創造魔法
無限を意味する竜、『アナンタ』の彫刻が施された扉を開くと、内部は静謐な空間だった。
その中央、台座の上に、無機質な光を放つ金属製のキューブが浮かんでいる。
これこそが、古代の叡智と呼ばれるものだ。
俺が手を伸ばして触れた瞬間、脳裏に新しい魔法陣の形が流れ込んでくる。
これが――『創造魔法』。
「何の役に立つかは分からんにゃんけど、せっかくだから触っておくにゃん」
リリィが軽い調子で古代の叡智に触れ、続いてミーアとメリーもキューブに触れた。
「不思議です……頭の中に模様が流れ込んできて……目を閉じても、くっきり見えます。まるで、私の中に刻み込まれたみたいです……」
ミーアは少し陶酔したように呟く。
「師匠。で、これはどうやって使うんだ?」
「まあ、見ておれ」
エルマは静かに手を掲げ、創造の魔法陣を顕現させた。
魔力が注がれると、魔法陣の周囲に気流が集まり、淡く輝き始める。
次の瞬間、魔法陣の中心から白い小さな立方体が生まれ、ぽとりと床に落ちた。
「練習すれば、誰でもこの程度のことはできるようになる」
「……で、これが何の役に立つにゃん? 私の地獄の業火の方が、百倍は派手にゃんよ」
リリィが呆れたように立方体を拾い上げると、グリンも相槌を打つ。
「そうだろ? だからオレぁ言ったんだ。精霊魔法の方が、よっぽど実用的だってよ」
だが、エルマは涼しい顔のまま、淡々と説明を続けた。
「精霊魔法は、別の空間から自然の力を取り出す魔法じゃ。一方、この創造魔法は――無から物質を生み出す魔法。攻撃力だけを見れば、精霊魔法には到底及ばん。じゃが、使いこなせば――自分の求める形を、創造できる」
「あらあら、物質を創造、ですか……。でも、必要なものは精霊魔法で呼び出せますし、この魔法、やっぱり用途不明……」
メリーも、腑に落ちない様子だ。
「自分の求める形を創造……か」
その言葉を反芻した瞬間、俺の中で噛み合った。
なるほど。これは、魔道具師のためにある魔法だ。
「材質も、指定できるのか?」
「多重魔法や詠法の魔法と組み合わせれば、硬度や性質の調整も可能じゃ」
「じゃあ……もしかして、金も作れるのか?」
「なんと、それなら凄いにゃん!?」
俺の質問に、リリィも激しく反応した。
「同じことを考えた者は多い」
エルマは、少し残念そうに、首を振った。
「一時期は錬金術として盛んに研究もされた。じゃが――金の創造に成功した者は、今のところ、おらん」
「やっぱり無駄魔法にゃん!」
――それでも、俺にとっては十分すぎる。
材質と形状を制御し、必要な形の部品を、必要なだけ生み出せる。
魔道具師として、これ以上適した力はない。
「で、これで用は済んだのか?」
グリンが話をまとめるように口を開いた。
「まあ、はるばる来たんだ。少しはオレらの国にも寄っていけ」
こうして、エルマとの再会を祝う名目で、俺たちは亥人の街へ招かれることになった。
グリンはどうやら、そこまで悪い魔王ではなさそうだ。
◇ ◇ ◇
亥人の街ホグフォードは、やはりすべてが大きかった。
ヨトゥンヘイムのあの大木で作られた家屋は城砦のように重厚で、竜の攻撃にも耐えられそうだ。
だが、荒々しい外見とは裏腹に街の空気は穏やかで、他の亥人たちも、俺たちを快く迎えてくれた。
突然の来客、申人と寅人、未人の魔王。
そして、戌人の仙人。
なかなか珍しい顔ぶれのはずだが、意外にも、一番の注目を集めていたのは、巳人のミーアだった。
この地では、蛇は神の使いとされ、特別に神聖視されているらしい。
それに加えて、ミーアは、毎日見慣れている俺から見ても十分に可愛いのだから、仕方がないのかもしれない。
「わ、わわわ……ち、違います……! 私は拝まれるような存在ではありません……ただの、にょろにょろした小さな存在で……いずれ闇に堕ちるかもしれない、か弱き巳人ですから……!」
ミーアは両手を振って必死に否定するが、亥人たちは、ますます彼女の周りに集まってきていた。
魔王グリンが統治するこの街での滞在は、案外思い出深いものになりそうだ。
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