4.壊れた井戸とマイマイマイ
しばらくすると、ポムがこちらに戻ってきた。
「商才の勘とやらは、当たってたのか?」
「井戸が壊れたんだって」
そう言ったポムは、糸目をますます細くしてニヤ〜っと笑った。
「なんだよ?」
「車軸が元通りになったんだから、井戸も元通りに出来るんじゃない?」
「はあっ? 俺は、井戸なんて直せないって!」
「見るだけでいいから!」
「いやだっ!」
もし直せたとしても、村人がてんこもり集まってる真ん中で、どんじゃらほいだのコロブチカだの、やりたくないに決まってる。
「ええ〜、じゃあそのランチ代、払ってよ〜」
「むむっ!」
俺は財布を取り出し、中から硬貨を取り出した。
少なくとも、札は通用しないと思ったからだ。
「なに、これ、銀色してるけど、銀じゃないじゃん。ニセモノ禁止!」
百円硬貨は、あっけなく突き返された。
仕方なく、俺はポムに連れられて、広場の中央に設置されている井戸に向かう。
周りには村人が全員集まってるんじゃないか……ってぐらい、人垣が出来ている。
「はーい、どいてどいて〜」
人垣をかき分けて、俺達は井戸に近づいた。
俺も知識としては知っているツルベ式の井戸だが、覗き込むと水面が見えない。
「随分、深いんだな」
「いつもは、見えるとこに水面があるんだけど。水がなくなったらしいよ」
横から、ポムが言う。
「待て、それは壊れたんじゃなくて、枯れたんじゃないのか?」
「水を汲むトコで、水が汲めなくなったんだから、壊れてんじゃん」
これは、翻訳がおかしいのか、ポムの感性が変なのか、ワカラン事案だ……とか、俺が判断に迷っていると。
不意に体の自由が効かなくなって……、というか。
すすすっと井戸から離れた俺は、ピタッと件の変なポーズをとった。
そして——。
「もりのこかげでどんじゃらほいっ!」
村人が見守る中で、おゆうぎ会の雨乞い踊りを舞う。
どんな羞恥プレイだこれは!
だが、俺がどんなに恥ずかしい気持ちになってようが、俺の体は構わずに舞い踊る。
それが済むと、森の中で同じように、今度は地中から光の粒がブワッと湧いた。
「うわあっ!」
「ひゃあ!」
俺の奇行に唖然となっていた村人たちは、いきなり自分たちの足元から光の粒が湧いて出て、驚き戸惑っている。
だが、俺の体はそんなことを意にも介さず、やっぱり光の粒が集まったヒトガタと、今度は横一列に、井戸を中心に輪を作った。
「やったっ! 始まった!」
ポムは手を叩いて喜んでいる。
一方の俺は、今度はコロブチカではなく、マイム・マイムを口づさみ始めた。
当然、光の粒はノリノリで「マイ! マイ! マイ! マイ! ンマイッベッサッソンッ!」と大合唱していた。




