政権交代で日本人ファーストを実現したら古の水神様が顕現して神国日本の男女が本当の幸せのありかを悟り新しい時代を切り開いてしまいそうなぐらいこわい話がひどいひどい
玄界灘の九州本土から約60キロメートル離れた地点に浮かぶ小さな島。
沖ノ島。
よく晴れた夏の朝。
島の山頂近くにある灯台の中から若い男二人が海と空を見ていた。
「視界内に敵機無し。エンジン音らしきものも無し……と」
「肉眼での対空監視なんてたかが知れているけどな」
「しないよりマシだ。ドローンは無理でもジェットの軍用機なら音なりなんなりで分かるだろ」
「まぁ、できる限りのことはするか。それにしても、晴れているけど海上の霧は晴れないな」
晴れた青空の下に広がる海。
しかし、全周囲およそ3キロメートル先からは霧のようなもので覆われており先が見えない。
「あの霧、自然現象かどうか怪しいけど、まあいいか。食料の確保行くか」
「そうだな。中坊とヒメのためにもハイカロリーなものが欲しいな」
作業服姿の若い男二人は灯台の階段を降りて深い山林の中に入った。
島全体が【聖域】とされており一般人の立ち入りができないこの島で、男二人がこんな事をしているのには理由がある。
日本という国は滅びたのだ。
………………
…………
……
半年前の総選挙で【日本人ファースト】を公約に掲げる新興政党の【愛政党】が政権を奪取。発足した新政権は公約通り、インフラ事業からの海外資本の締め出しや在日外国人の追い出しを強行。
さらに、日本企業優先の経済政策も推進して外交関係は急速に悪化。
対日貿易赤字が膨らみ国内経済に悪影響が出た米中露は、日本製品に対する関税とエネルギー資源の禁輸という形で日本政府に警告。
新政権はそれらへの報復として外交機密の暴露という暴挙に出た。
暴露された機密の中には、米中で発生したバブル経済を日本国民が保有する金融資産で補填する密約と、その資金確保のために前政権が行った日本国内の増税や為替操作のプロセスも含まれていた。
この暴露により米中の信用不安が発生し、バブル経済は崩壊。
その余波は大きく、世界恐慌の再来となった。
外交機密の暴露という禁じ手を行った日本政府は国際社会からの信用を失った。そして、世界恐慌の元凶を絶つという名目で米中露の3カ国連合軍は日本に侵攻。
開戦初日に通信と交通のインフラを空爆で破壊され国内は混乱。
米国との戦闘を想定していなかった自衛隊は緒戦で壊滅。
開戦僅か3日後。空爆と連携して国会議事堂に降下した連合軍のヘリボーン部隊が政府中枢を制圧。東京は陥落した。
内閣及び国会議員は【第二次東京裁判】にて全員【死刑】が確定し、即日執行。
日本政府は解体され、日本という国は世界から消滅した。
「それにしても、あっさり滅びたなぁ」
「そうだなぁ。一瞬で何もかも失ったなぁ。貯金も、家も、家族も、人権すらも」
男達は、自生している山菜を集めながら山道を下る。
「今思えば、在日外国人を追い出したのがマズかったな」
「確かにな。アメリカも中国も街中に外国人が居れば空爆は躊躇しただろうし。まぁ、たまに近所迷惑だったけど【人質】として割り切ればそんなに悪い奴等じゃなかった」
米中露の核保有3大国に囲まれた日本は、元より地政学的に紛争リスクの高い場所であった。
2010年代以降。世界経済が行き詰まりの兆候を見せる中で、前政権は電力や水道などのインフラ事業への海外企業の誘致と外国人労働者の受け入れを進めた。
日本が紛争に巻き込まれたら外国企業が大損をする。
日本本土に直接攻撃があれば在日外国人が巻き込まれる。
そのような状況を固定化することで日本本土を守る。
苦肉の策ではあったが、抑止力として優れた効果を発揮した。
しかし、政権を奪取した愛政党はそれらを台無しにした。
その結果、米中露が本土侵攻を即断し日本は蹂躙された。
日本政府が消滅したことで日本人は領土と人権を失った。
北海道はロシア領、東日本はアメリカ領、西日本は中国領となり、四国と九州は世界各地の紛争地帯で発生した【難民】達に割譲された。
