16.渾身のレットキス【1】
執務室に戻った俺達は、今度は長椅子に座って良いと言われて、お茶とお菓子まで出された。
辺境伯はお茶を運んできたネコ美少年を退出させると、自分で用心深く扉を閉め、それからなにか小箱のような物を出すと、指でてっぺんを撫でた。
すると、なんかシャボン玉の膜みたいなのが出てきて、部屋の中いっぱいに広がった。
「防音の魔道具?」
「よく分かったな」
ポムの問いに、辺境伯が感心したように答えた。
「さて、諸君。まず最初に、これから、この防音の魔道具を解除するまでの間に話したことを、絶対に口外しない誓いを、こちらの書面に誓ってくれ」
辺境伯がスッと差し出した契約書を見た瞬間、ポムの毛がブワッと逆立った。
「どうしたんだよ?」
「これ、最上級の誓約書だよ! 誓いを破ったら、即座に命がなくなるやつ!」
「ほう、こちらもよく分かったな。周辺の村を回る行商と聞いているが、勉強をしていると見える」
再び辺境伯が、感心したように言った。
「内容もワカラン話を聞かされて、喋ったら殺すって言ってんの?」
俺の問いに、ポムが頷く。
「いや、こちらの依頼を断ることは可能だ。だが、依頼内容を他に話されると困るので、この誓約書は万が一に備えた "担保" のようなものだ」
俺達は顔を見合わせる。
「そんなスゲー誓約書に誓って、後でやっぱり処分するとか言われたら、嫌だぜ」
スカーレットが、密談とは思えないでかい声で言う。
「なあ、ポム。この防音の魔道具って、どれくらい効果あんの?」
「外には絶対、音漏れしないよ。それに……多分、貴族様の使ってるようなやつは、起動した範囲内に盗聴の魔道具があっても、遮断されると思う」
「なるほど」
自分の執務を手伝わせる程度には信用している使用人達をも退室させ、話が他に漏れないように魔道具を使い、わざわざイカイジンを呼びつけて試したりしている。
それらを考え合わせると、この滅多なことではビビリそうもない辺境伯が、よっぽど切羽詰まってるんじゃないか? と俺は考えた。
「俺は、誓ってもいいかな」
「マジかっ?」
「う〜ん、僕もアリかなぁ……」
ポムも同じように考えたらしく、同意を示した。
俺とポムの顔を交互に見てから、スカーレットは頷いた。
「俺だけハブられるのもなんか嫌だから、俺も誓うぜ!」
意見の一致を見た俺達は、誓約書に手を乗せた。




