10.ヤクシー! セイジョ【2】
それから俺達の元には、ぽつぽつと依頼が舞い込むようになった。
ポムの予想通り、近隣では簡単に解決が出来ないけど、行政がなかなか動いてくれなくて困っている案件ってのが、結構あるんだと実感する。
一番ワケがわからんのは、スカーレットが毎回ついてくることだ。
クロワールから見張ってろと言われてのことらしいが、どっちかっていうと、行きと帰りのブランシュ嬢の見送りと出迎え目的な気がしなくもない。
まあ、あの声、あの顔で「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」を言ってもらえるのは、俺だって嬉しいので、気持ちはわからなくもない。
未だ顔を見て「ただいま帰りました」と言えない自分の意気地のなさには呆れるが。
最近は、おかえりのハグを俺もしてもらえるようになって、スカーレットから妬みの視線を送られている。
「タイガ! 今回はすごいよ!」
ポムが、嬉しそうに言った。
「なにがすごいんだよ?」
「うん。今回は今までと違って、大きめの依頼だから! 上手く行けば元金の二割ぐらいは返せるかも!」
「そいつぁ、すげえな」
返事は、俺じゃなくてスカーレットがした。
「別に、スカに感心されたくなんてないんですけど〜」
「俺はこれでも、ポムが借金完済出来るといいと思ってんだぜ」
耳を寝かせて不機嫌に言ったポムに、スカーレットはふふんって顔で返した。
まぁ、ポムが……ではなく、ブランシュ嬢が奴隷落ちになるのを危惧しての発言なんだろうし、ポムもそれが分かってるから「スカは僕の心配なんかしてないよね?」的な感じで、返しているのだろう。
俺はといえば。
一度だけとはいえ、魔法が発動しなかったことが心に引っかかっていた。
あのタマゴの一件より前は、人前でおゆうぎみたいな変な踊りを披露するのの抵抗感とかあったけど、依頼されて金をもらってとなるとそれはビジネスだから、契約不履行になる要因がなんだかわからないのが怖いのだ。
「この村はさぁ。僕らみたいな行商人は、いつもは門前払いなんだよ」
ポムが言うには、依頼状を送ってきた村は、周辺の村の中ではかなり裕福なところらしい。
暮らしている人数こそ多くはないが、土地の条件が良いらしく、辺境でもっとも大きな穀物畑を維持しているという。
「確かに、あすこなら払いもいいだろうなぁ」
土地面積だけなら、防衛都市より広いかもしれないという村は、それもそのはず、敷地の殆どは小麦畑なんだそうだ。
農業用の重機もないこの世界で、そんな広大な畑をどんだけ人海戦術で管理しているのか? と思いきや。
剣と魔法の世界では、重機の代わりに魔法を使って、刈り入れから脱穀、それ以降の作業も大型機械なんぞ使わずに、そこそこの人数で済ませてしまうらしい。
農業関連に適した魔法の才能と、畑に適した土地を手に入れられれば、富豪農家も夢じゃないって訳らしい。
「スカは今回も、ついてくるの?」
「当たり前だろ。それにタイガの踊りも面白いしなぁ」
タマゴの時は、納得できかねる顔をしていたスカーレットだが。
その後もずっと付いてきたので、精霊魔法にも何度か立ち会うことになった。
結果、納得のいく奇跡を目の当たりにし、しかも変に気に入ったらしいのだ。
マジで、陽キャの考えることはわからん。




