21.精霊と接待係【2】
防音の魔道具のシャボン玉をすり抜けたぐらいだから、精霊たちには壁も床も関係がない。
そして、魂だけの俺もまた、するっと壁を抜けて隣の部屋へと進めた。
扉のところに、見張りっぽい奴らがいたが、集まってフォークダンスを踊る時と違い、細かな粒の時の精霊は見えないらしい。
俺が精霊に『右! 右!』とか言ってる声も聞こえないらしく、小さいテーブルを挟んで、カードゲームを興じていた。
好奇心次第で、俺の指示を無視した方向へと動き出す精霊たちの所為で、かなりふらふらしながらも、俺はクロワールの居る部屋にたどり着いた。
「ボス。あの倉庫のイカイジンかぶれ、どうするんですか?」
「アレは、使い道次第で金になる。もうじき音を上げて、契約に同意するだろう。手こずらせた分、ただの奴隷じゃなく、肉奴隷の契約にしておくか」
いや、若くてピチピチのオネエチャンならまだしも、37のおっさんを弄んで、何が楽しいんだ?
と思ったが。
そういえば、さくらさんの日記に「ひどく子ども扱いされて困る」と書いてあったのを思い出す。
曰く「彼らは獣の身体能力を持ち、体格も大きいためか、体力が少なく体格が小さい自分を、最初は10歳かそこらの子どもだと思っていた」と。
つまり、俺がどんなに「37だ!」と訴えても、誰もまともにとりあわなかったのは、彼らが相手の年齢を見定めるポイントが、こっちの基準とまるで違うからだったのだ。
スカーレットが俺を "お稚児さん" と呼んでいたのも、かなり本気だったのだと考えると、クロワールの発言は、本気なんだろう。
「あのイカイジンかぶれを取り上げりゃ、ポムとブランシュも、直ぐに返済に行き詰まる。ブランシュを借金奴隷に落としたら、自分で飼うのもいいが、王都の貴族に売るのもいいかもな」
やっぱりコイツ、そういう腹づもりだったんだな……。
ブランシュ嬢は、クロワールが借金に猶予を持たせてくれているとか、仕事を回してくれている……なんて言ってたけど。
あんな可憐で素直な美女を、罠にかけるとは許すまじ。
俺が怒りに燃えていると、クロワールは話していた部下にこう命じた。
「そろそろ音を上げているかもしれん。イカイジンかぶれの様子を見てこい」
「わかりました」
部下が部屋を出ていき、クロワールは一人になる。
すると、クロワールは立ち上がって、部下が出てった扉を薄く開け、廊下の様子を伺った。
なにしてるんだ? と思っていると、奴は周囲に誰もいないことを念入りに確かめてから、壁の傍に立つ。
壁に掛けてある絵画を外し、なにかをごそごそやっている。
間近によって覗き込むと、そこには図書室の奥で見た、司書が操ってた魔法のタッチパネルと同じようなものがあった。
クロワールがタップすると、そこにスマホのパスコードを入力する画面にそっくりなものが現れた。




