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異世界はつらいよ  作者: 琉斗六


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18.聖女の日記

 司書が去り、俺は椅子に座ると、おもむろに日記帳のページを捲った。

 タイトルが「Diary」だったので、中身が日本語以外なのか? と思ったが、しっかり日本語だった。

 落ち着いた色合いの表紙は、硬い。

 中身は白い紙で、これはどうやら日本製の日記帳のようだ。


 聖女と名乗っていただけあって、女性らしい、繊細な文字が綴られている。

 保育士をしていて、日記は "さくら組の担任を任された記念に、日記を書こうと思う!" と、一番最初のページに書いてあった。

 ざっと見た感じ、本人の名前が記載されていなかったので、彼女のことは "さくら" (仮名)さんと呼ぶことにする。


 このさくらさんは、上記の通り保育士の資格を取り、数年勤めたところでようやく担任の座を射止(いと)め、意気揚々と仕事に取り組み始めた……のは、最初だけで、しばらく読み進むと、同じクラスの副担任になっている年配の保育士に、陰湿ないじめをされてすっかり心を病んでしまったらしい。

 だんだんドロドロの恨み言みたいな日記になっていて、その内容が自分でもアレだと思ったのか、それとも病んだ心の被害妄想なのか、日記を(だれ)かに見られることを恐れて、持ち歩くようになったようだ。


 そんな()らしを半年ばかりしたところで、俺と同様、突然この世界に来たっぽい。

 ただ、俺のように「谷川岳で川ポチャした」みたいな、向こうでの最後の記憶は残ってないらしく、「なんなの? どういうこと? 意味不明!」と綴られていた。


 こっちに来てからしばらくは、村人の親切で心身の回復を図り、元気になってきたところで村人たちの仕事を手伝っていたとある。

 俺と違って、黒髪=イカレポンチってな思想がなかったので、髪色を珍しがられるだけにおわっていた。


 ただ、さくらさんはこっちに来てからずっと、(だれ)かに話しかけられるような感じがあった。

 村人たちと森の恵みの採取……つまり、木の()やきのこなんかを集めに出掛けた時に、その声がかなりはっきり聞き取れた。

 それが、精霊だったのだ。

 精霊は、声の聞こえる彼女が珍しくて集まってきたと言う。

 一方で、さくらさんは精霊たちを、子どものような存在と認識し、保育士(だましい)に火がついて全力でおゆうぎに勤しんだようだ。

 最初のうちは「むすんでひらいて」みたいなものだったらしいが、少しずつ難易度をあげていったところ、精霊が一番喜んだのがフォークダンスなのだという。


「つまり……、俺は便利な接待係ってことかぁ〜」


 思わず、天井を仰いでしまった。


「てか、なんでフォークダンスかなぁ!」


 叫んでみたが、意味はない。

 はあ~っと深く息を吐き、俺は日記の続きを読んだ。


 彼女は、精霊と遊ぶと願いを叶えてもらえるのが分かってからは、村で重宝され、そこから領主に大事にされたらしい。

 ただ、精霊は人間の多い場所(ばしょ)より、自然の多い場所(ばしょ)を好むし、当時の辺境伯も貴族社会で彼女を食い物にされるのをよしとしなかったので、存在を王家にすら秘匿していた。


 ここからは俺の想像だが、そうして秘匿されたことにより、彼女の存在は曖昧となって伝説化し、事実を知る辺境伯の元にこの日記が残っている……ってことなんだろう。

 だが気になるのは、日記が途中で終わっていることだ。

 最後の(ほう)に「なんだか最近、精霊の声が今までよりはっきりきこえるようになった」とか、「呼ばれるままに、一緒に行ってしまいたい」とか書かれているのも気になる。

 辺境伯に聞くとか、この図書館の中の資料を調べれば、彼女がどうなったのか、分かるのかもしれない。


 だけど、これだけははっきり言える。

 彼女は、日記の中で一度も「帰りたい」とは書いてなかった。

 ある意味、ブラック企業で社畜してるだけの俺だって、あすこに帰りたいかと聞かれると、少々首を傾げる。

 俺とさくらさんの共通点は、正直そこしかないかもしれないな……と思った。

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