世界恐慌の引き金となった暴挙により世界の日本人に対する視線は厳しかった。
第二次世界大戦後に敗戦後も独立国家として残された恩を忘れ、世界経済を混乱させる過ちを犯した危険人種として根絶対象と認識された。
確実に日本人を滅ぼすため、支配国の貧民層や、国を持たない難民が移民として日本本土に送り込まれた。
世界の最底辺で虐殺や略奪の中で生まれ育った入植者達は、自分達が世界から受け続けた仕打ちを躊躇なく行った。
上陸時に与えられた武器を持って街に入り、早い者勝ちで気に入った住宅に侵入。住民を殺害して住宅と資産を強奪して入居。
子供は真っ先に殺され、若い女は弄ばれた後殺された。
抵抗する男は殺されたが、自ら全財産を差し出して服従の意志を示した男は【奴隷】として生かされた。
自衛隊員や警察官の生き残りによる組織的な抵抗も散発的に発生したが、米中露による空爆で各個に鎮圧された。
命も財産も力で奪われていく現実の中で日本人達は日本政府に手厚く守られていたことを知った。
そして、自分達が【民意】でそれを破壊したことに気付いた。
しかし、全てが遅すぎた。
【元寇】の再来ともいえる地獄に、【神風】は吹かなかった。
「僕ら何を考えていたんでしょうね。重税とか物価高騰とか、今思えばなんてこと無かったのに」
「今更だ。まぁ、今生きてるだけでも俺達は幸運だ。チャンスをくれた彼等に感謝して今できる事をしようや」
日本人を根絶から救ったのは、日本各地の中学生と高校生だった。
中学校の修学旅行で中国を訪問した際、彼等は【南京大虐殺紀念館】にて被害者遺族を名乗る中国人達に罵倒されながら記念碑の前で土下座を強いられた。
事件に関する歴史的矛盾を指摘した生徒は、男女問わず大衆の前で容赦なく暴行を受けた。そしてそれは硬く口止めされ隠蔽された。
その経験より、子供達は世界を支配しているのは倫理や道徳ではなく暴力であると学んだ。
政権交代の動きが加速する中で、愛政党の掲げる外交政策が戦争を誘発する事を予測。同時に、ポピュリズムに煽られた有権者たちの動きは止められないと判断。
一部の冷静な大人達からの支援を受けて、日本政府消滅後に離島や山間部で自給自足にて潜伏することを想定して密かにサバイバル訓練をしていた。
この島での自給自足生活を支えているのは、訓練を積んだ中学生の男子7名と女子5名。偵察機に見つかって空襲を受けるのを避けるため、島内の洞窟内に潜伏している。
野外での行動を男2人が担っているのは、彼等を守るためである。
「あの子達は本当にすごい」
「そうだな。俺達大人よりもよっぽど冷静に世界を見ていた」
男達は上空と周辺を警戒しながら、山を下り南へと向かう。
男達は20代前半のフリーターだった。
大学卒業後にそれぞれ中規模の会社に就職したが、社風に馴染めず1年持たずに退職。再就職も上手くいかず親にも頼れず、アルバイトで生計を立てて暮らした。
奨学金の借金を背負った状態でのフリーター生活はワーキングプアそのものであった。
収入が安定しないと結婚もできない。将来への希望を見失って困窮の原因を政治に転嫁。仕事の傍らデモ活動に参加するうちに【愛政党】に出会い支持者となった。
政権交代で未来に希望を感じたのもつかの間。
空爆の後で押し寄せた入植者達の容赦ない虐殺を見て自分達の過ちを悟った。
近隣住民が為すすべもなく虐殺されていく中で、抵抗も抗議もしなかった従順さを評価され【奴隷】に抜擢された。
【奴隷】の仕事は惨殺された日本人の遺体の処分。
小型の貨物船に大量の遺体を積んで沖合に捨てる事。
洋上を航走しながら遺体を捨てる。
サメが追いかけてきて海面が赤く染まる。
麻痺した感覚で大量の遺体を捨て続けていたら、波間に女性が漂流しているのが見えた。
操船している軍人の目を盗んで、救命セットを満載した遺体収納袋を抱えて2人で海に飛び込んだ。
脱水症状を起こしていた女性を洋上で救護。
3人で漂流していたら沖ノ島に流れ着いた。
「後先考えず飛び込んだけど、ヒメが助かったのは良かったな」
