古代の叡智
時間にすれば数秒だが、壊された橋からかなりの距離を落下した。地面が迫ってきている。もしこのまま落ちたら、間違いなく死ぬだろう。だが、そんな時こそ、俺の新しい魔道具6番『超斥力シューズ』の出番だ。シューズの靴底に仕込まれた斥力の魔道具が反応し、強力な斥力を発生させる。急激に落下速度が軽減され、落下の衝撃が緩和された。
完全に衝撃を打ち消すことはできなかったが、致命的なダメージになることはなく、無事に地面に着地した。
「ふぅ、助かった……」
流石に足は痛むがなんとか立ち上がり、深呼吸して息を整える。
超斥力シューズは、小火炎の魔法陣の一部で作られたものだ。小火炎の魔法陣は、火炎を呼び出す魔法陣と、火炎を打ち出すための斥力を発生させる魔法陣の組み合わせで成り立っている。つまり、俺は斥力を生み出す念動魔法も使えているということだ。自身が使える魔法陣は魔道具に刻み込むことができる。そこで俺は斥力を発する六芒星の魔法陣を靴底に刻み、威力を増強するため、魔力を集める装置、魔力を蓄積する装置と繋げて、発する斥力を強化した。このシューズは、急な落下や大ジャンプ時に役立つアイテムだ。
それにしても、かなり離れてしまったミーアが心配だ。早く彼女と合流しないと。
周囲の様子は先ほどの洞窟とは違っていた。壁の素材は不思議な金属で、電子回路の基板のようにも見える。断続的に光がこの壁の回路を伝い、光源のないこの空間を微弱な明るさで照らしている。古代遺跡とは言うものの、もしかしたら、この遺跡の時代は今より遥かに進んだ技術が存在していたのかもしれない。
俺はとりあえず歩き続けることにした。何が待ち受けているのか分からないが、ここで立ち止まっていても仕方がない。
しばらく進んだ先に、大きな扉のようなものが現れた。壁と同じ金属製の扉だが、長い年月を経ているにも関わらず、古びた様子もない。その扉には蛇のオブジェが埋め込まれている。自分の尻尾を咥えて輪になっている蛇。これ、なんて言ったっけ? そうだ、ウロボロス。ウロボロスのオブジェに手をかけると、それは簡単に回転し、扉は音もなく静かに開いた。
その先にある台座の上に金属製のキューブが浮かんでいた。キューブは無機質で冷たい輝きを放ち、まるでここに記憶された知識を象徴しているかのようだった。しかし、その前に立つのは、それを守るために存在しているかのような、大きな人型の物体ーー守護者だ。それは、俺の存在に気づくと、ゆっくりと動き出し、その目が赤く変化した。ここでの戦いは避けられなさそうだ。いずれにしても、これを倒さなければ、先に進むことはできない。俺は気合を入れ、呪文の詠唱を始める。
「オルフェスのプロメテ火山より、顕現せよ、炎の精霊の火」
『小火炎』
きっちり詠唱して放った俺の最大威力の小火炎の魔法だったが、守護者の金属の体の前ではほとんど効果がなかった。魔法の炎はその硬い表面でまるで何事もなかったかのように消えてしまう。
その瞬間、守護者の胸部に光る五芒星の魔法陣が現れた。この念動魔法は引力だ。五芒星が鮮明に輝き、非常に強力な引力が発生する。足元が地面から浮き上がりそうな感覚、そして、否応なく引き寄せらる。引き寄せられたら、おそらくすぐにでもあの熱線で攻撃されるだろう。
「やば、これ回避不能だ……」
そこで俺は腹を括った。抗う余地がないなら、逆にその力を利用するしかない。俺は床を蹴って、あえて守護者に向かって跳躍した。引力が俺を引き寄せるが、それと同時に加速していく。そして、目の前で熱線が放たれそうなその瞬間、守護者の頭部を目掛けて、全力で跳び上がる。俺は両足で守護者の頭部にドロップキックを叩き込み、超斥力シューズから最大限に力を放出した。強い衝撃が走り、俺も守護者も一瞬で吹き飛ばされた。
そのタイミングで、守護者から放たれた熱線は、軌道が外れ、守護者自身の足を切り裂いた。
動けなくなった守護者に警戒しつつ、俺は慎重にその目の前にある不思議なキューブに手を伸ばした。触れた瞬間、キューブの表面が微かに振動し、まるでそれが反応したかのように、頭の中に見たことのない魔法陣の形が浮かんだ。そのイメージは否応なく脳裏に強く刻み込まれる。
「おおっ、なんだこれ!?」
その意味はすぐには分からなかったが、直感的に感じたのは、これが非常に重要なものだということだ。だが、今はその謎を解くより、まずミーアと再会することの方が重要だ。
俺はキューブから手を離し、引き続き警戒しながら捜索を進めると、上向の階段を見つけ出した。俺は急ぎ足で上へ上へと進んでいく。
実用的な道具はやはりウェアラブルですよね!
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