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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第六章 原理編

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スルトの記録

 その言葉には脅しの意図はない。ただ、彼女が実際に観測した事実を述べているだけだ。


「……あなたは、スルトを見たことがあるのか?」


「ああ。原理の管理室リベル・アドミニストラからだけれどね」


 アーキテクトは遠い記憶から少しずつ取り出すように、ゆっくりと語った。


「スルトは、常に太陽のように輝いていた。存在しているだけで周囲が発光し、焼け付く熱を放っている。あれが触れたものは例外なく光に呑まれ、跡形もなく消滅した。

 当時、最強だった魔導士たちの魔法でさえ、何の効力もなく消え去った。都市を滅ぼす規模の魔法ですらね」


 初めて聴いた目撃証言に、俺は息を呑んだ。


「奴が拳ほどの大きさの光球を放つだけで、一つの国が消し飛んだ。その後には、地表を深く抉った巨大な穴だけが残ったよ。そしてスルトは、それを世界中へ雨のように降らせた」


 俺は返す言葉を失った。話の通りなら、その光球一つでさえ、最上級魔法を遥かに超えている。


「……分かっただろう?」


 アーキテクトが冷静に断言した。


「今回のターンは、ワタクシたちの負けなんだ」


 その声には、諦めも後悔もなく、ただ当然の結論を述べているようだった。


「キミの故郷のミッドガルドも、上位世界のアールヴヘイムも、この世界と繋がっている。ここが焼き尽くされれば、大きな影響が出るだろう。あるいはスルト自身が、直接滅ぼしに行くかもしれない」


 そんな怪物が現実世界――ミッドガルドに現れたら、たとえ世界中の破壊兵器をぶつけたところで勝ち目はないだろう。


「結果として、人間……いや、あらゆる生命の九十九パーセントは死滅する。わずかに焼け残った土地と、古代遺跡へ逃げ込めた者たちだけで、文明をやり直すことになる」


 二万年前にも、それが実際に起き、古代文明が崩壊した。

 そこから再び文明を築き上げたというのに。


「だからキミへ原理の運営を引き継ぎたい。世界が滅び、次にスルトが目覚める二万年後こそ、ワタクシたちが勝利できるように」


 彼女はカップを持ち上げた。


「それが、ワタクシの望みだ」


 俺は黙ったまま、すっかり冷めたお茶へ視線を落とした。


「……このターンでも、まだ、やれることはあるはずだ」


 俺が声を絞り出すように言うと、アーキテクトは首を傾げた。


「そうかな? 二万年間でできなかったことが、残りわずかな時間で覆せるものだろうか」


 純粋な疑問として尋ねているようだった。


「まあ、スルトが目覚めるまで多少の時間は残されている。もう少しキミの答えを待つこともできるけれど」


「ああ。ギリギリまで待ってくれ。俺は、諦めが悪いんだ」


 俺が立ち上がると、アーキテクトは、少し眉をひそめた。


「分かった。だが、スルトが目覚め、うっかり消滅しないよう気をつけてくれ。キミは代え難い存在だからね」


 俺にとって代え難いのは、今のこの世界の方だ。


「『原理の扉』はそのままキミに残しておく。気が変わったら、いつでも戻ってくるといい」


 そう言って彼女は、世界各地に存在する原理の管理室リベル・アドミニストラへの入り口について教えてくれた。


 偉大なる大陸(ギンヌンガ・ガルド)、ヨトゥンヘイム、ムスペルヘイム。

 各大陸に一つは存在しているらしい。


「……そういえば」


 俺はこの空間から出る前に一つ質問してみる。


「あなたは、ここから出ないのか?」


「ああ。というか、出られない」


 アーキテクトは即答した。


「ワタクシは、既に『原理の一部』だから」


 白い空間の光が、静かに彼女を照らす。その体はわずかに透けて見えた。


「アーキテクトになった時、肉体は捨てた。遥かな時間を管理者として存在し続けるためにね。だから、ワタクシが影響を与えられるのは、世界の仕組みだけ。現実世界を観察することはできるが、直接干渉することは、ほとんどできない。」


 管理者になるということは、世界のルールを決められる権利と引き換えに、世界の外側へ追いやられることなのかもしれない。

 俺が管理者になった場合も、同じように何かを犠牲にする必要があるのだろうか。

 ……いや、今はそれを考えている場合じゃない。


 俺は、目の前に迫っている厄災、スルトを止める方法を探さなければならない。

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