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銀髪少女との約束


「アイオン、クエスト帰りか?」


「……ん、おおユウキじゃないか!」


アイオンに声をかけると、一瞬間が空いたが、俯かせていた顔を上げ、表情を明るくする。

しかし、その表情にはほんの少し陰りがあり、無理に笑顔を取り繕っているのが分かる。


「えっと……なにかあったのか?」


「いや、なんでもないぞ?それよりユウキは夕飯は食ったか?」


「え、いやまだだけど……。」


「そうか、なら一緒に夕飯でもどうだ?近くに行きつけの店があるんだ。俺が奢るぞ。」


「いいのか?じゃあお言葉に甘えて」


直接何かあったか聞いてみるが、はぐらかされた気がする。

まあいいか、食事の時にもう1度聞いて、その時に聞き出せなかったら諦めるとしよう。

もしかしたら、余計な気遣いと思われるかもしれないし。

そう考えながら、アイオンとともに近くの飲食店に向かって行った。






「いらっしゃいませー」


夕飯時ということもあり、中はそこそこに混んでいた。

俺達は空いていた隅っこの席に座って、メニュー表を取り出す。そこに店員がピッチャーとコップを2つ、それとナイフやフォーク、スプーンを置いて立ち去っていく。


「どうも、さて何を頼もうか……」


メニュー表は字だけで、もちろん写真とかはない。だから料理名を見て、どんな食べ物か想像しないといけない訳だが、よく分からないものもある。

このブルースライムゼリーってなんだ?もしかしてあの本物のスライムを使ったゼリーなのか?めっちゃぬめぬめしていそうなんだが。


「……チキンバードの炭火焼きと緑たっぷり野菜盛り、あとはパンでいいか。」


チキンバードは昨日リーフに食べさせてもらったからどんなものか分かるし、この緑たっぷり野菜盛りもなんかレタスとか緑色の野菜がたっぷりあるものと予想がつく。パンは普通にパンだろう。


「決まったか?じゃあ店員を呼ぶか。おーい、注文決まったから来てくれー」


アイオンが近くにいた俺とあまり歳が変わらないであろろ一房の髪を横に結んだ銀髪の少女に声をかける。


「はーい、アイオンさんこんにちは!今日もここでお食事ですか?」


「ここのエールは美味いからな。いつも足がここに向かっちまう。」


「ふふ、それは良かったです。それでご注文は?」


「えーと、俺がエールとチキンバードの甘酢漬け、ブラックボアのステーキとパンを3つくれ。」


アイオンが注文を終えた後、俺はさっき目をつけていた3つの料理名を店員に伝えると、しばらくお待ちくださいとひと言言った後、厨房へと向かっていく。


「あいつもだいぶ接客が上手くなったな。」


今注文をとった店員を見つめながら、アイオンは自分の子供を見るような表情をしていた。


「知り合いなのか?仲も良さそうだったけど」


「まあな、少し前に出会ってな、母親の体調が悪く、母親の薬代を稼いでるみたいなんだ。昼は冒険者をして夕方からはここでアルバイトしているらしいぞ。

たまにクエストの相談とかされるんだ。」


「なんか大変そうだな。父親はいないのか?」


「数年前に出ていったそうだ。ちょうどあの子の母親が体調が悪化し始めた時に、母親の薬にいちいち金なんて使ってられるか、母親を治したいならお前が働いて金稼げって言いながら」


アイオンが顔を顰めながら、2つのコップに水を注ぐ。


「ったく、何考えてんだかな。娘に全て押し付けて自分は逃げて。

まあいい。ところで今日は何をしてたんだ?冒険者ギルドには顔を出さなかったみたいだが」


水を注いだコップを1つ俺に配り、アイオンは話題を変える。


「今日はちょっと図書館で調べ物をしてたんだ。ほら、魔法創造で俺は魔法を作れるだろ?他の加護持ちはどんな魔法を作っているのか興味があってな。」


嘘は言ってない。


「ああ、魔法創造か。それで、どんなものがあったんだ?」


「今日見たのは、『雷電陣(エレキフロア)』、『重力破壊(グラビティブレイク)』、『操り人形(マリオネットドール)』だったかな。」


「おお、『雷電陣(エレキフロア)』、『重力破壊(グラビティブレイク)』は知ってるぞ。特に『雷電陣(エレキフロア)』は有名だな。」


「そうなのか?」


「ああ、15年前の魔物達との戦いで雷の加護を持った男がいたんだが、そいつが魔物達との戦いで使ったのが、『雷電陣(エレキフロア)』だ。その男はその戦いで戦果を挙げて今はこのペティオ王国の貴族だ。雷帝って呼ばれていて、たまに強力な魔物や悪魔が出現した時に出てくることもあるらしいぞ。」


