14.辺境伯からの誘い【1】
いつものように、夕方になる頃に長屋に戻り、俺とポムはブランシュ嬢の作った夕飯を食っていた。
生活費を切り詰めるために、ポムとブランシュ嬢はできる限り頑張っている。
本当は、長屋も一緒にした方が家賃が浮くのだが、独身の男女がひとつ屋根の下に暮らすのは、さすがに世間体が悪いので、断念したんだそうだ。
アコガレのハリウッド女優そっくりなブランシュ嬢と食事をするのは、最初の頃は味もわからないような状態だったが、最近では少し動きがカクカクする程度に収まっている。
「今日のスープも美味しいです!」
「うふふ、タイガさんはいつも褒めてくれて、うれしいわ」
そんな会話をしていると、扉にノックの音がした。
この時間なら、たぶんメッセンジャーだろう。
玄関に応対に立ったポムだったが、いつもと違って直ぐに戻ってこない。
それどころか、玄関先でなぜか跪いて、恭しく書状を受け取っていた。
「どうしたんだよ?」
扉を締めて、こちらに戻ってきたポムは、蒼白なのか紅潮なのか、判断に困る顔をしている。
「タイガ、すごいぞ。辺境伯様からのお呼び出しだっ!」
「はっ?」
「ええっ!」
俺は言われている意味がわからず、きょとんとなっていたが、すぐにも意味を理解したブランシュ嬢はびっくりした声を上げる。
蛍光灯のような速度でようやく意味が分かった俺は、思わず通りに面した窓に飛びついて外を見ようとした。
が、窓の外は真っ暗だ。
「なんだこれ?」
「うわっ! タイガ、よせって」
「えっ?」
「それは箱馬車の側面だ!」
奴隷が顔を突き出して、失礼があったら困るんだよ! と言って、ポムは俺を室内へ引っ張り戻す。
「路地に箱馬車入れるなよ……」
「まさか、辺境伯様がご自身で手紙を?」
「姉さん、そんなことあるわけないでしょ。使いの者だったよ」
わあわあ騒いでいる間に、ギシギシよろよろしながら、箱馬車は長屋の路地から出ていった。
ポムが受け取った書状には、蝋で封印されている。
中身はポムが言っていたとおりで、明日の午後に城に来いと書いてあった。




