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エンジニアによる異世界革命はじめました〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第二章 立国編

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有事の備えは嬉しいな

 先の巳人の襲撃は、アースベルの色々な課題を浮き彫りにした。自警団を突破された時点で住民たちに避難勧告を指示したそうなのだが、「あれ? 避難って、どこに行けばいいんだっけ?」という、割と大事な問いに、誰も答えられなかったのだ。ダノンさんは「あっちの丘とか景色もいいからどう?」とか言ってたらしいけど、それもうただの世間話レベルだし。結果として、巳人達が民家に大きな被害を与えなかったことは幸いだったが、元首として、これはもう反省するしかない。

 というわけで、避難経路をきちんと決めて、他国からの攻撃や災害といった有事の際に、みんなが避難できる場所を急いで用意することにした。誰が名づけたか、その名も『有事会館』。まあ、有事の際に集まる場所ってことで分かりやすくはある。どんな緊急事態でも一定期間、最低限の生活ができるように、内部には調理設備もあるし、寝床も整えた。浴場も完備。ついでに、無事を祈るための祭壇も設置。それなりに多機能だ。とはいえ、俺としては正直ちょっとこの名前が気になる。それは、俺の本名、由自(ゆうじ)とかぶるからだ。やんわりと、他の呼び方、『ふれあい会館』とかにできないかなって促してみたけど、ダノンさんは「分かりやすさが一番だの」って言うし、サードンさんほ「七音は語呂と縁起がいいさー」とか言ってるしで、もう諦めた。


「あーっ!」


 有事会館の視察がひととおり終わったところで、エルマが突如として大きな声を上げた。


「師匠、どうした?」


 エルマは愕然した様子で答えた。


「……茶室が、ないのじゃ!」

「いや、いらんだろ」


 俺は至極真っ当な意見を返したと思うが、エルマは呆れたように溜め息をつく。


「やれやれ……お主、まるで分かっておらぬのう。茶室とは、ただ茶を飲む場所ではない。あの狭く閉ざされた空間こそが、腹を割って語り合う密談に最適なのじゃ。表沙汰にはできぬようなきな臭い話をするには、あれ以上の空間はあるまい!」

「きな臭い話をしたいのかよ! っていうか、ここ避難場所なんだが」

「非常時こそ、心の平穏じゃあーー」


 この人、普段は割としっかりしているのに、お茶のことになると手に負えない。


「リバティの旦那、ご依頼の武器、準備できましたぜ」


 有事会館の視察が終わったところで、ハンツがやたらキメ顔で敬礼してきた。自警団きっての自称仕事人には、有事の際のための武器を集めてもらっていたのだ。


「さすが、兄ちゃん、仕事早いね。非常時用の武器を用意するなんて、まさに『備えあれば楽しいな!』だね」


 横からモーリスが自信満々に声をかける。


「おいおい、それを言うなら『備えあれば嬉しいな』だろ?」

「さすが兄ちゃん、物知りだね!」

「わーっはっは」


 もちろんそこは『憂いなし』なのだが、馬鹿馬鹿しくてこの二人のやり取りにツッコむ気力も湧かない俺がいる。


「皆さん、お疲れ様です。いつもすみません」


 そこへ現れたミーア。普段より声が暗く、表情も暗い。


「お気遣い感謝ですぜ。けど、ミーア嬢のためなら、俺の粉骨は最新でさぁ!」


 ……やっぱりなんか違っててもやっとするのだが、それより俺はミーアの様子の方が気になっていた。


「ミーア、どうした? まだ体調がすぐれないのか?」


 俺の問いかけに、ミーアは小さく首を振って答える。


「いえ……元気です。でも……すみません、私、本当にここにいていいのかなって……」


 その言葉に、思わず俺は足を止めた。


「えっ? ミーアの家はここだろ? 何言ってるんだよ」


 するとミーアは、怯えるように視線を落とした。


「巳人の皆さんが言ってました。私は……申人さんを滅ぼすための『旗印』だって。そんな私がここにいたら、いつか皆さんに迷惑をかけてしまうんじゃないかって……」

「そんなわけないだろ。ミーアがそんなことするはずないって、みんな分かってるよ」

「でも……私、操られてしまいましたし……それに、私はお兄ちゃんや皆さんとは違う種族ですし……」


 その声からは真剣な悩みが伺えた。彼女ももう十二歳。中学生くらいの年齢になってきた。いろいろと思い悩む年頃だろう。子供の成長は早い。俺は今、娘の成長を見守り、やきもきする父親のような心境だ。

 ちなみに俺も、この世界に来て七年程度経過しているので、見た目は十四歳くらい。肉体年齢を十五歳で止めているエルマと並んでも、近い年齢に見えるようになってきた。まあ二人とも中身は全然違うのだが……

 さて、ミーアの不安を少しでも和らげられる言葉を探そうとする一方で、前回の襲撃で捕らえた巳人たちの処遇についても考えなければならないと思った。このまま放っておくわけにもいかない。それに、森でキマイラを操っていた巳人たちもまだ残ったままだ。何か手を打たなければ、また同じようなことが起きるかもしれない。巳人の課題は山積みだ。


「リバティ! ねえねえ、大事な相談があるんだけどーー」


 その時、明るい声とともに、夢のテーマパークを設計中の子人(ねじん)のマッキィが、どこか浮かれた足取りでこちらに駆け寄ってきた。表情は上機嫌そのもの。何か良いことがあったに違いない。

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