『雷電陣(エレキフロア)』の使い手は思ったよりも有名らしい。

やっぱり、魔法創造という力は強力なんだろうな。


「確か『雷電陣(エレキフロア)』の効果は、自分の周囲に雷属性、雷電属性のあらゆる効果を上昇させる魔法陣を設置する魔法だったはずだ。単純だが、強力な魔法で1万以上の魔物を倒したらしいぞ。」


「へえ……『操り人形(マリオネットドール)』は知らないのか?」


今話題に上がらなかったもう1つの魔法の名を上げてみる。


操り人形(マリオネットドール)か。聞いたことがない魔法だな。どんな効果なんだ?」


図書館で見た効果を思い出す。


「確か、相手を操る系の魔法だったな。」


「操る魔法か……。強そうだが、制約がありそうだな。自分よりランクが高い相手は操れない、みたいな。」


図書館で見た時の説明は相手を操ることが出来る魔法としか書かれていなかった。もしかしたら魔法の持ち主が自分の手の内を晒したくないから公開する情報を絞ったという可能性もあるだろう。


操り人形(マリオネットドール)ね。長いこと冒険者をしてきたが、いつそんな魔法を使うやつが出てきたんだか。

基本的に強いやつは目立つ。そして、冒険者の間で話題になるから、自然と耳に入ってくるもんだが……。」


「弱かったから話題にならなかったとか?」


でも、相手を操れるという魔法に弱い点はない気がする。まあ、情報が少ないから何かしらデメリットがあってそのせいで弱いという点も捨てきれないが。


「それか俺が冒険者活動をしていなかった時期に話題になったか……だな。」


「冒険者活動をしてなかった時期とかあったのか?」


「まあ、色々あってな。半年前から1か月前まで少し休んでいたんだ。」


ここでアイオンの雰囲気が少し変化したのを俺は察した。

アイオンにさっき会った時……その時と同じ雰囲気が漂う。


「あのさ、アイオン。」


「ん?」


ここがチャンスと見た俺は聞いてみることにした。


「さっきアイオンと会った時、元気がなさそうに見えたんだ。今日何かあったのか?

もしよかったら俺に聞かせてくれないか?アイオンは俺の命の恩人だし、なにか恩を返したいと思っていたんだ。」


少し緊張しながらもアイオンに提案する。

恩を与えてもらったから、恩を返したい。そう言う事でアイオンから言葉を引き出そうと試みる。


「……別に何も無いさ。それにお前に心配されなくても大丈夫だ。……ああ、大丈夫。」


大きな手を俺の頭にのせ、子供にするように強く撫でながら、大丈夫、大丈夫と自分自身に言い聞かせるようにアイオンは小さく呟く。

アイオンからなにか聞けると思ったが、ダメらしい。


「……分かった。だが、聞いて欲しくなったらいつでも言ってくれ。」


その言葉にアイオンは軽く微笑むだけでなにも言ってこなかった。







「お待たせしました。」


あの後、話題を他のものに変え、話していると、先程と同じ銀髪の店員がトレーの上に注文した品をのせ、運んできていた。


「リーエン……母親の容態はどうだ?」


料理を机の上に置くリーエンと呼んだ店員にアイオンが心配そうに質問する。


「まだ薬が少し残っているので、容態は安定してます。ですが、最近は冒険者の仕事の方が……」


「ああ、リーエンはまだFランクだったもんな。それにソロだし。」


Fランクのクエストだと、ヒーリンソウの採取やゴブリン、スライムの討伐などが主な仕事だ。

ある程度金は稼げるが、最近だとヒューデットが出てきたし、Dランクの冒険者がついていないとクエストさえ受けられなくなっている。


「……?」


アイオンからなんか視線を感じるな。


「ユウキ……確かDランクだったよな?ガローに聞いたぞ、ランクアップしたって」


「え、Dランクなんですか……凄いですね。」


アイオンにつられて、リーエンまで俺を見てくる。


「最近はガローに扱き使われまくって、母親のために頑張っている少女を助けてあげたいんだけどなー。

明日も別のEランクのパーティーの付き添いのクエストがあるし、行けないんだよなー。あーあー、どこかにヒューデットと戦い慣れて、人1人くらい守れるようなDランク冒険者はいないかなー?」


