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2.森の木陰でコロブチカ【1】

 結局、アップルグリーンは俺の縄をほどいてはくれず、御者台に戻ってしまった。


「ごめんね〜。僕もこんな奴隷商人みたいなことはしたくないんだけど。背に腹は代えられないのよ」

「みたいなじゃなくて、そのものじゃねーか」

「そっか。そのものだねぇ」

「ちゅーか、本業はなんなんだよ?」

「本業は、ご覧の通りの行商人。その木箱の中に……」


 突然、ガクンと衝撃がきて、荷車が止まった。


「なんだ?」


 アップルグリーンは荷車を降りる。

 荷台には幌がついているので、俺からアップルグリーンの姿は視認出来なくなったが、物音からどうやら止まった原因を調べているらしい気配が感じられた。


「参ったなぁ」

「おい、どうした?」

「車軸が折れてる。これじゃ、動かないよ!」

「そう言われても、俺は手足を拘束されてて、手伝いも出来ないし……」

「ええ〜……」


 アップルグリーンは、荷台の俺のところにやってきた。

 こころなし、頭部の耳が困った感情を表すように、ヘニャってる。


「僕さぁ、マジで(かね)に困ってるから、アンタに逃げられたくないんだよね」

「でも、車軸が壊れてたら、(かね)コマ以上にこっから動けないんだろ? 木箱の中身がなんだか知らんが、野ざらしになってて大丈夫なのかよ?」


 しばらく悩んだのち、アップルグリーンは仕方ないって顔で俺の縄をとく。

 だからって、ヒョロガリもやしの俺が、ボカッと一発アップルグリーンをぶっ飛ばし、走って逃げるなんてマネが出来るわけもない。

 そもそも、縄で縛られていたせいで、手足の感覚がおかしいし、関節も痛い。

 俺はしばらく手足をさすってから、よろよろと荷台から降りた。


「なんだ、ここ……」


 確かに俺は、谷川岳にいた。

 谷川岳なんて、自然に溢れた場所(ばしょ)だが、しかし一応キャンプ場までは道が整備されていたはずだ。

 だが、俺の立っている地面はどう見ても土が丸出しだし、乗ってた荷台は荷車に幌が付いただけの木製だし、前で荷車を引っ張っているのは、某RPGに出てきたチョコ某に似た、ダチョウの親戚みたいな生き物だ。


「ほら、ここがさぁ〜」


 周囲の異変におろおろしている俺に、アップルグリーンが声を掛けてきた。


「えっ……と」


 荷車の横でしゃがみ込んで、車軸を覗き込んでいるアップルグリーンに習って、俺もかがんで荷車の下を見る。

 荷台も木製だが、車輪と車軸も木製で、そいつが見事にバッキリと折れている。


「あ〜、ココがダメになってんだな……」


 手を伸ばして、車軸の折れた部分に触れる。

 その瞬間、俺はシャキッと立ち上がると、仮面ナントカみたいな格好で一度ピタッとポーズを取った。

 そして——。


「もりのこかげでどんじゃらほいっ!」


 と歌いながら、幼児のおゆうぎ会で雨乞いしてるみたいな動きをしながら、舞い踊った。

 もちろん、それは俺の意思とは全く無関係に、体と口が勝手に動いて……である。


『なんだこれ!?』


 といくら心の中で叫んでも、口では "森のこびと" を歌い続け、手足は知りもしない変な動きをしながら舞い狂っている。

 最後に「ほいっ! ほいっ!」と歌い終わったところで、手足の動きもピタッと止まった。

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