アースガルド上陸
やがて、ナグルファルはサリオン城の南の港へ近づいていった。
巨人の大群を乗せた、とてつもない巨船。
そのまま入港すれば、間違いなく騒ぎになる。
「さて、ご主人様の稚拙な作戦の結果がどうなるか、見ものにゃん」
リリィがニヤついている。一体、何を期待しているのか。
ナグルファルの船体は今、鮮やかな装飾で覆われていた。
甲板には装飾灯が並び、陽光を反射してきらきらと輝いている。巨人たちも鎧の上から派手な飾りを身につけ、まるで祝祭の一団だ。
ちなみに、この飾りは航海中に俺が『創造魔法』で生み出したものである。
港がざわつく。
「なんだあの船は!?」
「ヨトゥンヘイムの襲撃か?」
兵士たちも緊張した面持ちで身構えている。
俺は甲板から大声を張り上げた。
「これはデズミー・ランドに続く新しいテーマパーク、デスミー・シーの宣伝だ!」
一瞬の沈黙。
そして皆、一斉に笑顔になった。
「なんだ、デズミーの新しいアトラクションか」
「ランドの次はシーか。キラキラしてて楽しそうだなぁ」
緊張がほどけ、武器が下ろされる。
ひとまず、うまく誤魔化せたようだ。
「信じられんにゃん。巨人の大戦艦が来ているというのに、祭りで済ませるなんてにゃん。みんなアホなのかにゃん?」
「お兄ちゃんの策は、常識さえ書き換えるのです。緻密な推論に基づく大胆な戦略……それがこの作戦の正体なのです」
リリィの呆れた声に、ミーアが力強く断言する。……いや、そこまでではないが、大胆すぎる嘘は、かえって疑われにくい、ということはある。
俺たちは顔を隠して上陸した。
巨人たちも飾り付けを施され、パレードの一団のように見せる。
久々のアースガルド。
街を歩くと、すぐに異変は分かった。
人々に活力がない。
市場は開いている。店も並び、賑わっている。通りは整備され、建物も以前より立派だ。
人々も以前のように貧困で苦しんでいるわけではない。
だが、歩く足取りが重い。皆がふらつき、虚な目をして声に張りがない。気力が抜け落ちているようだ。子どもでさえ、走っていない。
露店の主人にそれとなく尋ねると、彼は無理やり笑顔を作るように答えた。
「皇帝陛下のために、魔力を捧げねばなりませんからな。毎日、ほとんど残りません」
サリオンの街には魔道具が張り巡らされていた。建物の壁、街路の柱、広場の塔。組み込まれた吸収装置が、朝昼夜の三度、住民たちから魔力を回収する。
住民たちは、ほぼ魔力が空に近い状態で生活を強いられている。魔力が薄いと、思考は鈍る。体の反応も遅くなる。
「これも、お優しい皇帝陛下のため。私たちの生活が豊かになるために、これは仕方のないことです」
彼は犠牲を意にも介していないようだった。
魔力貯蔵庫ヴァルハラ。やはり、あれを止めるべきだ。
そして、プラティナスと正面からぶつかる前にヴァルハラを破壊するという選択は、とても理にかなっている。
ウルドの過去改変の力は、まだ有効だろう。俺たちがプラティナスの配下をいくら倒しても、彼らはそこにいなかった、と過去を書き換えられれば無意味になる。
人の心は揺らぎやすい。ウルドにとっては格好の改変対象だ。
だが、ヴァルハラは違う。
あの装置は特定の場所に存在する。基礎理論を組んだのは俺で、設置場所にも意味がある。
ウルドであってもその事実は簡単には書き換えられないはずだ。
そして、俺自身には過去改変が効かない。
ならば、俺がこの手でヴァルハラを壊せばいい。それなら、ウルドでもその事実は覆せない。
また、ヴァルハラを止められれば、プラティナスがそれを使って巨大魔法を発動させることも防げる。
俺を含む巨人のパレードは、賑やかに音楽を振りまきながら、ヴァルハラのある場所へと進んだ。
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