ウルドの抵抗
ヴァルハラの導管が脈打つたび、ヴァルキュリエたちの装具も淡く光る。ヴァルハラとヴァルキュリエは、繋がっている。
「ただのヒトごときが、頭数をそろえたところで、魔王に敵うわけないにゃんよ!」
リリィが床を蹴り、黒い残像を引きながら、メイド――いや、ヴァルキュリエの一人へ肉薄する。爪と槍が交わり、火花が散る。
だが相手も速い。回転しながら槍を振り抜き、リリィの喉元を掠めた。
「なかなかにゃんけど、甘いにゃん!」
リリィは尾で槍の柄を叩き、軸をずらす。そのまま爪で槍を弾き飛ばした。
「強行突破する。だが、可能な限り、ヴァルキュリエたちを傷つけないで欲しい」
俺が叫ぶと同時に、グリンと巨人たちは真正面から突っ込んだ。巨体の質量で押し切るつもりだ。
「どけぇ!」
床が割れ、地が揺れる。
だがヴァルキュリエ五人は空中で隊列を組み替えた。背の装具が閃き、光の槍が雨のように降り注ぐ。
「豊穣!」
グリンが大槍を床へ突き立てる。
次の瞬間、石床を突き破って巨大な樹木が急成長する。幹が伸び、枝が広がり、空間を埋め尽くす。光槍が幹に突き刺さり、燃え上がる。
それでも樹木の成長は止まらない。
ヴァルキュリエたちは絡め取られぬよう飛翔し、距離を取った。
「ここはオレらに任せろ。この馬鹿でかい魔道具を壊せば、連中の力も落ちるんだろ? 先に行け。オレも魔王だ、連中に遅れはとらん」
グリンが立ち止まり、俺に背を向け槍を構えた。
「悪いな、頼んだ」
俺は頷き、ヴァルキュリエをグリンと亥人の一部に任せ、先へ進む。
今は速攻でヴァルハラを止める。それが最善だ。
「儂の空間⭐︎崩壊でまとめて壊してしまおうか?」
エルマが走りながら問う。
「師匠の魔法なら、確かに壊せるだろう。だが内部の兵士たちも巻き込んでしまう」
それは俺の隕石射出でも同じだ。破壊自体は可能だが、できるだけ犠牲は出したくない。
「内部へ入り、魔道具の中心核だけを潰そう」
俺たちは中央の塔へ進軍した。
内部には多くの兵士がいる。しかし俺たちを止めることはできない。
その時、視界に砂嵐のようなノイズが走った。忘れもしない感覚――これはウルドの過去改変だ。
今回は何を変えた? 俺は反射的に身構えた。
次の瞬間、目の前に三つの凶悪な気配が現れた。
蒼月の牙王、ガルム。
微笑の悪夢、メリー。
沈黙の巨蹄、モレク。
この場所を守るためだけに、三人の魔王。あり得ない布陣だ。
「大魔王には三人以上の魔王の配下がいると聞くが……それがこの三人ということじゃな」
エルマが淡々と告げる。
ウルドは、この瞬間に三人がここにいるように過去を改変したのだろう。
つまり、ガルムだけでなく、メリーもモレクも、大魔王の手先だった。そして今、なりふり構わずヴァルハラを守ろうとしている。
「あらあら、魔科学術師さん。ご自分で作られたヴァルハラを壊そうと? それは、駄目」
メリーが冷たく微笑む。
「メリー・バフォメット……よくまた私の前に顔を出せたにゃんね。不意打ちで眠らされた借り、きっちり返すにゃん」
リリィの瞳が怒りに燃え、紅く光る。
「エルマか。こんな場所で会うとはな。何百年ぶりだ? あぁ?」
ガルムが低く唸る。
「ああ、ガルム。積もる話はいくらでもあるが……あいにく、お主と無駄話をする気は毛頭起きんのじゃ」
エルマの周囲の空間がきしむ。
「ブモッ」
モレクが地を踏み鳴らす。ヨトゥンヘイムで相対した時より、力強さを感じる。このモレクこそが、本体なのかもしれない。
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