神気解放という力
「ミランの嬢ちゃん行っちまったなぁ。寂しくねえのか?」
リーフ達を見送ると、門番をしていたあのおっちゃんが暇そうな表情をしながら話しかけてきた。
「ああ、だがまた明後日ビギシティに来るからな。5日後に王都行きへの馬車が来るみたいだから、その馬車に乗って一緒に王都に行くんだ。」
「へぇ、王都に一体何しに行くんだ?」
「ハーパン学園に一緒に入学して、魔法について学ぼうかと思ってな。」
「なるほどなー、 あそこなら魔法についての知識も蓄えられるからうってつけだな。勉強頑張れよ。」
そう言って、おっさんは再び仕事に戻って行った。
「さーて、今日はどうするかな。」
1度伸びをして、何をするか思考する。
器の欠片の権能と神気解放の検証、魔法創造による自分だけのオリジナルの魔法の作成、中級魔法の精度を上げるための特訓……。
今のところやるべきことの候補がこれだ。
「いや、まずはヒューデット対策をしないと。……新しく防具でも買ってみるか?」
昨日の巨大なヒューデットの変異種を思い出し、考えを改める。
あの時はリーフがいたが、今はいない。クエストを受けた際にヒューデットに出会った場合は、1人で何とかしなければならないため、慎重に行動しないといけない。
「道具屋にでも行ってみるか。」
お金も20万ギル以上あり、ハーパン学園に入学するために必要な15万ギル以外に使えるお金が残っているため、新たな防具を見てみることにした。
「らっしゃーい、ビギナー坊主。」
「なんだその名前。」
道具屋に入ると、前と同じ50近くのムキムキのおっさんが、口元に笑みを浮かべながら出迎えてくれた。
「これを見てみろ、Dランクはビギナーじゃないと思うぞ。」
少しムッときたので、ギルドカードを取り出し、おっさんに見せつける。
「ほおー?Dランクなのかお前。」
「前に来た時はEランクだったけど、ここ数日でDランクに上がったんだよ。」
「まさかあれか?新種のヒューデットってやつを狩りまくったのか?あいつDランク並の魔物って冒険者ギルドが言ってたみたいだが……。」
「なんだ、知ってるのか。そうだよ、ヒューデットが増えてきて昨日ヒューデットを倒すクエストを受けてたら上がったんだ。」
「なるほどな……ん、グレイトウルフの防具に少し傷が出来てんな?」
俺が身につけていたグレイトウルフの防具を見ておっさんが髭を撫でながら呟く。
「こいつにはかなり世話になってるよ。昨日なんてこれがなかったら死んでたかもな。」
「ヒューデットってのはそんな強いのか……。で、不安になったお客さんは新しく防具をご所望というわけか?」
このおっさん鋭いな。
「そんなとこだ。出来れば、軽くて物理攻撃に強い防具がいいんだが……。」
「なら、このレザーアーマーがいいだろうな。人気があって初心者も中級者も使ってるんだ。グレイトウルフの防具の下に着れるからちょうどいいと思うぞ。」
黒色の下着みたいなものをおっさんが取り出す。
触ってみると、薄く軽いが、前の方に衝撃を吸収する機構があるのか、軽く叩いてみるとこつんと音が鳴った。
「それが衝撃を吸収するんだ。あまり大きすぎる衝撃だとぶっ壊れちまうが、グレイトウルフの防具もあれば2重で衝撃を吸収するから、そうそう壊れることは無いだろうな。」
「へえ、いいな。ちなみにいくらだ?」
「5万ギルだな。」
グレイトウルフの防具は15万ギルと高かったが、その3分の1とは。
「意外と安いなって思ったろ?グレイトウルフの防具が高いだけだ。」
思っていたことが顔に出ていたらしい。
「とりあえず、レザーアーマーを1つくれ。あとは……」
ついでに中級ポーション2本と中級魔石を1個を買い足しておく。昨日使ってまだ買い足してなかったからな。
ヒューデットもいる以上、常に中級ポーション3本と中級魔石5個持っておくようにしておく。
「んじゃ、レザーアーマー5万ギル、中級ポーション、中級魔石それぞれ8000ギル……全部で74000ギルだな。」
「今更だが、ポーションや魔石ってかなり値段が高いな。」
74000ギル取り出しながら、気になっていたことを言ってみる。
「魔王が復活するまではこんな値段じゃなかったんだがな……魔物が強くなって以降、頻繁に強い魔物や悪魔が出現して討伐隊が結成され、そこで大量にポーションと魔石が消費されるようになって品薄状態が続いたんだ。それに、冒険者達も以前よりも多く使うようになったからこんな値段になったんだよ。
今は前よりはマシだぞ?中級で1つ10000ギルを越えることもあった。」
最近はポーションも魔石も生産量が多くなって値段はそこそこの値段になったけどな、と話しながら、レザーアーマーと中級ポーションと中級魔石を渡してくる。
「生産量を増やしたってどうやったんだ?」
