20.黒くて悪いクロワール【1】
気がつくと、そこは薄暗い倉庫みたいな場所だった。
どこかから光が入ってきているらしく、真っ暗じゃないけど、明かりはない。
周りは木箱が積まれていて、視界が開いている先には、閉じた扉があった。
「あたたたた……」
またしても、縄で縛られている。
日本にいた頃は、こんな目にあった事は一度もないが、こちらに来てからは二月と経たない間に二度目だ。
帰りたいとは思ってないが、この世界は物騒すぎるな……とも思う。
「やあ、目が覚めたようだね」
俺が動いた気配を感じたのか、扉が開いた。
そこには、さっきの暴漢たちの他に、一人、明らかに身に着けているものが上等そうな男が混ざっていた。
声を掛けてきたのも、この男だ。
「私はクロワール。君とははじめましてだが、私は君の噂をいろいろと聞いているよ」
フフフと笑った声が大平透みたいで、めっちゃ悪そうな感じしかしない。
扉の外から光が入ってきてるせいで顔がよく見えないが、俺の脳内では完全に真っ黒なセールスマンになっていた。
「まずはご無事で何より。……もっとも、少々乱暴な方法を取らせてもらったことは、お詫びしよう」
言葉遣いこそ丁寧だが、その声音には謝罪の色など微塵もない。
むしろ「貴様ごときを丁重に扱う義理はない」と言わんばかりの、冷たい響きがあった。
「こんなご招待を受けるすじあい、ないと思うが……?」
俺が冷や汗を垂らしながら言うと、クロワールはまるで子どもの戯言を聞くような顔で肩をすくめた。
「ポムみたいな木っ端な行商人が、最近ずいぶん羽振りがいいと聞いてね。するとどうだい? なにやら新しく "奴隷" を仕入れたと言うじゃないか。しかも結構稼ぐと聞いてね」
言葉の端々に「行商人ごときが身の丈に合わぬモノを持つな」という見下しが滲んでいる。
そして、彼はゆっくりと歩み寄りながら、楽しそうに言葉を続けた。
「ポムなんぞが持っていても、宝の持ち腐れだろう?」
クロワールがパチンッと指を鳴らすと、後ろに控えていた暴漢の一人が、サッと紙を差し出した。
「私と "契約" すれば、もっといい暮らしも出来るし、ご希望とあらば、イカイジン関連のファッションも、どんどん用意出来るよ?」
いやいやいや、ここにきてその台詞はむしろ俺をドン引きさせるちゅーの。
つーか、お前、俺のこと完全に「イカイジンかぶれのイカレポンチ」扱いしてるだろ。
と、思ったが。
ここで俺が「本物の異界人です」なんて言おうもんなら、爆笑されるだけだし。
もし信じてもらえたりしたら、悪手どころか即詰みだ。
俺はギュッと口を結んだ。




