ヴァルハラ突入
今の俺たちの目的はヴァルハラを止めること。それに集中する。
「久しぶりにうまい味付き肉が食べたいにゃん」
屋台の匂いに、リリィが鼻をひくつかせる。
「個別行動は避けてくれ。自由度が増えれば、その分だけウルドにつけいられる隙を与えることになる」
ウルドは五分五分で起こり得た過去の出来事を改変できる。不確実な分岐が多ければ、それだけ改変される可能性が高まる。
「やれやれ。儂も茶の一杯くらい楽しみたいところじゃが……仕方あるまいのう」
エルマは俺が渡した行動マニュアルを広げた。
そこには物事の判断基準が簡潔に記されている。
・目的達成を最優先
・生命維持の危険がある場合は即時回避
・仲間の生命維持も優先して良い
・上記を除き、独断で予定変更をしない
・想定外が起きた場合は最小行動で停止し、指示を待つ
・判断に迷ったら『目的への最短距離』を選ぶ
「これ全部、守るのかにゃん?」
「ああ。全員が同じ基準で動けば、可能性の揺らぎは小さくなる。だが、それほど突飛なことは書いていないつもりだ」
ヒトの思考ほど曖昧なものはない。その時の感情や周りの状況で判断は簡単にぶれる。
ならば、その曖昧さを削る。全員の判断基準を固定し、どんな状況でもできるだけ同じ行動を取るようにする。
分岐を減らせば、ウルドによる改変の余地も減るはずだ。
やがて視界の先に、巨大な構造物が現れた。
ヴァルハラ。
白銀の塔が幾重にも連なり、中央の主柱へと集束している。空へ突き出た主柱の上部では、巨大な環状装置がゆっくりと回転していた。
塔の外壁には無数の導管が走り、淡い光が脈打つように流れている。これは、街の各所から流れてくる魔力の流れだ。それが絶え間なく主柱へと流れ込んでいく。
「以前と比べて魔力量が桁違いじゃな。よくここまで集めたものじゃ」
エルマが目を細める。だが、これは皆の犠牲の上に成り立つ結果だ。
国民全員の力が、ここに集約されている。
パレードに扮した団体のまま正面入口へ向かうと、衛兵が槍を交差させた。
「ここは関係者以外、立ち入り禁止です」
「まあ、当然にゃんね」
リリィが肩をすくめた。だが、ここまで来られれば偽装はもう十分。パレードはここまでだ。
俺は仮面を外し、衛兵と目を合わせた。
「俺だ。通してもらう」
俺の顔を見た衛兵が目を見開く。
「だ、大臣様――」
言葉が終わる前に、冷たい光が走った。
石化邪眼。
衛兵はその姿勢のまま、動かぬ像へと変わる。
「す、すみません……必ず元に戻します。これは世界の歪みを正すために、必要なことなのです……」
ミーアが謝罪しつつ、さらに光を走らせる。
俺たちは一気に内部へ踏み込む。
警備兵たちがざわめき、緊急鐘の音が鳴り響いた。
「侵入者だ! ヴァルハラを守れ!」
武器を構える衛兵たちは、次々に石になっていった。
「こいつは凄ぇ。動きを止める最適な方法じゃねえか」
グリンも感心している。
無傷で制圧するなら石化が最適だ。ミーアは謝罪しながらも容赦なく視線を走らせる。
「ヴァルハラは、命に代えても守ります!」
そこへ、聞き覚えのある鋭い声が響いた。
嫌な予感。
「ホワイト・オーダー・メイド!」
「ブルー・マー・メイド!」
「グリーン・チェック・メイト!」
「レッド・グレ・ネイド!」
「ブラック・ダイナ・マイト!」
……またこの名乗りか。
「我ら、ヴァルハラを守護する戦乙女! ヴァルキュリエ・イン・アース!」
かつてのメイドたちがヴァルキュリエとなり、魔力を帯びた鎧をまとい立っている。
「リバティ様ですか!?」
俺を見て、驚きと警戒が交錯する。
「ああ。事情があってヴァルハラを止めに来た」
「リバティ様であっても、ここは譲れません。ここはアースガルドの心臓です」
彼女たちは一斉に武器を身構えた。足元に魔法陣が展開し、淡い光に包まれる。
次の瞬間、ミーアの石化光線が放たれた。
だが、五人は散開する。床を蹴り、壁を踏み、高く跳躍。光線を軽やかに回避する。
常人離れした身体能力。
訓練だけではない。おそらく、ヴァルハラの魔力を注がれ、強化されている。
――本気でやるつもりだ。
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