「そうだな。ヒメは俺達の希望だからな」
男達は山を下りて、島の南端まで来た。
爆撃で破壊された社務所と桟橋の跡地。
男達は上空を警戒しつつ瓦礫の影を通って岸壁に近づく。
そして、海面下を泳ぐ魚とその下に沈んでいる罠を見る。
「魚は多いけど、獲れているかな」
「罠を上げるか」
中学生達がありあわせの材料で作ったもんどり。
これによる漁が島内での自給自足生活の生命線であった。
男達は2人で慎重に罠を上げる。
「豊漁だ。これなら俺達もホネとアラぐらいはありつけるかもな」
「ヒメの食欲次第だけど、あったら嬉しいな」
食料が安定して入手できない状況下。
男達は自らの意志で女と子供が優先して食べるように決めていた。
「なんか、元の生活より今の方が充実してるな」
「そうだな。ヒメが居るからな。なんかもう、それが人生の全てでいいと思う」
「敢えて言おう。ヒメの為なら死ねる」
「おい。ヒメのためを思うなら最後まで生きて食料集めろよ」
男達は軽口を笑いながら獲物を土嚢袋に移す。
島内の女子供を守るのが、全てを失った彼等の生きがいとなっていた。
………………
…………
……
島の山中にある沖津宮本殿の最奥の部屋。
古いながらも綺麗に掃除された部屋で、お腹を大きくした女性が座って時を待っていた。
「私、今が一番幸せかもしれない……」
1人呟いたのは、島の中でヒメと呼ばれている女性。
24歳の一般人であるが、本名が姫子なのでヒメと呼ばれるようになった。
出産予定日を1日過ぎた臨月の妊婦であり、部屋の中に座って陣痛が来るのを待っている。
妹と違って容姿に恵まれなかった姫子は、若いうちしか結婚の機会が得られないという親の勧めで年上のサラリーマンとお見合い結婚した。
自分の立場を理解していた姫子は、家事を担いながらの共働きにも夫の浮気にも耐えた。
妊娠しても働き続けたが、産休まであと2カ月というところで体調が悪化。職場で倒れて救急搬送された。
母子共に一命を取り留めたが、産休に前倒しで入ったことで収入が減ったことと、体調の影響で家事が満足に出来ないことを夫に責められた。
しかし、夫に捨てられたら引き取り手が無いことも理解していたので、姫子は耐えた。
出産予定日まで1カ月を切り、大きくなったお腹と自由に動かない身体で家の掃除をしていた時、緊急速報で米中露が日本に対し【宣戦布告】をしたというニュースが入った。
どうすればよいか分からなかったので夫に電話したら、最期の時ぐらいはキレイな女と寝たいと言われて電話を切られた。
悲しくなって自宅近くの公園のベンチで泣いていたところで、バンで避難中の中高生達に出会った。
半ば拉致に近い形でバンに乗せられ街を脱出。
その直後、街は空爆を受けてパニックになった。
漁港にてバンから小型の漁船に乗り換えて出航。
沖ノ島に向けて航行中に機銃掃射を受けて船は沈没。
執拗に繰り返された機銃掃射にて他の乗組員は全員死亡。
唯一生き残った姫子は、漁船の残骸から【船舶用救難食糧】を回収し1人で洋上を漂流。
水と食料が尽きて死を覚悟した時に、男2人に発見され一命をとりとめた。
そして、3人で海流に流されて沖ノ島に漂着。
別ルートで先に辿り着いていた中学生達により山中の沖津宮本殿に案内された。
「……うん。多分、今が一番幸せ」
洋上で助けてくれた男2人は、浮き輪と飲用水と食料を全部姫子に譲った。
救助が望めない状況下で姫子の生存に賭けたのだ。
脱水症状で男達は先に意識を失ったが、姫子は2人を離さなかった。
生まれて初めて出会った自分を守ってくれる男達。
死んでも離したくなかった。
「なんか、できる気がする」
部屋の中にあるのは、木箱と藁で作ったクッションとタライ。
使える道具は、文房具のハサミとカッターナイフ。
助産師を務めるのは資格も経験も無い女子中学生2人。
参考資料は保健体育の教科書。
出産中に何かがあれば詰んでしまう博打。
しかし、生き残った人間の全ての力が姫子の出産に注がれている。
姫子の出産の成功が日本人を根絶から守るための鍵となる。
この島で姫子が一番大切な存在である。
