7.ポムの借金【1】
長屋の外においてあった、荷車の車輪をガンガン蹴っ飛ばしてる、小山のような大男を、俺は呆然と見上げていた。
「おらぁ、ポムぅ! さっさと金返せやぁ!」
昭和のヤンキーか、取り立て屋かってぐらいに、鉄板なセリフを吐きながら、これまたアニメから出てきたみたいな真っ赤な髪にクマ耳のついた、全身鍛え上げられた筋肉野郎が、狭い長屋の路地で大暴れしている。
「スカーレット! 物を壊す前に声をかけろよっ!」
飛び出したポムは、大男と荷車の間に割って入った。
てか、これがスカーレット?
いやフツーに、スカーレットとか言ったら、ヴィヴィアン・リーみたいなほっそりした美女が出てくるんじゃないの?
なんなのこの、見上げるようなデカい筋肉ダルマはっ!
「テメェが期日までに、きっちり返済にくれば、俺がわざわざ出張る必要もないんだよっ!」
スカーレットが、声を荒げる。
「まぁ、スカーレットさんご苦労さま。ごめんなさいね、私がそちらに行けばよかったんだけど」
騒ぎを聞きつけたのか、ブランシュ嬢も駆けつけてきた。
「ブランシュが謝るこたぁ、ねえよ」
えへへ……とか言って、今まで大暴れしていた大男が、借りてきた猫みたいに大人しく、眦を下げてデレデレになった。
「いや、期日より早いし。そもそも姉さん狙いなの、あからさまだし」
ポムがぼそっと呟く。
なるほど、なるほど。
スカーレットはブランシュ嬢の信奉者なのか。
つまりは俺のライバルかっ!
「はい、これ、今月分」
「なんだよ、また利息だけかぁ〜? こんなんじゃオマエ、いつまで経っても返済終わんねぇぞぉ〜」
袋の中身を見たスカーレットは、割と大人しく金を受け取り、むしろ親切な忠告に近いセリフを吐いた。
「そんなん、百も承知です〜」
「わかってんなら、もっと稼げちゅーの。いつまでもブランシュに心配掛けやがって……」
最後の方は、むしろブランシュ嬢の心配しかしてない発言だが、それ以上に。
なんか借金の取り立て屋にしては、もしかして根がお人好しなんじゃないのか? あの筋肉ダルマ……?




