの生命体を察知できるが、今回は5体以上の反応があり、どれくらいの数か察知できない。
「リーエン、俺の後ろに隠れろ。近くに5体以上の生命体の反応がある。」
「わ、分かりました!」
リーエンは怯えた表情を浮かべながら、俺の後ろに隠れる。
それと同時に近くからガサガサと草木の揺れる音が響く。ちなみに『無は有に』は使用しないでおく。再使用に1分かかるため、あれはいざとなった時に備えて温存しておく。
「ッ……〈更なる魔力纏いて・爆ぜよ魔弾〉」
音の鳴った方を向き、『マジックボム』の詠唱をすませ、いつでも放てるように、右手に魔法を用意しておく。
ガサガサとした音はどんどん近くなり……『マジックボム』を放とうとし、その音を発生させた原因が姿を現すと、俺は出かかっていた『マジックボム』を急遽中断する。
『マジックボム』に費やされた分の魔力が全て俺の体に戻っていくるのを感じながら、声をかける。
「アイオン達か」
「ん、その声はユウキか?」
目の前に現れたのはアイオン、そしてリーフとともに助けた
子供達の姿があった。
子供達はあの時と同じく5人組でアイオンをいれて6人。なるほど、だから『エリアハック』で5人以上の反応があったのか。
それに『エリアハック』の効果は生命体の反応をキャッチする効果。今まで魔物達の反応しかキャッチしていなかったから忘れていたが、生命体というからには当然人間の反応もキャッチする。
なんだ、と思いながら俺は力を抜いた。
「お前達はクエストは順調か?」
あの後、ヒューデットの数が多いため、一緒にクエストを受けないか?とアイオンから申し出があり、承諾して俺たちは8人で今、森を歩いている。
子供達のクエストはスライムの討伐であり、もう終えたらしいが、何度もヒューデットと遭遇し、5人もいる子供達を守るのに手間取り、どうにか安全性を確保できないか悩んでいたそうだ。
「お姉さん、ヒーリンソウここにもありましたよ!」
魔法使いの女の子、確かリリィという名前だったか?その子がヒーリンソウを見つけ、リーエンを呼ぶ。
「あ、本当ですね、ありがとうございます!」
今は子供達がリーエンのクエストを手伝っており、ヒーリンソウもあと数本でクエスト達成となるところまできていた。
「悪いな手伝ってもらって」
その様子を近くで見守りながら、俺と同じく子供達を見守っていたアイオンに礼を言う。
「俺は構わないさ。あの子達が手伝いたいと言ったから、俺も手伝っているだけさ。
あの子達の将来が楽しみだ。特にリーダーのドリバーは魔法戦士だ。上手く戦技と魔法を使いこなせば、かなり上までいける。」
アイオンの視線を追うと、つり目の鉄製の剣を持った少年にたどり着く。確か、俺達がヒューデットと戦う時に警告してくれた少年だな。
「魔法戦士か、魔法戦士ってステータスは戦士と同じなのか?」
「いや、魔法戦士は結構特別でな。筋力、魔戦技攻撃力、魔戦技防御力、魔戦技回復力、魔戦技制御力、魔力回復速度、魔力量の7つのステータスがある。この魔戦技攻撃力、魔戦技防御力、魔戦技回復力、魔戦技制御力が特殊でな、その者の戦技攻撃力と魔法攻撃力を足して半分に割ったものが魔戦技攻撃力だ。魔戦技防御力と魔戦技回復力、魔戦技制御力も同じだ。なあドリバー、ちょっとお前のステータスをユウキに見せてくれてやってくれないか?」
「え、ああいいですよ」
ヒーリンソウを探していたドリバーを呼び、ギルドカードを受け取ると俺に見せてくる。
ドリバー・エラッセ(14)
魔法戦士 得意属性【火】
筋力 F++
魔戦技攻撃力 E-(戦技攻撃力 E 魔法攻撃力 E--)
魔戦技防御力 E--(戦技防御力 E- 魔法防御力 F+)
魔戦技回復力 F(戦技回復力 F 魔法回復力 F)
