6.防衛都市と最高の美人【2】
街の中は、なんとなく某ねずみ王国っぽいのかな? と思っていたが。
俺の想像よりも似て非なるものだった。
そもそも、あの遊園地は夢と魔法の王国だが、ここは剣と魔法の世界って感じだし、なんというか、空気がもっと下町っぽい。
もっとも、ポムが向かっているのが平民の中でも収入の少ない者が多い地区なので、そういう空気なのかもしれないが。
一応言っておくが、ポムは "最下層" ではない。
簡単に言えば、一番底辺の貧困層とは、つまり第二壁の外側で暮らす者たちを指す。
読み書きが出来て、商売を成り立たせ、市民権を得ているポムは、最底辺の一個上……って立ち位置になるらしい。
荷駝車を引いていた駝鳥は借り物で、それを返すと荷駝車は荷車となり、ポムが引いて俺が押すことになった。
俺はブラック企業勤めで、パシリばっかりやらされてはいるが、本業はSEで、一応はホワイトカラーに分類される。
何が言いたいのかと言えば、荷車を押すなんて肉体労働に、全く向いてないってことだ。
息を切らし、ヒイヒイ言いながら二十分ぐらい移動したところで、ポムが足を止めた。
「おかえりなさい、ポム」
ポムに微笑みかけてきたのは、往年のハリウッド女優である "グレース・ケリー" みたいな清楚な美人だ。
髪はグレース・ケリーと違って白っぽいが、上品な美貌はまさにヒッチコックの裏窓に出てきた彼女そのものと言っていい。
ただし、ポム同様に頭にロップイヤーのウサギ耳がついている。
しかしむしろそれは、まとめ髪によってさらけ出されたうなじの美しさに、ロングヘアー要素を足す "ご褒美感" しかない。
「ただいま、姉さん」
俺が、美女の美貌に言葉も失っているのを差し置いて、ポムは美貌の美女に駆け寄ると、あろうことか抱き合って、頬にチューまでしている。
「あら、あちらの方は?」
「ああ、うん、途中で拾ったんだけどね……」
ポムのかなり省略された説明だけでも、美貌の美女は同情顔で俺に歩み寄った。
抱き合ったり頬にチューしたりしてた時に気づくべきだったのだが、美貌の美女の背丈は、ポムと大差ない。
俺を見る視線には、 "こんなに小さいのに……" って感情も、大いに含まれている気がする。
「大変でしたのね」
「え……、いいぇ、あの……その……」
俺は、ポムが吹き出すほど狼狽えつつ、しどろもどろに答えた。
ぶっちゃけ、グレース・ケリーは俺が考える史上最高の美女だ。
そんでもって、武藤礼子の声で喋ってくれたりしたら、もうなんにも文句なんてない。
それが、まさに、全くの望み通りの姿と声で、眼の前に立っているなんて!
「僕の姉さん……つっても、血の繋がりはなくて。孤児院で一緒に育ったから、姉さんみたいなもんでさ」
「はじめまして、ブランシュと申します」
微笑みが美しすぎる!
「あの……、あの……、俺はかざぐる……、えっと、タイガといいます。……そのぅ……ポムの奴隷で……」
俺はそもそも初対面の相手が苦手なのだが、女性を前にするとそれが極端にひどくなる。
女性に対する憧れが強すぎて、話をしようにも舌がこわばって上手く話せなくなるのだ。
しかもそれが、史上最高の美女となったら、動きがカクカクするのをどうしようもなかった。




