7.ポムの借金【2】
スカーレットが去って、ポムはため息を吐きながら、散らかってしまった物を片付け始める。
それをブランシュ嬢が手伝い始めたので、俺も習って物を拾って回った。
「あーあ、今月もギリギリだぁ〜!」
「悪いわね、ポム」
「別にいーよ。それに、姉さんだって仕立物やら、すごく頑張ってくれてるじゃん」
話の流れに疑問が湧いた。
「ポムってば借金の返済、ブランシュさんに手伝ってもらってんの?」
直にブランシュ嬢に話しかけるのは恥ずかしいので、ボソボソっとポムに言う。
が、ロップイヤーがピクッと動いて、慌てて否定された。
「違うの。元は私の借金なの。ポムが肩代わりしてくれているのよっ!」
「えっ! 意外に男気じゃんか、ポム!」
「意外は余計でしょ〜。てか、そもそも理不尽な話なんだよ。姉さんが仕立物を届けたら、その仕立てたドレスに針が残ってて、どっかの令嬢の玉の肌に傷がついたから、慰謝料を払えって言われたんだ」
なんだその、時代劇で鉄板な庶民を陥れる罠みたいな話……と思ったが、時代劇って言葉を説明するのが面倒だったので、俺は黙っていた。
「クロワール商会さんは、仕立物の仕事を一手に引き受けてる、大手の商会さんなの。あそこからお仕事がもらえなくなったら、仕立物は出来なくなっちゃうのよ」
「なんだその、黒くて悪そうな商会……」
「違う、違う、黒じゃなくて、信用商会だよ」
微妙に、また誤変換が発生した気がするが、商会の名前は黒くて悪いわけではないらしい。
「じゃあ、私、そろそろ仕立物を届けに行かなきゃだから、失礼するわね」
「いってらっしゃい、姉さん」
ポムと俺は、片付けが終わったところで長屋の中へと戻る。
「そんで借金は、一体どんくらいあって、利子がどれくらいで、返済計画はどうなってんだよ?」
「えっ! マジで返済に付き合ってくれんの?」
「奴隷契約までしたくせに、なに言ってんだよ?」
俺の答えに、なんだかポムはやたらと嬉しそうに笑う。
「ええ〜、マジで〜、やったぁ!」
「そんなに借金苦しいのか? あ、いや、月々利息しか返せてないなら、そうとう苦しいか……」
「うーんとね、借金の元金は金貨十枚で……」
そこでポムが説明してくれた借金の全容に、俺は唖然となった。
ポムとブランシュは、今までそれぞれ月に銀貨二枚で暮らしていた。
だが、借金の返済のために、二人で月に銀貨三枚まで生活費を抑え込み、儲けのほとんどを返済に回しているという。
しかし、この世界には社会保障も失業保険もなにもない。
病気や怪我で休めば、その日の実入りは一切なく、あとは親族や友人といった、周囲の親切心頼み……となる。
「タイガを売っぱらえば、元金が少しは減ると思うんだけど〜。でも、タイガは可愛いから、ちょっと惜しいなって思ってたんだ〜。でも車軸を直した精霊魔法で礼金もらうほうが、売るよりずっと儲かるって思ったんだよね!」
あっけらかんと言っているが、ポム自身、行商人をやっている程度に金の流れは理解していて、一つ躓けば総崩れになる危機感はあるようだ。
「返せなかったら、どうなるんだ?」
「そりゃ、俺も姉さんも市民権がなくなって、奴隷コースまっしぐらでしょ」
「うわっ! やべえなそりゃ!」
言ってから……。
「だからって、通りすがりの難民を売るのもどうかと思うんだけど……?」
「あのねぇ! タイガは僕みたいな親切で丁寧なのに拾ってもらえて、むしろラッキーだったって、さっき姉さんが説明してくれたでしょ! 借金奴隷になったら、僕がタイガと交わした契約なんかより、もっと厳しい条件にされちゃうんだよ!」
「いや、そこでキレられても、変態伯爵に売ろうとしていた事実は残るだろ……」
とはいえ、このままでは返済計画どころの騒ぎではない。
「なに言ってんだよ! もう売るのはやめたって言ったじゃん! これからは、じゃんじゃん金が儲かるよ! 今日の礼金だけで、今月の利子が払えたぐらいだし!」
「そこは元金返せるぐらい、貰っとけよ……」
生活用水のカナメである井戸の、しかも枯れたのを復活させるなんてトンデモ事案を解決したんだから、それぐらい言っても良いんじゃなかろうか?
「いやいや、ああいう小さい村は、それなりにカツカツだからね。下手に高額ふっかけて、恨みを買うのは利口じゃないよ。恩を売って、噂を流してもらう方が大事なのさ。大きな商店やら、貴族なんかの依頼がきたら、大きく請求するべきってね!」
ポムは人差し指を、ピッと揚げて左右に振ってみせた。




