回帰と帰順と不死の竜
ニーズの翼が動くと、風竜も同調して羽ばたく。ニーズの手の動きに合わせて風竜の脚が攻撃を繰り出される。両者の動きが完全に同期している。
人と竜では純粋な身体性能に差がある。特にリーチの差は大きい。しかも動きの判断はニーズの頭脳で行われる。厄介だ。
俺は回避に専念しながら、詠唱に入る。
「ホワイル――開け転送の門。百メートル上空に導け、魔法弾――エンド」
同時に創造魔法で小型の高密度物質を生成する。岩ではない。密度だけを極限まで高めた弾丸だ。
魔法陣が『帰順』し、増えた魔法陣から弾が幾つも生成される。
弾丸は転送の魔法陣により落下を繰り返し、重力加速度を上乗せしていく。隕石射出の応用だが、弾が小さい分、魔力の消費が抑えられ、数を増やせる。
ニーズも即座に応じる。風竜の前方に巨大な魔法陣を展開し、氷の矢を連射してくる。
俺は体を捻り、最小限の動きで軌道を外す。
『弾丸射出!』
俺は十分に加速させた弾丸を撃ち出す。
いくつかはニーズの視線に捉えられ、軌道を戻される。だが、すべては制御しきれない。
数発が風竜の翼を貫いた。
巨体が揺れ、空中で体勢を崩す。高度が落ちる。
――よし、俺の攻撃は、竜にも通る。
だが、喜ぶのは早すぎた。
ニーズが視線を向けると、それだけで修復が始まる。破れた翼が再構成され、損傷が消える。
骨から竜を復元できる以上、この程度はニーズにとって造作もないことだろう。
わずかな落胆で俺の高度が落ちた、その瞬間――足元を高エネルギーが走る。水竜の電撃だ。電気ウナギみたいだな。
『弾丸射出!』
残りの弾を水竜に叩き込む。電撃は断たれたが、動きが止まるのは一瞬だ。ニーズが視線を向けただけで、損傷は再構成される。
竜をいくら削っても意味がない。狙うべきは、本体。
大きく跳躍して噛みつこうとする地竜の巨体をすり抜け、火竜の炎を掠めて回避する。風を裂き、一直線にニーズへ踏み込む。ニーズが両手を前に出す。
「混沌の彼方に眠る原初の衝動よ。終末の滅衝となりて顕現せよ――万物を砕け」
『終焉の滅衝』
空間を裂くような最上級の衝撃が一直線に叩きつけられる。
『反転行列!』
俺は発動の瞬間に合わせ、力の向きを反転させる。衝撃はそのまま弾き返された。ニーズは即座に身を翻す――その回避で生まれた空隙を使い、間合いを一気に詰める。
『輪廻の炎!』
魔法陣を展開。直後、『魔法陣帰順』が応じ、陣が自律的に増殖する。上下左右、前後――一瞬で包囲が完成する。
次の瞬間、火炎が同時に噴き上がった。逃げ場のない全方位照射がニーズを呑み込む。
ニーズは視線を走らせ、回帰邪眼で魔法陣を消していく。だが、消し切る前に熱は通っている。外套は焼け、皮膚も焦げ付いていた。
「……小手先では崩せぬな。やはり、大魔王」
ニーズは外套を投げ捨て、強靭な辰人の体を剥き出しにした。
ノーガードならニーズにも火力は通る。だが、決定打には至らない。
「大魔王同士の戦いは、歴史を揺るがす出来事だ。両者が死力を尽くして激突すれば、世界が滅びても不思議ではない」
ニーズは上空へと間合いを取り、眼下を見下ろす。
「ならば――この戦いを『世界の終末』と呼んでも、過言ではあるまい」
回帰邪眼が、これまでにない強さで輝く。
「そなたも知っているはずだ。なぜこの地にヴァルハラを築いたかを」
ここは旧サリオン帝国の中心。かつては巨大墓地だった一帯。魔力が極端に集まりやすい場所だ。
地面が波打つ。
無数の骨が地中から浮かび上がり、組み上がり、形を取り戻す。そこに肉が再構成される。
夥しい数の死者が、蘇る。
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