6.防衛都市と最高の美人【1】
結局、俺はその後もポムに同道して、目的の街である "防衛都市" にやってきた。
防衛都市とは、その名の通り侵略に備えた街で、街の周囲を石造りの高い城壁で囲ってあり、出入りは一箇所のみだ。
とはいえ、これは "他国からの侵略" に備えたものではなく、ダンジョンやら人跡未踏の地やらから、魔物が溢れて襲ってきた時のための防衛……らしい。
それじゃあ、ここに来る前に立ち寄った村とか、どうすんの? と思ったが。
非常時に逃げ込んでくるのはアリだが、逃げてこられなかった命の責任までは持てない……ってことらしい。
俺の知るファンタジーな知識に出てくる "冒険者" とか、国やら辺境伯やらが抱えている騎士団なんかが間引きのための討伐をしているらしいが、要は一種の災害って扱いなんだろう。
ポムが "少年好き" と称した変態はマンマール・ド・サドール辺境伯という。
性癖のサドなのか、自転車のサドルなのか迷うところだが、とりあえず現状では接点がなさそうなので、正直どうでもいい。
一箇所しかない出入り口は、びっくりするほど簡単に通過出来た。
「なんだよ、市民権がどうのと言ってたわりに、チェックもないんじゃん」
「アッハッハッ、本当にタイガは可愛いなぁ。非常時に逃げてきた連中とか、どさくさ紛れに何が入ってくるかわかんないでしょ〜。関所はあっちだよ」
ポムが言う通り、最初の高い壁の内側に進むと、更に壁がもう一つ見えてくる。
第一壁と第二壁の間は七メートルぐらいあり、関所待ちの人間でごった返していた。
しかも、みなさんもれなく、頭部になんらかの動物耳がくっついている。
「黒髪の奴、結構いるな」
「ちょっと金周りのいい家の坊っちゃんは、一度は罹る熱病みたいなモンだからねえ」
そう言われてみると、確かに黒髪の奴は身綺麗だ。
服装も周囲からちょっと浮いた感じの、変な格好をしている。
これがポムの言う "イカイジンかぶれ" の分かりやすい見本なんだな……と納得し、俺は完全にそういう目で見られるんだなぁと、かなりげんなりした。
「関所の順番って、どうなってんの?」
「うん? 番号札をもらうのさ」
「番号札? その割には、呼び出ししてなくない?」
「なに言ってンの、順番になったら札が光るに決まってんでしょ」
「なにそれ、どういう仕組み?」
「やり方は知らないけど、魔法だよ」
ポムの答えは「フードコートの呼び出しベルの仕組みまで知らん」ってことだろうと理解し、俺は「なるほど」と頷いた。
第二壁の出入り口は数か所あって、第一壁の出入り口から遠い方は空いているらしい。
とはいえ、最悪、街をぐるっと半周回ることになる。
そう考えると、荷駝車とか騎乗ならともかく、徒歩の場合は順番を待つのと大差ない可能性もあると言う。
ポムは壁を回り込んで街に入ると言って、壁沿いに進み始めた。
「あのテントはなんだ?」
第一壁の出入り口付近は、それこそ屋台まで出ている騒ぎだったが、そこから離れると、壁際にテントが並んでいたのだ。
「街で宿代を支払うのが惜しいと思う冒険者だね」
「そんなん、いいのか?」
「一応、罪になるけど。でも騎士団の往来を妨げない限りは、目こぼししてもらえるんだよ」
「子どももいるぞ?」
チラッと見やり、ポムは肩をすくめた。
「あれは、孤児院の年長さ。そろそろ自力で金を稼がなきゃならないから、ああして冒険者の手伝いをしながら、仕事を教わるんだよ」
「そういえば、ポムも孤児だって言ってたよな?」
「僕は幸いにして、文字書き計算が出来たからね〜。商人に弟子入りして、こうして行商人として独り立ちしてるのさ」
「あんな年頃から、大変だな……」
「自分も子どもみたいな顔して、なに言ってんだか」
「だから俺は……」
「はいはい、37歳? だよね? ワカッタワカッタ」
別にそれほど若見えするタイプではないと思うのだが、件の "イカイジンかぶれ" の所為か、全く相手にされてない。
ポムは街を半周する手前の出入り口から、街へと入った。




