19.小さな警告
一通り日記を読み終わった俺は、案内された廊下を通って本だらけの図書室に戻った。
図書室の出入り口には司書しかいない。
「連れは、帰りましたか?」
「はい。時間を気にせず、見たい書物はよく見てこいとの伝言を預かっております」
ポムの気遣いに、ちょっとじ〜んとしてしまった。
だが、一応見たいものは見たし、帰ろう……と思ったが。
「あの〜、この指輪を提示すれば、アレの閲覧は何回でも可能なんですか?」
そう何度も読み返したいか? と問われると、よくわからんが。
しかし、自分がこの世界でなんか迷いを抱いたりした時、読みたくなる可能性がないんじゃないか? とも思ったのだ。
司書は改めて指輪を確認すると、小さく頷いた。
「こちらの閲覧許可は、無制限です。お越しいただければ、いつでもご覧になれます」
「分かりました。じゃあ、今日は帰ります」
俺は司書に改めてお礼を言って、辺境伯の城を出た。
帰りの道すがら、俺は考える。
精霊魔法は、さくらさんが構築したシステムを、俺が保全と運用を任されている……という、形で顕現している。
マイム・マイムで井戸が修理されるのは、彼女がそういうイメージを持っていたから。
精霊たちは、それを行うなら、この遊びに応えて欲しいと、俺に曲を歌わせているってだけだ。
では、なぜオクラホマ・ミキサーはすぐに発動しなかったのか?
それは、俺があまりにも凹んでいたからだ。
俺のモチベーションが下がって、曲を奏でられるほどの余裕がなかったので、精霊からのリクエストに、俺が応えられなかったってことだ。
『……あぶないよ……』
不意に、小さな子どものような声が聞こえた気がして、俺は振り返った。
「うわっ!」
間一髪で、俺の眼の前に網がバサッと落ちる。
声に驚いて振り向いたおかげで、ギリギリで避けられたのだ。
だが、路地の影からガラの悪い男たちがヌッと現れた。
「こいつ、意外にカンが働くぞっ!」
「殺さなきゃいいんだっ! かまわねえ、やっちまえっ!」
叫び声と同時に、一人が拳を振りかぶる。
「うわわわわっ!」
所詮はもやしで非戦闘員の俺は、右に左にあわあわと逃げ惑うだけだ。
だが相手は多勢に無勢。
しかも身体能力は、それぞれの獣のように俊敏だったり、剛力だったりする。
逃げられる訳がない。
「ひゃあっ!」
サッと足払いを掛けられて、無様に転ぶ。
すかさずさっきの網が被せられて、更に腹に一撃を見舞われた。
視界が暗くなり、俺の意識はブラックアウトした。




