3.誤変換と魔法の契約【1】
手足拘束で荷代の男から奴隷の男に昇格した俺は、そこでアップルグリーンと奴隷契約を結ぶことになった。
改めて隣に立つと、実は俺よりずっとでかい。
俺は18ocmと、平均より身長はある方だ。
だが、向かいに立ったアップルグリーンは、軽く見積もっても200cmぐらいありそうな気がする。
「ん〜、じゃあ、まずは名前教えて」
「風車虎七郎」
「ウィンドミル・タイガー・セブン? なんだよ〜、野蛮人なのに貴族みたいじゃん」
「か・ざ・ぐ・る・ま・と・ら・し・ち・ろ・うっ!」
「だからぁ、ウィンドミル・タイガー・セブンでしょ。ちゃんと聞き取れてるよ」
「聞き取れてねーしっ!」
ここまで、明らかに日本語以外の言語で喋るアップルグリーンと、絶対に日本語以外は喋ってない俺が、なぜか言葉通じていたのも変なのだが。
いままでなんのストレスもなく通訳されていたはずなのに、なぜか名前だけは誤変換をされるらしい。
とはいえ、俺は自分のシワシワネームがさほど好きだった訳でもないので、そこはあんまりこだわらず割とどうでも良くなった。
「じゃあもう、タイガでいーよ!」
「ええ〜、せっかくお貴族様みたいな名前なのに、そこまで短くする〜?」
「そんなお貴族様みたいな名前で、呼ばれたくないし! 名乗りたくないし!」
「わかった〜。そんじゃあ、ここに手を置いて」
「なにこれ?」
アップルグリーンが出してきたのは、紙のようだが手触りが明らかに紙とは違う、ベージュ色をしたものに、変な柄が描かれているものだった。
「契約用の魔法陣。ほら、手を置いて」
俺は、ちょっとだけ尻込みをした。
魔法陣ってことは、この世界には魔法が存在するってことだ。
とはいえ、なんだかよくわからない光の粒とコロブチカを踊ったあとに、魔法があるのかと思うのも、今更なのだが……。
どっちにしろ、本当に魔法が存在しているなら、紙の上の契約だけで、アップルグリーンを振り切って逃げても、なんらかの罰のようなものが与えられるのは、どうなんだろう? と思ったからだ。
とはいえ、右も左もわからん状況で、森に逃げ込む選択肢はナシと思っている以上、今の俺に選べる道はない。
仕方がなく、俺はその紙のようなものの上に手を置いた。
「え〜と……、汝、タイガは、我、ポム=ヴェールの商売の助け手となる。はい、復唱」
「えっ? はっ? てか、オマエの名前、ポム=ヴェールなのかよっ!」
「あれ? 言ってなかったっけ? 僕は行商人のポム=ヴェール。ポムって呼んでよ」
「そのまんまかよ!」
「仕方ないじゃん。孤児なんて、容姿でテキトーに名付けされるの、あるあるでしょ〜」
「えっ……、そいつぁ、失礼……」
ちょっと後ろめたくなって、俺は小さな声で謝罪した。
が、言われたポムはさほど気にした風もない。
「それはどーでもいいから、復唱!」
「あ、えーと……なんだっけ?」
「だ〜からぁ! 汝、タイガは、我、ポム=ヴェールの商売の助け手となる! 名前の部分は、入れ替えて!」
「汝、ポム=ヴェールは、我、タイガの商売の助け手となる」
「商売の神よ、ここに誓われし清廉なる契約を見守れたし。金貨は巡り、銀貨は流れ、小銭は鳴る……」
こころなしか、小銭の鳴る音がしたような気もするが。
それ以前に、なんだこの某SFドラマにでてきた、耳の大きな宇宙人的な呪文は……?
などと、俺がぐるぐる考えている間に、手を置いている柄がキラキラと光って、紙の上に俺とポムの手形が浮き上がった。
「うわ〜、本当に魔法だ……。これって、ちなみに俺が契約を破ったらどうなるの?」
「ん〜? 秘密〜」
ポムは、細い糸目を三日月型にして、意味深に笑う。
「さあ、それじゃあ、行こうか!」
御者台に乗せられた俺は、前を行く鳥のケツを眺めつつ、微妙に不安なため息を吐く。




