叩っ切れ! 戦鎚ソード
アトラクションの魔道具開発に没頭するマッキィの情熱があまりに凄すぎて、俺はほとんど開発に口を挟む余地がなかった。たまにアドバイスを求められるくらいで、基本的にはマッキィがほとんど一人で進めている。そんなわけで、俺は俺で新しい魔道具の開発を行うことにした。
手元には、あの毒蛇ヒュドラの尾から手に入れたアダマント製の剣『クサナギ』がある。その圧倒的な切れ味と軽さは確かに素晴らしいが、正直、俺にはまだ使いこなせていない。そもそも俺は剣術など得意ではないということもあるが、剣が軽すぎるせいで、相手に力で簡単に跳ね返されてしまう。俺の非力な身体能力では、宝の持ち腐れなのだ。そんな時、ふと思いついたのが、勇者トオルとの戦いで手に入れた神聖武器『破壊の戦鎚』だ。この戦鎚は、魔力を込めることで重さを自在に変えられる特性を持っている。羽のように軽くすることもできれば、圧倒的な重量で敵を叩き潰すこともできる優れ物だ。さらに、所有者の手から離れても、再び持ち主の手元に戻ってくるという便利な機能もある。クサナギの切れ味を活かしつつ、必要に応じて破壊の戦鎚で重量を上乗せできれば、理想的な武器になるかもしれない。そこで俺は二つの武器を思い切って合体させてみた。
魔道具19番 戦鎚ソード
これは、破壊の戦鎚とクサナギを溶接し、近接センサーを内蔵した複合武器だ。戦鎚の先端からクサナギの剣身が突き出しており、一見すると異形の武器だが、その機能は実用性に優れている。
普段は極めて軽く、片手で素早く振り回せる。しかし、近接センサーが反応し、刀身に何かがぶつかりそうになった時には、自動で破壊の戦鎚の重さを最大限まで増幅させる仕組みになっている。これにより、軽快な操作性と圧倒的な破壊力を両立させたのだ。インパクトの瞬間は俺には持てないくらいに重くなるが、すぐに再び軽くなるため、剣をしっかり振り抜くこともできるし、落とすこともない。
さらに、破壊の戦鎚の『所有者の手に戻る』機能を活かし、ブーメランのように敵を切り裂く戦法も可能だ。
加えて、この重量増加の仕組みは防御にも役立つ。相手の攻撃を受け止める瞬間に重量が増すことで、反発力が高まり、相手の力を押し返すことができる。
そして極めつけは、打撃と斬撃、その両方を備えたこの戦鎚ソードなら、時代劇で聞いたことがあるようなセリフ、『てめえら人間じゃねえ! 叩っ斬ってやる!』を、叩いて斬って、本当の意味で実現できるという、まさに夢の武器なのだ!
ーーマスター、最後の特徴はあまり重要ではないと推定しました。
俺が自信満々に言い切ったところで、AIエージェントのロイナが、冷静にツッコミを入れてきた。少し肩を落とした俺を見て、師匠のエルマがニヤニヤしている。
「我が弟子ながら、相変わらず予想の斜め上を行っておるようじゃな」
その顔には、感心とも呆れとも取れる表情が浮かんでいた。
「お主の魔道具はどれも実用的で素晴らしいが、どうにも見た目のエレガントさに欠けるのが惜しいのう」
まあ、ハンマーから剣が生えている時点で、確かに見た目はかなりアレだ。俺は不服そうに反論した。
「俺はエンジニアであって、デザイナーじゃないからな。見た目を良くするのは得意じゃないんだよ」
「ふむ、それはよく分かっておるが、デザインも付加価値の一つじゃぞ。その点、あの子人の魔道具師は見込みがありそうじゃ。儂でもときめいてしまいそうなファンシーなセンスを持っておる」
確かに、マッキィの設計している魔道具は見た目もかわいらしくて、遊び心が感じられる。俺と同じ魔道具師でも、得意とする分野は少し違っているようだ。だからこそ、一緒にやればより面白いものが作れそうな気がする。彼女とはいい仲間になれるかもしれない。
デザインセンスはさておき、完成した戦鎚ソードを試すため、俺は村の森にある大木を前にして剣を構えた。試し斬りだ。チェーンソーがあってもこれを斬るのはなかなか大変だろう。
俺は大木を見据え、戦鎚ソードを勢いよく大木に突き立てた。剣が木肌に触れる刹那、設計通り、剣の勢いはそのまま、重量のみが千倍以上に増加する。すると、まるでバターにナイフを入れるかのように、あっけなく大木が真っ二つになった。切断面は驚くほど滑らかで、美しいまでに一直線だ。
「……これ、見た目はアレだけど、最強の武器かもしれないな」
これなら鉄でも楽に切れそうだ。憧れの斬鉄剣だよ。普通の剣を破壊の戦鎚にくっつけても、このアンバランスな重量差ではすぐに刀身が折れてしまうだろう。決して変形しない硬度を誇るアダマントの剣だからこそ実現できたのだ。
予想以上の成果があまりに嬉しくて、俺は思わずその場で絶好調ダンスを踊ってしまった。戦鎚ソードを片手に軽快なステップでくるくる回る。
ーーマスター、お楽しみのところ失礼しますが、来客のようです。
そんな時、不意に耳元で聞こえた冷静な声のロイナの通知に、思わず我に返ってちょっと恥ずかしい気持ちになった。どうやらサリオン城からの呼び出しらしい。俺が絶好調の時には、なぜか高確率で城から呼び出しがかかる気がする……。まるで俺調子に乗ってるセンサーでもついているかのようだ。だが、今のサリオン城には、あの高圧的なゴルディアスはいない。実際、それは呼び出しというより、ハルトからのお誘いだった。『新しい皇帝が就任したから、ぜひ話したい』とのことだが、一体誰が新皇帝になったのだろう。やっぱりハルトなのだろうか。以前であれば、サリオン城からの呼び出しには最大限に警戒していたが、今回はむしろ、楽しみな気持ちすら湧き上がってくる。
「まあ、行ってみるか」
俺は魔法車に乗り込み、サリオン帝国へと向かった。
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