お裁きしました
ひと段落ついたところで、ミーアは周囲の石化したものを元に戻し、『擬態』の魔法で足のあるヒトの姿に戻った。そして、ハルトとエルマも合流し、これからの対応を話し合うことになった。
俺たちの目の前には、縛り上げられた三人の男たちが転がっている。魔王軍のトララス、そして誘拐犯のハンツとモーリスだ。ミーアから話を聞いた結果、金目的の誘拐犯はハンツとモーリスだということがわかった。だが、ミーアを連れ去ろうとしていたトララスも、明らかに同罪だろう。
「おのれ、申人が……この俺を倒したからといって、いい気になるなよ。ジャガーノート様が黙っていると思うな」
トララスは悔しそうに吐き捨てた。
「ジャガーノート? 誰だ、それ?」
聞き慣れない名前に俺は首をかしげた。
「フッ、無知な奴だ。ジャガーノート様は、魔王ヘルヴァーナ・リリィ様の腹心であり、四天王の1人。 そして俺の上司でもある」
「四天王、か……」
思わずため息が漏れた。どこの世界にも四天王っているんだな。
「まあ、ちょうど良いわ。他にも魔王軍の情報について色々教えてもらうとしようかの」
エルマが不敵な笑みを浮かべて近づいてきた。
「儂の知っている魔王とは代替わりしているようじゃな。さて、新しい魔王は何を企んでおるのか、じっくり聞かせてもらおうかのう」
エルマは少し楽しそうだ。
「フン、我々の計画など漏らすはずがない。たとえ拷問されようともな」
トララスは口を固く結び、鋭い目で俺たちを睨みつけた。
「じゃあ、俺の魔道具をもう一度試してみるか?」
俺はニヤリと笑って言った。
「さっきの『ヒトジゴク』の中に入れて、溢れんばかりのフナムシと一緒に、永久に暮らしてもらうってのはどうだ?」
「……それはさすがに無理だ。生理的に」
トララスの顔色が変わった。
「フハハ! もうこうなれば道連れだ! 魔道具師は貴様だけではないぞ。ヘルヘイムにも優秀な魔道具師はいるのだ」
トララスの胸元が不気味に光り、複雑な魔法陣が浮かび上がった。
「ヘルヘイムで開発された強力な爆発の魔道具だ。辺り一帯、吹き飛ばしてくれる。俺と一緒に地獄に落ちるがいい!」
「自爆する気か!?」
俺は反射的に後ずさった。
「さらばだ。申人ども!」
トララスが高らかに笑い、魔法陣が眩い光を放ち始めた。その光が膨張し、今にも爆発しそうなほどに膨らんでいく。まずい……
「ほれ、空間⭐︎転送」
エルマが軽く指を弾くと、魔法陣が出現し、トララスの姿がかき消えた。
「……え?」
「なにやらヤバそうだったので、空間転送の魔法でヘルヘイムに送り返してやった。向こうでは今ごろ大爆発じゃろうな」
エルマは事もなげに言った。
「送り返した……って、魔王軍の本拠地に?」
「うむ、故郷に返してやったんじゃ。親切じゃろう?」
エルマはケラケラと笑った。さすがは師匠……
さて、次は残る二人をどうするか。
「す、すまなかった……どうか、命だけはお助けを!」
情けなく命乞いをしているのは誘拐犯の一人、モーリスだった。
「……ここは、地獄だ。アヒャ、石が怖い……石が、硬いの。石が襲ってくる……石は嫌ァ……」
もう一人のハンツは、虚ろな目で訳のわからないことを呟いている。心が壊れかけているようだ。まあ、それは自業自得なので仕方ない。
「師匠、こいつら、どうしたらいい?」
俺はエルマに尋ねた。
「ふむ、イザベル村の秘密を知られたからには……やはり、石像にして、永久に転がしておくのが良いかのう」
エルマは無表情でさらりと言った。
「あー! それだけは勘弁を――!」
モーリスは涙声で地面に頭をこすりつけて懇願している。
「お兄ちゃん、賢者のお姉ちゃん、待ってください。ゆーかい犯の人たちですが、そんなに悪い人ではないと思います。トララスさんから私を守ってくれたりもしました」
ミーアが心配そうに言った。まあ、ここはミーアの顔に免じて、石化転がしの刑は免除してやるか。
「リバティさん、どうしましょう? ハンツとモーリスの二人はサリオン帝国に連れ帰って厳しく裁いてもらうこともできますが……」
ハルトが提案してくれるが、ミーアの正体を知られてしまった以上、そのまま返すのはリスクが高い。サリオン帝国が騒ぎ出す可能性もある。俺は二人を見下ろして言った。
「ハンツ、モーリス。俺からの提案だ。このままサリオン帝国に戻れば、間違いなく投獄されるだろう。誘拐は重罪だからな。場合によっては、極刑の可能性もある」
「きょ、極刑……?」
モーリスは青ざめ、震え始めた。
「サリオン帝国の法律は厳しいですからね。確かに誘拐はそれだけ重い罪です」
ハルトが静かに補足する。
「もう一つの選択肢として、イザベル村で働いて罪を償うというのはどうだ? この村は今、人手が足りていない。もちろん給料も出す」
「は、働く……?」
モーリスは戸惑った顔をしたが、やがて希望を見出したように顔を上げた。
「極刑と比べたら、ここで働く方がはるかにマシだ……兄ちゃんも、きっとそう言うはずだ」
「俺は……」
うつろな目をしていたハンツが、ようやく口を開いた。
「……石が、石が怖い……石はやめて……けど、ここで一生懸命働くなら、石にされずに済むのか?」
エルマはニッコリ微笑んで答えた。だだし、その目は笑っていなかった。
「うむ、そうじゃ。但し、もし逃げ出そうとしたら、その時は今度こそ、石化して転がしの刑じゃからな」
「ヒエエー!」
モーリスはガタガタと震え上がり、ピンと背筋を伸ばした。
「分かった。働く! 全力で働かせていただきます!」
モーリスとハンツは何度も頭を下げた。
「じゃあ、それで決まりってことで」
こうして、イザベル村は平和を取り戻し、新たな労働力も手に入れた。最後は色々あったが、こうして、第一回イザベル村ツアーは終了した。
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