2.森の木陰でコロブチカ【2】
「それって……、なんの儀式?」
アップルグリーンの問いは、そのまま俺の疑問なのだが……。
しかし、俺がなんらかの返事をする前に、道の両脇に生えている木々の間から、細かい光の粒みたいなものがブワッと出てきて、荷車を中心に輪を作る。
「えっ? なになに? 何が始まったの?」
アップルグリーンが戸惑っているが、俺だって何がなんだかわからない。
みるみるうちに光の粒が集まり、ふわっとヒトガタっぽい形が俺の向かい側に立つ。
よく見ると、荷車の周りに二重に輪が出来ていて、俺は向かい側の光のヒトガタの手を取っていた。
そこでこんどは、俺の口は "コロブチカ" のメロディを鼻歌風に歌いだす。
「それって、なんの儀式?」
呆然としているアップルグリーンを置いてきぼりにして、コビトと俺はそこで一渡りフォークダンスを踊った。
そりゃあもう、向かい合って手拍子をする時に「ヘイッ!」とか勝手な掛け声が入ってるぐらい、その光のヒトはノリノリだし、コロブチカ特有のだんだんスピードが上がる感じも盛り上がりまくりで、顔もわからないのに光のヒトたちが楽しそうなのが伝わってくる。
最後に、向かい合ったヒトガタが一礼をすると、ヒトガタが崩れて光の粒はふわっと森の中へと戻っていった。
「ああー! 直ってるぅ!」
「えっ?」
振り返ると、アップルグリーンがさっきと同じ姿勢で荷車の下を覗き込んでいる。
俺も同じように覗き込むと、見るからに二つに折れていた車軸が、何事もなかったみたいに、真っ直ぐ車輪を支えていた。
「な……なんじゃこりゃー!」
と、俺は、昔見た刑事ドラマの名台詞を叫んだ。
「なんじゃもなにも、アンタがやったんじゃないの?」
「知るかー! てか、なにがどんじゃらほいだよ! お歌小ムシかよ!」
「オウタコムシって、なに? まぁ、これさえ直れば旅は続けられるよ! ありがとう! ありがとう! あー、ヨカッタヨカッタ!
アップルグリーンは鼻歌まじりに俺の手を掴んで、その場でクルクル回っている。
「そんなにありがたいなら、俺のことを売っぱらうとかゆーの、やめてくんない?」
自分で直した自覚はないが、アップルグリーンが俺の所業と考えているなら、そこに付け入るべきだろう。
だが、そうそう上手い話はないらしい。
「えっ? あ〜、う〜ん、そーだなぁ……」
アップルグリーンはそこでちょっと考えこんだ。
「あんたが僕の商売を手伝って、借金の返済を助けてくれるなら、辺境伯には売らないで、僕の奴隷にするだけにする」
「そこは、相棒じゃねーんかよっ!」
「野蛮人を連れて街に入るのに、奴隷以外で身分を証明しようとすると、色々面倒なんだよねー」
この申し出に、俺は少し考えた。
というのも、手足が自由になって冷静になった俺は、自分の置かれている状況を、少しばかりかんがみる余裕が出来たのだ。
どう考えても日本じゃなさそうな場所と、アニメから出てきたみたいなアップルグリーンの見た目から考えるに、俺は谷川岳どころか地球以外のどっかにいる……と考えるのが妥当だろう。
としたら、何が出るかわからんこの森の中を一人で彷徨うよりも、やや腹黒めいた発言もあるが、トータルで考えると人の良さそうなアップルグリーンについて街へ行き、ここがどういう世界なのかを把握すべきなんじゃないかと思ったからだ。