【喪女】としてぞんざいな扱いを受け続けた姫子にとっては、その扱いが何よりも嬉しかった。
幸せに満たされた姫子は大きく膨らんだお腹を撫でる。
「私を大切にしてくれた人達に、最大限の加護をお願いね……」
沖ノ島は島全体が【水の女神】である田心姫をまつった【聖域】。
そして、この島には禁断の神の魂が封印されている。
始まりの神【天之御中主神】と対になる【終わり】を司る神。神話にも記されていないその神の役割は、狂気に満ちた世界を浄化して新しい世界の礎とする事。
島に妊婦が上陸することで、出産という形で【終わりの神】が顕現してしまう。
これが、沖ノ島が【女人禁制】とされていた理由。
姫子はこの島に上陸した時、子供が【神】を宿したことに気付いた。
そのため、毎日お腹の子供に言い聞かせている。
「貴方は水の神様。【水神】よ。最上位の水神様。とにかく、水を司る神様よ」
姫子はヲタ属性を持っており、日本神話系のパロディ小説が好きだ。
それ故に、伊邪那美命が【火の神】である火之迦具土神を出産した際に大やけどを負って亡くなったエピソードも知っている。
だからこそ、【火の神】だけは勘弁してほしいという切実な思いがあった。
「元気に産まれてね。そしたら、全部水洗いしましょう」
今までの人生を思い出しながら、お腹の中に話しかける姫子。
「いくら技術が進歩しても、育てる親と育つ子供が粗末に扱われる国は失敗作」
姫子の幼少期、共働きの両親はどちらが姉妹の面倒を見るかでよく口論をしていた。
自宅に居場所は無く、保育園、延長保育、デイサービス、体調を崩した時は病児保育といろいろな施設をたらいまわしにされた。
夜になり自宅に送り届けられたら、仕事で疲れ切った両親からは早く寝るように促されるだけ。
何のために生まれたのか分からなくなった。
「共働き推進とかで幼児から親を取り上げる狂った社会は洗い流しましょう」
自分の子供にそんな思いをさせたくなかった。
だから妊娠が発覚した時に、子供が留守番ができる年になるまでは専業主婦で居たいと夫に相談した。
しかし、夫は共働きで生活費折半が常識だと譲らなかった。
妊娠出産を言い訳に仕事から逃げるような女は今の時代負債でしかないとも言われた。
何のために辛い妊娠に耐えて子供を産むのか分からなくなった。
「妊娠した妻に生活費折半を強いる男は、沈めてサメのごちそうにしましょう」
お腹の子供が【神】を宿したなら自分は【神の母】ということになる。
だとしたら、多少の我儘は許されるはず。
母親の精いっぱいの我儘として、次世代の子供達が幸せになれるように尽くそうと思った。
何のために生きてきたか分かった気がした。
「せっかく滅びちゃったんだから、いらないもの全部洗ってきれいして、この島に居る皆で新しい日本を作り直しましょう」
中で子供が喜んでいるように感じた。
水を司る終わりの神の覚醒は近い。
東アジアの片隅から、神国日本の新しい歴史が始まろうとしていた。
●オマケ解説●
ホラーと言えばオカルトが鉄板です。
だけど、死霊とか霊とかよりも、生きている人間のほうがコワイものです。
外交政策のミステイクで国が滅ぼされるのもコワイものです。
そして何より【喪女】の怨みはコワイのです。
サメのごちそうにされないためにも、既婚者の方は妻は大切にしましょう。
※ポイントクレクレ記述
【陰謀論】を材料にして書き溜めた没ネタを寄せ集めてむりやり組み立てたクオリティと育児と仕事の間で葛藤しながら日々努力するワーキングマザーを狙い撃ちにするコンセプトがひどいと思った専業主婦を養う余裕がない若旦那の方が居たら、【ひどい】の証として★1評価をぶち込んでもらえると作者は大喜びで夫婦円満を祈ってあげるかもしれません。
ひどい。ひどい。
ひどいついでに、この作品をChatGPTに読ませて、読みやすく改稿してもらったものもあります。
ページ下部のリンクから飛べます。
(活動報告の本文中に貼り付けてあります)
もう、何もかもやることがひどいひどいひどい。
ひどいは最高の誉め言葉!