決戦前
相手が本当に狙っているのは、国の乗っ取りではない。
アールヴヘイムに復讐するための道具として、この国を使うつもりだ。
国民すべてが、奴にとっては資源に過ぎない。
ヴァルハラの中心核は破壊した。人々からの魔力吸収も断たれている。
内部は俺たちと巨人たちが制圧済みで、三体の魔王とウルドも拘束している。
だが、このまま終わるはずがない。
ほどなくして、皇帝プラティナスが、アースガルド全軍を率いてヴァルハラへ進軍しているという情報が入った。
できればアースガルドの人々とは戦いたくはない。
厄介なのは、俺たちがここから逃げられないことだ。
俺たちがここを離れれば、プラティナスは因果を巻き戻す奇跡の力を使い、停止させたヴァルハラを再稼働させる可能性がある。
そうなれば――
ウルドは再び力を取り戻し、国民は再び魔力を吸われる。俺たちのこれまでの苦労は全て無に帰すことになる。ここで止めるしかない。
「で、その大魔王とかに対抗する策はあるのかにゃん?」
重苦しい空気をものともせず、リリィが軽い調子で口を開いた。
「まず、ウルドは絶対に解放してはいけない。大魔王という上位の存在に対して、都合よく過去を書き換えられたら勝ち目はない」
それだけで間違いなく詰む。
「そして厄介なのは、あの奇跡の力だ。時間を巻き戻すように、あらゆる攻撃が無効化される」
「皇帝プラティナスの奇跡じゃな。あの力を目の当たりにして、神と崇める者も多い」
エルマが静かに言う。
「対策は一応ある。うまくいく保証はないが……」
「お兄ちゃんの策が外れたことはありません。偽物の善人なんて、断罪してしまいましょう」
ミーアの言葉は、いつになく強かった。彼女もプラティナスに騙されていたショックが大きいのだろう。あの人当たりの良い皇帝に……
俺は、胸の奥に引っかかっていた疑問を口にする。
「エルマ。俺の師匠は、あんただよな?」
最初に過去を書き換えられたとき、エルマは存在を消され、プラティナスが俺の師ということになっていたはずだ。
だが今、エルマはここにいる。
「ふむ。本意とは言わんが、まあそうじゃな。魔王になってなお、手のかかる弟子じゃが」
「じゃあ、プラティナスと俺は、どういう関係だったんだ?」
エルマはふぅとため息をついて答えた。
「盟友、であったはずじゃ。ノルンの改変の影響で、本当に、都合よく記憶が削がれておるのう」
「盟友……」
「プラティナスは、先代皇帝の養子じゃ。お主がこの世界に来た頃、共に暮らしておった。兄弟のような関係であったはずじゃな」
先代皇帝――オージンさんか。
「ふらりと現れ、まだ冷遇されておった先代に取り入った。その人柄を見込まれて養子となり、やがて先代が皇帝となると、その後を継いだ。アースガルドは、お主とプラティナスが並んで築いた国と言ってもよい」
そういう歴史が、刻まれていたのか。
「だが、その人柄も偽りにゃん。中身は世界を蝕む大魔王なのにゃん」
リリィが賞賛するように両手を広げた。そういう筋書きは好みらしい。
「その事実を知っておるのは儂らのみ。国民は皆、プラティナスを信じておる。あやつの真の恐ろしさは、そこにある」
力のみでなく、信頼で統治している。
アースガルド全土が、プラティナスを守る側に回る。
トオルやレイアの顔が脳裏をよぎる。
敵は大魔王だけではない。
信じる民衆ごと、相手にしなければならない。
アースガルドは、俺が築いた国だ。
だが――その中で、俺の言葉はどれほど届くのか。
間もなくプラティナスの軍がここに到着する。一千人の巨人たちが占拠するこの地に。
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