わざとらしく言いながら、チラッチラッ、とアイオンが俺を見てくる。


「リーエン、薬は後どのくらい残ってるんだ?それと『もし』冒険者のクエストが受けれるならいつ受けたい?」


やたらと、もしを強調し、アイオンは再びリーエンに質問する。


「薬はあと2日分ですね。クエストは出来れば早めに受けたいですね。明日……とか。お金もあまりないですから。」


「そうかー、さっきも言ったけど俺は明日クエストがあるんだよなー。ユウキは何かやることあるのか?」


ニヤニヤと、先程の雰囲気とは一転し、ニヤニヤと笑みを浮かべながらアイオンが尋ねてくる。

ちょっと怖い……。


「いや、まあ何もやることはないかな……うん」


目だけを逸らし、一言答える。だんだん俺の声が小さくなってる気がする。

そんななか、リーエンはギュッと自分の拳を握りながら、覚悟を決めたかのように俺に体を向けて口を開く。


「あの……明日私と組んでクエストを受けて貰えませんでしょうか?」


ここまでリーエンの事情を知ってしまったし、アイオンもどうか行ってやってくれないか、と目で訴えている。


「分かった、明日一緒にクエストを受けよう。」


「本当ですか!」


「あ、ああ本当だ。」


リーエンは俺の手をギュッと掴み、満面の笑みを浮かべる。

若干気圧されながらも、返事をする。


「流石はユウキだ。俺は受けてくれると信じていたぜ。」


チキンバードの甘酢漬けをナイフとフォークで切り、口に運びながらアイオンは言った。


「それで……明日はなんのクエストを受けるんだ?」


「採取系のクエストを受けようかなと。私戦闘は苦手なので」


軽く笑みを浮かべながら、リーエンは言う。


「ちゃんと守ってやってくれよユウキ。」


「分かってるよ、こうやって承諾した以上見捨てるようなことはしないさ。」


「じゃあ、明日はお願いしますね。集合は9時に冒険者ギルドでいいですか?」


「ああ、大丈夫だ。」


集合時間と場所を確認後、リーエンは他の客に呼ばれ、仕事に戻っていく。


「ありがとうなユウキ。」


パンにナイフで切り込みを入れていると、アイオンが礼を言ってきた。


「構わないさ、どうせ明日はなにかクエストでも受けようかと思っていたからな。」


パンに切り込みを入れた俺は、野菜盛りからレタスを数枚取り出してチキンバードの炭火焼きを包んでパンの間に入れてパクリと食べる。


「うまあー」


炭火焼きを噛む度に肉汁と味が口内で広く染み渡り、そこにシャキシャキとしたレタスが加わり、炭火焼きの油っこさを押さえつけ、さらに2つと相性のいいパンが味を引き立てる。

うん、美味い!


「変わった食べ方をするもんだな。」


「そうか?一口でパン、肉、野菜の味が味わえるから美味いぞ。」


不思議そうな目でアイオンに見られる。ホットドッグ的な食べ方はこの世界では流行っていないのだろうか?


「俺も今度真似してみるとするか。」


パンと甘酢漬けを交互に食べながらアイオンはそう言った。






「奢ってもらって悪いな。」


料理を食べ終えた俺達は、店の外に出る。最初の約束通り、アイオンに奢ってもらった俺はアイオンに礼を言う。


「構わない、その代わり明日は頼むぞ。」


「分かってる、それじゃあな。」


アイオンと別れ、俺は宿に向かう。

これで後は体を洗って寝るだけ……と言いたいが、まだひとつやることがある。


「さて、魔法創造……これを使って俺だけの魔法を作るとしますか」




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