15.辺境伯の依頼【1】
両開きの扉の前に案内されて、さてはファンタジーで王道な謁見シーンが再現されるのか? と思っていたのだが。
開かれた扉の中は、本がびっしりならぶ本棚と、どっしりとでかい机がある、どうみても執務室って感じの部屋だった。
「閣下、ポム=ヴェール以下三名、お連れしました」
「ご苦労。下がっていいぞ」
ネコの美少年は一礼すると、退出していった。
部屋には本棚の前で本を探しているプードルみたいな耳の少年、机の傍で書類を手渡そうとしているボーダーコリーみたいな耳の少年、書類を仕分けているらしいシェパードみたいな耳の少年がいる。
それも全員、もれなく美少年。
そして部屋の中央の机には、この部屋……いや、この城の主たる辺境伯そのヒトがどっかりと座っていた。
少年たちは、犬っぽい忠誠心なのか、素敵なおじさまに恋する少年なのかはワカランけど、全員がキラキラした目で辺境伯を見ていて、いかに素早く正確に仕事をこなして、辺境伯に褒めてほしいって態度がにじみ出ている。
俺は思わず、天を仰ぎそうになったが、貴族の前で不敬な態度を取ってポムに迷惑を掛ける訳にもいかん……と、自制する。
「彼らに話がある。席を外しなさい」
大塚明夫みたいな声で、辺境伯が言うと、少年たちは「はい」と答えて直ぐに仕事の手を止め、扉の前で一礼してから退席していった。
「さて。よく来たな」
立ち上がってこちらにやってきた辺境伯は、頭の上にシベリアン・ハスキーみたいなデカイ三角耳が付いている。
が、この風格、精悍な顔立ち、鋭い眼光なんかを見ると、もしかしたら狼とかかもしれない。
いかにも歴戦の武人って雰囲気が漂っていて、非常時は即戦力を要求される辺境を守ってるって感じだった。
「私が、マンマール・ド・サドールだ」
ゆったりと椅子に寄りかかり、自己紹介を告げる。
そういえば、そんな名前だったな〜と考え、この猛者のどこにも "まんまる" な要素はないな……なんて思った。
「行商人のポム=ヴェールです」
「護衛のスカーレット!」
「ポムの奴隷のタイガです」
現代日本なら、ここで名刺交換なんだろうが、この世界の様式はわからないので、ポムに習って名乗っておいた。
「うむ。近隣の村から、噂が上がってきている。そなた達は不思議な術で、井戸の修理をするとか?」
「井戸だけじゃねえですよ、旦那! 立ち枯れてる麦も元気になりまさぁ!」
意気揚々とスカーレットが言ったところで、ポムがその脇腹を肘でどついた。
痛そうにして文句を言おうとしたスカーレットを、ポムが糸目を開いてひと睨みして黙らせる。
「ほほう、立ち枯れてる麦をな!」
「辺境伯様は、なにかお仕事の依頼だとか?」
不満そうながらもスカーレットは黙り、ポムが一歩前に進み出る。
辺境伯は椅子から立ち上がると、机を回り込んで俺達の正面に立った。
「話していても仕方がない。とりあえず、実際はどうなのか見せてもらおうか」
そう言って、辺境伯は部屋の扉を開け、俺達に付いてくるようにと言った。




