禁書を巡る事件
俺が考え込んでいると、スレイプが不意に口を開いた。
「……それにしても、分からんことがある」
「何だ?」
「犯人は、どうやって禁書庫の鍵の在処を知ったのかということだ」
それは俺も同意見だ。スレイプが犯人でないなら尚更だ。
「疑いをかけられているヴォイド殿は、どれだけ尋問しても『記録にない』としか答えん。鍵をどう入手したのか、その後どう処理したのか、何一つ説明できない」
……ヴォイドは犯人ではない。どんなに追求したところで、彼女が存在しない記録を答えることはないだろう。
「鍵の場所を知る者は限られている。簡単に漏らすとも思えん。心でも読まねば、不可能なはずなのだが」
――心を読む少女。
その時、不意にヒッポの顔が脳裏をよぎった。
いや、さすがに考えすぎか。
「……そういえば」
俺は彼女について思い出したことを口にした。
「ヒッポが、過去に禁書絡みの事故があったって言っていた」
「ああ、あれか」
スレイプは遠くを眺めるように頷く。
「あれは実に痛ましい事故だった。禁書によって命を落とした者がいる。当時はまだ禁書指定前だったが、原因となったのは……そう、『死者の書』だったはずだ」
「死者の書?」
俺は思わず聞き返す。
「そうだ。奇しくも、今回の事件と同じ禁書だ」
今回、禁書庫から盗まれた死者の書。
ケイローンもまた、その禁書によって命を落とした。
無関係とは思えない。
「詳しく知りたい」
俺がそう言うと、スレイプはしばし思案するように目を伏せ、返答した。
「ここは原理の大図書館。あらゆる知が集う場所。知りたければ、ご自身で調べられるがよかろう。何せ、もう二十年以上前の出来事だ。私の記憶も正確とは限らん」
突き放されたようにも聞こえたが、スレイプは関連文献が収められている書架の位置を詳しく教えてくれた。
その後スレイプは、ふと思い出したように口を開いた。
「そうだ、元首殿。一つ、伝えておかなければならないことがある。調べ物は急がれた方がよい」
その声音は妙に重かった。
「どういうことだ?」
「原理の大図書館は、近いうちに閉鎖される予定だ」
「……何だって?」
思わず聞き返す。
「禁書庫の鍵が一つ、盗まれたまま所在不明となっている。そして犯人も未だ特定できていない。つまり犯人は今もなお、いつでも禁書庫へ侵入できる状態にある。これは非常に危険なことだ」
スレイプは静かに続けた。
「ゆえに、事件が解決するまで原理の大図書館を閉鎖し、何者も立ち入れぬようにするしかあるまい」
それはまずい。
図書館が閉鎖されれば、ムスペルの巨神について調べることができなくなる。
ただでさえ残された時間は少ないのに。
「この件について、議会でも反対する者はほとんどおらん。このままいけば、明後日にでも閉鎖が実施されるだろう」
俺は深く息を吐いた。
どうやら、悠長に真犯人探しをしている時間はなさそうだ。
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