10.ヤクシー! セイジョ【4】
「モルデノカージュエダンスアラジョワ!」
祭が始まったのはわかるのだが、俺はなんだか尻の辺りがムズムズしてきて、静かに座っているのが難しくなった。
「ちょっとタイガ、なにをもじもじしてるのさ?」
「いや、よくワカランが……、イライラする」
そうだ、これはムズムズではなく、イライラだ。
すごく神経に触って、言葉通りなにかを逆なでされているような気分だ。
俺はイライラの原因を考えて……というより、むしろそれ以外何も考えられなくなった。
耳障りの悪い呪文。
てんでばらばらにぎこちない踊りをしている人々。
それら全部が、見ていてイライラするのだが。
しかし、その "イライラ" はあくまでも、俺の表層意識と言うか。
校庭でラジオ体操をする様子を見慣れている日本人からすると、全く統制の取れていない感じが、なんかヤダって思ってるだけ……なのだ。
この、本質的になんにも考えられなくなるほどのイライラは、どこからくるのか……?
「ああっ!」
突然、イライラの原因に気付いて、俺は叫んだ。
「なに? なんなの?」
隣でつまらなそうに祭を眺めていたポムが、俺の叫びに驚いている。
「あの音楽だっ!」
「ええっ? なにがぁ?」
ポムに返事をせず、俺は椅子を蹴倒して広場に走り出る。
そして、ショボイ鼓笛隊の前に立って「演奏中止!」と叫び、更に台の上にムリヤリ上がると、そこで音頭を取っている男に向かってこう言った。
「そうじゃなくて、こうっ!」
俺は、自分が自らおゆうぎポーズを取り、空にむかって「もりのこかげでどんじゃらほい!」と叫んで歌い出したことに、この時点で自覚してなかった。
唖然として動きを止めた村人たちの衆目の中、俺はタンタンシャンシャンと合いの手まで自分で入れて、森のこびとを全力で踊る。
毎度おなじみの「ほいっ! ほいっ!」が終わった瞬間、地面から光の粒がぶわわわっ! と溢れ出し、広場を囲むように輪が出来た。
ざわめく村人を無視して、光の粒たちが綺麗な輪を作ったところで、俺の口から飛び出したのは "タタロチカ" だった。
ヒトガタを取った光の粒たちは、両手を叩き、膝を打ち、舞い踊りながら「ヤクシー!」とノリノリで叫ぶ。
ダンスは三回ほど繰り返され、俺がヘトヘトになって膝から力が抜けたところで大盛況のうちに終わった。
光の粒たちはダンスが終わると、パアッと弾けるように舞い上がり、それから広大な麦の畑の全ての上にキラキラと舞い落ちる。
呆然としていた村人の一人が、キラキラを目で追った先を見て、あっと声を上げた。
「麦が! 麦の穂が立ち上がってる!
一人の声に、村人たちががやがやと騒ぎ始め、全員が一度広場から走り出ていくと、畑を確認して駆け戻ってきた。
「やった! やった! 実るぞ! 立ち枯れがなおった!」
そこで歓喜に湧いた村人たちは、疲れ果てて座り込んでいる俺の元へと駆け寄ってくる。
そして、台の上から引っ張り降ろして、そのまま胴上げを始めた。
「素晴らしい! セイジョ様の再来だ!」
「ばんざい! セイジョ様ばんざい!」
チョットマテ。
聖女……って、なんだよっ!




