6.防衛都市と最高の美人【3】
「まぁ、ポムが? それはあの子にしては、随分親切ねぇ……」
「えっ?」
ブランシュ嬢が、まさかの奴隷肯定派? と思ってびっくりしていると、彼女は困ったように笑った。
「ごめんなさいね。でも、防衛都市は、審査がかなり厳しいのよ」
そう言って、ブランシュ嬢が説明してくれたところによると。
非常時に周辺の村人を受け入れる度量がある防衛都市だが、それはあくまで第一壁の内側まで……なんだそうだ。
防衛都市は、全部で三層の壁がある。
俺が通ってきた第一壁は、魔物などの外敵から命を守り、第二壁は市民の財産と命を守る。
ただしこの第二壁が落ちたら、防衛都市は陥落だ。
第三の壁は、辺境伯の城の周りを囲む壁で、第二壁が落ちたら防衛都市もろともに壊滅させる大規模魔法陣を発動させるまでの時間稼ぎのためのもの……だという。
逆に言えば、防衛都市の第二壁は市民以外の命と財産に責任が無いってことになる。
ポムが俺に問うた「市民権あるの?」は、第二壁の中に入る権利が有るか無いかって意味も含んでいたわけだ。
「近隣の村人でも、市街に入るためには手続きと審査を受けなければいけないのだけど。審査は最短でも一年は掛かるのよ。身元がよくわからない "難民" だと、降りない可能性もあるのよ」
と、ブランシュ嬢が親切に説明してくれた。
「でも……、俺はすんなり通してもらえたよ……な?」
ブランシュ嬢を正面から見ると眩しすぎるので、俺は泳がせた目線をポムに当てた。
「そりゃ〜、タイガが僕の "財産" とみなされたからでしょ〜」
「奴隷は個人の持ち物だから、市民の財産として第二壁が守るべき対象になるの」
その代わり、奴隷の言動は持ち主に全部の責任が掛かるのよ。
と、ブランシュ嬢が最後に付け加えた。
「そんならそうと、先に言えよ……」
ブランシュ嬢と分かれて、長屋の部屋に入ったところで、俺はポムにそう言った。
「だから、そ~言ったじゃん」
「どこがっ!」
微妙に無責任なポムにちょっと腹が立ったが、こんなことで怒ったって仕方がない。
ここはブランシュ嬢の美貌を思い出して、心を和ませよう……。
「タイガって、勘定できる?」
「うん……、たぶん……」
「じゃあ、ちょっと手伝ってよ」
ポムは、売上金と思わしき金を数えている。
ついでに金の価値が分かるので好都合だったから、俺は一緒になって金を数えた。
「コレが仕入れで、こっちが売上は分かるんだが、そっちに分けてんのはなんだ?」
「だから言ったでしょ〜、借金の返済用で〜す」
俺たちがそんな話をしているところで、外からなんか音がした。
「あ、ヤベッ! もうスカーレットが来ちまったっ!」
「スカーレット……って、誰だよ?」
「借金取り!」
ポムは慌てて分けた金を袋に詰めて、外に飛び出していった。