「魔石はDランク以上の魔物から取れる。魔石に入っている邪気を取り払って魔力を注ぎ込むと使えるようになるんだ。魔王が復活し、魔物が強くなってそれだけDランク以上の魔物が増えて、時間が経って人々も慣れてきて魔物も倒せるようになり、魔石も取れる量が増えたって訳だ。
ポーションはヒーリンソウが材料ってのは知っているな?ポーションを作る際にヒーリンソウに魔力を込めるほど、大量のポーションが出来る。魔石が増えたから、大量の魔力を込めることが出来てポーションも増えたってことだ。」
「なるほど、Dランクってことはヒューデットからも取れるのか?」
少なくとも今までヒューデットを倒して魔石を手に入れたという出来事はない。
「ヒューデットはべつだろうな。魔石ってのは魔物が生まれた時に魔物の体内に作られるものだ。ヒューデットってのは元々人間なんだろ?ヒューデットから魔石が取れたって話も聞かないし、ヒューデットからは取れないんだろうな。」
「ふーん、にしても10000ギル越えってのはやばいな。」
冒険者にはポーションも魔石も必要ということが、ここ数日でよく分かったため、かなりの値段で売られていたことに驚愕する。
「それだけ昔は追い詰められてたんだよ。最近は、皆魔物の強さに慣れてきて、昔よりは死者も減ったが……それでも人々の不安が無くなったって訳でもないのさ。お前さんも気をつけるんだぞ。」
心配そうな表情で俺を見つめる。
「ヒューデットのやばさも分かってるつもりさ。
まあ、ありがとう。気をつけるよ。」
苦笑いしながら、扉に手をかけ、俺は外に出た。
「さて、とりあえずは神気解放から試してみるか。」
あの後、レザーアーマーを装備し、ビギシティからそこまで離れていない湖の近くへと来た。
今までは平原や森に向かったが、この湖の近くはスライムくらいしかいないと冒険者ギルドで情報を掴み、行き先を変更してこの湖を選んだ。
スライムくらいしかいないため、他の冒険者などもいないし、ビギシティの近くというのもあるが、神気解放を発動したとしても、すぐにビギシティに戻ることが出来るというのが一番の理由だ。
何故かと言うと、神気解放を発動してから、一定時間過ぎると、ステータスが3分の1まで下がってしまうからだ。
「器よ、こい!」
誰もいないことを確認し、器の欠片を呼び出す。
すると、俺の体から器の形をした器の欠片が2つ飛び出し、俺の周りをくるくると回る。
手を伸ばすと、2つのうち1つの欠片が手の中に収まり、もう1つの欠片は変わらずくるくると回り続けている。
「いくぞ……神気解放!」
手の中にある欠片に魔力を注ぎながら、力を込めた。
パキンと音が鳴り、手の中にある欠片、そして回り続けていた欠片も動きを止め、同時に粉々に碎ける。
紫の粒子が高速で俺の周りを回り、一気に体に吸収される。
「――っ!」
凄まじいほどの力が身体中を駆け巡る。
全身が紫色に光り、ほんの数秒後に光が収まり、自分の体を見ると、グレイトウルフの防具やレザーアーマーが消え、シャツはそのままだが、新たに紫色のロングコート、その下に黒のベスト、そしてズボンは2つのチャック付きのポケットがついた紫色のカジュアルパンツ、靴は紫色のスニーカーと紫色だらけの装備に変わっていた。
しかし、どれも物理攻撃、魔法攻撃に対する高い耐性があり、ロングコート以外の装備は今まで以上に動きやすくなり、ロングコートはさらに高い物理攻撃、魔法攻撃に対する耐性があることが装備が変更した直後に分かった。
「凄いな、力が漲る。」
神気解放によりさらにステータスが上がっているなので、実際にステータスを見てみることにする。
ユウキ・ツキモト (17)
魔法使い 得意属性【無】
魔法攻撃力 E+
魔法防御力 E
魔法回復力 E-
魔法制御力 D+
魔力回復速度 E++
魔力量 B--
Dランク
スキル欄(4)
詠唱省略(小)
デュアルアクション
マルチターゲット
EXスキル
無の加護(真・無属性)
器の欠片(2)
器の加護
マジックシェア
「魔力量が凄いことになってる。」
神気解放により、器の加護が封じられていた器の欠片により、魔法制御力、魔力回復速度が1段階上昇。魔力量が3段階上昇。
マジックシェアの力が封じられていた器の欠片により、魔法回復力が1段階上昇。魔力量が2段階上昇。
全部で魔法回復力、魔法制御力、魔力回復速度が1段階ずつ上昇し、魔力量に至っては5段階も上昇したことになる。
さらに、魔物や、悪魔に対して、魔法攻撃をする時は使用する攻撃魔法の魔法攻撃力が1.5倍。
防御魔法を使う際は、使用する魔法の魔法防御力が1.5倍。魔物や悪魔から受けた傷を回復する際に回復魔法を使用すると、魔法の魔法回復力も1.5倍になるという効果もあるもあるため、改めて神気解放はとんでもない力だということを再確認した。




