ナグルファル
こうして巨人連合軍を仲間に加えた俺たちは、アースガルドへ戻る準備を始めた。
だが、すぐに問題が浮かび上がる。
「さすがに儂の魔力では、これだけの巨人を転送することはできん」
エルマが視界いっぱいに並ぶ巨体を眺めて腕を組んだ。
転送魔法は対象の質量に比例して魔力を消費する。巨人たちは体が大きい。身長が俺の三倍なら体重はその三乗だ。これが数百人。
俺がやっても、同時に送れるのはせいぜい巨人数人だろう。魔力が回復するのを待ち、何度か往復する手もあるが、全員転送するには半年以上かかるのではないだろうか。
「さて、どうしたものか」
俺が悩んでいると、グリンが鼻で笑った。
「簡単な話だ。船で行けばいいだろ。オレらはいつもそうしてる。巨人の力で漕ぐ舟は速ぇぞ」
そう言って、グリンは俺たちを海岸へ案内した。
霧の向こうに、黒い影が浮かび上がる。
「これが巨人の船、ナグルファルだ」
それは船というより、海に浮かぶ城塞だった。
船首は崖のように高く、側面はまるで城壁。甲板は広場ほどもある。
グリンが胸を張る。
「こいつなら一気にアースガルドまで行ける。嵐が来ても平気だ」
確かに、この船ならそう簡単に沈むことはなさそうだ。
グリンの号令で、亥人と丑人たちが次々にナグルファルに乗り込んだ。
巨人千人が乗っても、船はなお余裕を残している。
俺たちも乗り込み、出航の時が来た。
巨人たちは持ち場につき、一斉にオールで漕ぎ出した。
舵を取るのは、老齢の亥人、名前はフリュムだ。
重厚な船が、驚くほど滑らかに前へ出る。
海面が左右へ押し分けられ、航跡が一直線に伸びていく。
俺は甲板の縁に立ち、潮風に吹かれながら、水平線を見つめた。
ほんの数日前まで、俺たちは少人数で動いていた。それが今は、巨人連合軍を率いている。
誇らしさはある。だが同時に、胸の奥がわずかに重い。これだけの数を動かすということは、その責任も背負うということだ。
「考えてみれば、アースガルドを作ったご主人様が、巨人を率いてアースガルドに攻め込む形になるなんて、ずいぶん皮肉なことにゃんね。これも日頃の行いにゃん」
リリィが甲板に腰掛け、なぜか満足そうに言い放った。
「大丈夫です」
ミーアがきっぱりと答える。
「アースガルドの皆さんに危害を加えることは、絶対にありません。私も皆さんに何度もお願いしています。これは侵略ではなく、未来を拓く進軍なのですから」
柔らかな声だが、信念を持っている。
俺も頷いた。
「もともと、アースガルドの前身――アースベルでは、種族の違いを越えて共に暮らすことを目指していた。そこに、亥人や丑人が加わるだけだ」
「そうは言っても、巨大な船に千人の巨人が乗ってやってくるんにゃんよ? 普通、恐怖に怯えるにゃん。まあ、魔王としてはそれが正解にゃんけど」
それはもっともだ。どうすれば住民たちを威圧せず、プラティナスを牽制できるか、考えておこう。
アースガルドまでの航海には時間もある。
そしてそれは無駄な時間ではない。
俺にとっては修練の時間でもある。
俺は新たに得た古代魔法を展開する。
創造魔法。
無から物体を生み出す力。
続いて、革新魔法。
既存の法則を反転させる力。
エルマの指導のもと、俺は何度もこの魔法を発動し、修練を続けた。
その間も、ナグルファルは進み続ける。亥人と丑人は交代で漕ぎ続け、昼夜を問わず、船は西へと向かっていった。
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