魔戦技制御力 E+(戦技制御力 E++ 魔法制御力 E)
魔力回復速度 E
魔力量 E+
Eランク
スキル欄(3)
電光石火
「なんか情報量が多いな。」
「まあな。見てわかる通り、ドリバーは魔法よりも少しだが、戦技を扱う方が得意だ。だが、魔法戦士ってのは、戦技と魔法の両立が重要だ。慣れれば、戦技と魔法を混合させた魔戦技という強力な力も使えるからな。
まあどっちも使える分、デメリットとして本家の戦士よりも筋力は実質3段階下相当、つまり今のドリバーの筋力は戦士で言うところのF相当で、魔力量も本家の魔法使いよりも3段階下であるE-相当だ。
だから魔法戦士っていうのは、戦士と魔法使いよりも努力しないといけない分、成長したら強力になるってことだ。
ドリバー、お前はかなり筋もいいからな。期待しているぞ。」
「はい!」
俺に一通り説明したあと、ギルドカードをドリバーに返却しながら、アイオンがドリバーの肩を叩くと、嬉しそうにドリバーはヒーリンソウを見つけに、走っていった。
「まあ魔法戦士についての説明はこんなところだな。」
「ありがとうアイオン。今まで魔法戦士という存在に会わなかったからいい勉強になった。」
「どういたしましてユウキ殿」
冗談らしく貴族のような礼の仕草をするアイオンに少しオレは笑ってしまった。
「これで30本だな。もう少しで日も暮れるだろうし、そろそろ帰るとしよう。」
目的のヒーリンソウを30本集め終わり、アイオンが提案する。
「皆さんありがとうございました。おもったよりも見つけるのに苦労しましたが、皆さんが手伝ってくれたおかげで日が暮れる前に集めることが出来ました。」
主にヒーリンソウを見つけるのに協力した子供達に、リーエンは礼を言った。
ヒーリンソウの採取クエストが多かったこともあり、すでに大量にヒーリンソウが採取されていたため、途中からヒーリンソウを見つけるのに時間がかかり出した。
俺もヒーリンソウを見つけるのを手伝おうとしたが、あくまでも俺達のクエストはヒューデットから守ること。
同じくらいのランクであるドリバー達ならともかく、あまり上のランクである自分達が手伝うと本人のためにもならないとアイオンから言われたので途中からはヒューデットの警戒に徹していた。
「結構森の奥まで来たから注意しとかないとな。〈魔の気配・察せよ波動〉」
俺はそう言いながら、『エリアハック』を発動する。
この中で探知系の魔法を使えるのは俺だけであるため、俺が1番前に立ち、ヒューデットがいないか確認する。
「この『エリアハック』っていう魔法は、辺りの生命体を察知できる魔法なんですね。なるほど!」
俺の『エリアハック』を目をキラキラさせて見ている少女に目を向ける。
名前をこの前知ったリリィという少女。この子は大魔法使いになることを夢みているそうで、俺が魔法を発動する度に色々と質問してくる。
すごいすごいと、褒めてくれるため、悪い気はしない。
「ちなみに察知できるのは最大で5体までだ。それ以上いると、数の把握が出来ないから、注意するんだぞ。」
「分かりました!私も早く中級魔法、覚えたいなぁ〜。」
「リリィならきっと近いうちに覚えられるよ!」
リリィの呟きに、体が大きくタンク役を引き受けているランディが笑顔で答える。
「そうかな〜?」
「リリィは攻撃魔法が上手だから、攻撃魔法を教えてもらったらいいんじゃないかな?」
ランディの言葉に確かに……とリリィは頷き、俺をキラキラとした目で見てくる。
「まあ攻撃魔法もあるが、実際に見た方がいいと思う。でも、今は『エリアハック』で魔力を温存したいから、敵と接敵した時に、見せよう。」
「ほんとですか!ありがとうございます!」
こう言った以上失敗は出来ないな。
そう思いながら、再び『エリアハック』を発動させた。




