8.異世界洗礼【1】
翌朝、ポムが駝鳥のレンタルに行ってる間に、スカーレットが訪ねてきた。
「ポムー! いるかー!」
「今は出掛けてる」
応対に出た俺をジロジロと眺めて、スカーレットは首をひねった。
「なんだ、坊主。留守番か?」
「いや、俺はポムの奴隷だ」
「あいつ、お稚児さんを囲うほど、金があんのか?」
「お稚児さん? えっ、あいつロリコン趣味なのかよっ!」
俺の反応に、スカーレットはますます首をひねる。
「なんだぁ、自覚ないんか? お稚児さんは、オマエさんのこった」
「誰がお稚児さんだっ! 37のおっさんつかまえて、気持ち悪いこと言うなっ!」
「さんじゅうななぁっ?」
数字を叫んだのち、スカーレットは腹を抱えて笑い出す。
「いや〜、イカイジンごっこも大概にしろよ〜! 年上に見られたいからって、そりゃーサバの読みすぎだ!」
ガッハッハッと笑って、筋肉クマは俺の頭を撫でた。
くそう、なんか悔しい。
「どっちにしろ、ポムはいない! 出直せっ!」
「どうせ駝鳥のレンタルに行ってんだろ? 待つぜ」
そう言って、スカーレットは荷車により掛かる。
ボロイ荷車は、スカーレットの体重にギシギシと不穏な音を立てた。
「よせ、荷車が壊れる」
「うるせーなぁ」
ブツブツ言いつつも荷車から離れたスカーレットは、周囲をキョロキョロしていた。
ポムを待つ間に、一目ブランシュ嬢を拝めたらラッキー! とか、思っているんだろう。
おまえが見たら、ブランシュ嬢のきらめきが減るわいっ! と腹の中で悪態をついていると、そこにポムが戻ってきた。
「あれ〜? なんで朝っぱらからスカーレットが?」
「クロワールさんが、期日よりも早く、オマエが金を渡してきたのが変だから、不正な商売をしてないかどうか、確かめてこいって言われたんだよ」
ブランシュ嬢に仕事を発注している商会が、なぜ金まで貸しているのかというと。
事の発端である "仕立物に針" 事件の際、クロワール商会が件の令嬢に詫びを入れ、慰謝料を代わりに支払ってくれたからだ。
本来なら、ブランシュ嬢単独の借金になるのだが、ポムが言い張って借用書の署名欄にはポムの名も記載されている……ってことらしい。
「え〜、ウチの荷車、スカーレット乗せたら壊れちゃう」
「ふざけんな。俺の健脚はそこらの駝鳥に劣らないぜっ!」
「あっそ。まぁ、歩きで同じ方向に行くのは、止められないからな。そっちの都合は無視するから、そのつもりでいろよ」
「言ってろ!」
ポムとスカーレットが喧嘩未満の応酬をしていると、ブランシュ嬢が扉から出てきた。
「ポム、これから仕事? あら、スカーレットさん、朝からどうされたの?」
「あ、俺……いや、私は今日はポムさんの護衛に……」
「はい、姉さん。行ってきます」
「いってらっしゃい。スカーレットさんも、タイガさんも気をつけてね」
どんどん歩き出すポムに対して、スカーレットは名残惜しそうに振り返り、振り返り、こちらに手を振って見送ってくれているブランシュ嬢の姿を見ていた。
もっとも、そういう俺だって荷車の御者台に座り、なんにもすることがないのをいいことに、小さくなるブランシュ嬢をいつまでも眺めていた。




