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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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犯人は、この中にーー

 むかしむかし、山のふもとに、働き者の夫婦が住んでおったと。ふたりは朝に夕に、山の神さまに手ぇ合わせて、感謝を忘れなんだ。

 ある年の冬のことじゃった。朝、いつも通りに山へ薪を採りに行った夫が、日が暮れても帰ってこねぇ。雪はしんしん降り続け、空気は凍てつくように冷たかった。女房は、胸さわぎがして、提灯に火をともして山へ向かった。

 女房は雪に足をとられながら、何度も夫の名を呼んだ。やがて、かすかに返事が聞こえた。声を頼りにたどり着いてみりゃ、夫は谷すじで足を痛め、動けなくなっておった。

 だが、女房にゃ力がねぇ。夫を背負って帰ることもできず、どうしたものかと困り果ててしまった。「せめて、風だけでもよけよう」と、ふたりは雪をかき分け、地面に穴を掘りはじめた。

 すると、どうしたことか、そこからぽっぽと湯気が立ったんだと。手を入れれば、まるで春の陽だまりのように、ぬくもりがあった。穴を掘り続けると、そこから温かい湯が湧き出てきたんだと。ふたりはその湯に足をひたし、身を寄せ合って夜を明かした。

 朝日が差すころには、夫の足の痛みは不思議とすっかりひいておった。それからというもの、その湯は山の恵みとして湧き続け、村人たちを癒やし続ける湯となった。

 いつしか、人々はそこをラドン温泉と呼ぶようになったとさ。


「湯の元神社は、温泉のはじまりとなった夫婦を祀ったとされる場所なのさー。そこを壊すなんて、まっこと許せないさー!」


 サードンが珍しく感情を荒らげている。

 その場には、再びアースベルの主要メンバーが一堂に会していた。神社の御神体が破壊され、自警団8名が倒れた――ラドン村の人々にとっても、自警団にとっても、これは大きな痛手だ。


「そこまでして剣が欲しいなんて、剣が大好きなんだねっ」

「まったく、犯人はどれだけ剣を盗む気だの」

「合計8本になりますね」


 ダノンの憤りにレイアが答えた。


「いや、倒れた8人の自警団が全員剣を持っていたわけじゃななく、今回盗まれた自警団の剣は2本だ。棍棒や弓矢など、剣以外の武器は盗まれていない」

「すみません、モーリスさんの武器はスリングショットですから」

「スリングショットって、パチンコにゃん。そんなの武器になるのかにゃん?」


 さて――ここで俺はどうしても、皆に確認しておかなければならないことがあった。重い空気の中、俺はテーブルに肘をつき、両手を組んだ。


「……みんなに、ひとつ確認したいことがある」


 そして、全体にゆっくりと視線を巡らせ、厳かに切り出した。


「俺たちの動きや、剣の所在について――誰か、外に話した者はいないだろうか?」


 しん……と静まり返る室内。答えはなかった。


「もしいたとしても、責めるつもりはない。誰かに話したというなら、正直に言って欲しい。そこから犯人に情報が漏れたということになるからな。むしろ、そうであってほしいとさえ思っている」


 だが――やはり返事はない。


「……誰もいないんだな。なら、こう言わざるを得ない」


 集まっているのは、前回の主要会談と同じ、ダノン、サードン、エルマ、ミーア、レイア、ニテロ、マッキィ、リリィ。俺は一息置いた後に、こう宣言した。


「こんなことを言わなければならないのはとても残念だけど……この中に、『犯人』あるいは、その協力者がいる可能性が高い」


 その一言に空気が張りつめる。誰もが、息を呑んだ。


「そ、それは……とんでもない話さー!」

「す、すみません……でも、そんな……私たちの中に……」

「で、その根拠とやらを、聞かせてもらおうかの」


 皆の視線が俺に集まる。俺はゆっくりと説明を始めた。


「まず、湯の元神社の御神体――その中に祀られていた剣が盗まれた。あの場所に剣があることを知っていた者は、極めて限られている。俺でさえも、その存在を知らなかったくらいだ。外部から来た者が知っているとは思えない」

「確かに、もう長くラドンに住んでいる某でも、知らなかったことにて」

「御神体の中身の話など、安易に明かすことでなはいさー」

「それだけじゃない。湯の元神社は、他と比べて警備が薄かった。そして、あえてそこが狙われた。剣が集まっている場所は他にもあるというのに、だ」


 俺は一息置き、視線を全員に巡らせながら、皆の表情の変化を確認した。


「剣の数だけで言えば、儂が見ておった巳人たちを収容している牢や、ミーアが見張っていた自警団本部の方が遥かに多いはずじゃな」

「某の鍛冶場にも、相当数の剣があるにて……所詮、某の鍛えた剣など狙う価値すらない、ということにて……」


 ニテロがぽつりと呟き、少し肩を落とす。その姿に、今は落ち込むところじゃないだろと、内心でツッコミを入れつつ、俺は本題へと話を戻した。


「そして――倒れていた自警団の状態にも、明らかに不自然な点がある。棍棒や弓矢などの武器を持っていた者たちは、腰、あるいは背中にそれらを収めたままで、争った形跡は一切なかった。それに、神社の境内を警備していた全員が、なぜか御神体のある社の奥に集まって倒れていたんだ」

「確かに変ですね。異変を察知して皆が社に駆けつけた、という感じでもなさそうです」


 この奇妙な状況に対して俺なりの仮説を説明する。


「こう考えると辻褄が合う。彼らは、おそらく信頼していた誰かと共に、警戒もなく一緒に奥へと入っていった。そして、その油断を突かれる形で……魂を奪われた」


 重苦しい沈黙が、場を支配していた。

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