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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第四章 回帰編

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止まった時間

「……エルマ」


 名を呼んでも、応えはない。

 遅すぎたのだ。

 あまりにも膨大な魔力の循環に、彼女の身体が耐えられなかった。

 魔法陣の維持に精一杯で忘れていた。

 今のエルマは、まだヒトだ。いくら魔法を自在に扱えても、ただの少女の身体なのだ。


『……時間やな』


 ヴェルダンディの声が、頭の奥に滲んだ気がした。

 いや――まだだ。

 ここで終わるわけにはいかない。


 視界の端に、細かなノイズが走り始める。

 世界が、俺を引き剥がそうとしていた。


「待ってくれ……俺は、まだやることが……」


 気づけば、自分の腕がうっすらと透け始めていた。

 強制的に現在に戻される。

 俺はエルマに手を伸ばした。


「エルマ……目を開けてくれ」


 嗚咽が混じり、声が震える。


「君がいない世界は……嫌なんだ」


 その瞬間だった。

 エルマの指先が、ほんのわずかに動いた。


「どうにも……」


 微かな声。

 だが、確かに彼女のものだった。


「この状態で体を動かすのはなかなか難しい。慣れが必要だな」


 満月の光が、彼女の身体を白く縁取っている。

 枯渇していたはずのエルマの魔力が溢れ出していた。


「満月のフェンリルの力で、魔力の総量は底上げされたが、それでもやはり、貪り喰うモノ(グレイプニル)を解除できるほどではなかった。この神具はもう、私の肉体に深く食い込み、分離は不可能のようだ」


 そしてゆっくりと、彼女は身を起こす。


「そこで……一時的に増えた魔力をすべて使い、古代魔法のひとつ――停止の魔法陣(イス)で自身の肉体の時間を止めてみた」


 エルマはそう言って、静かに満月を仰いだ。


「これで、私と一体化した貪り喰うモノ(グレイプニル)の時間も止まる。もう、魔力を吸うことはできまい」


 しかし、後悔も少し滲ませていた。


「代償として、私の身体は永久に十五歳のままになってしまうがな。できれば、あと二つほど……歳を重ねたかった」


 そしてゆっくりと、俺がいるはずの方を振り返る。


「だが、ロキ。私が今生きておるのは、主が、ここまで繋いでくれたおかげだ。心より、礼を――」


 そこで、言葉が途切れた。


「……ロキ?」


 その時にはもう、俺の身体は完全に透き通っていた。

 俺の視界は、ノイズで満たされている。

 

   ◇ ◇ ◇


 吹き荒ぶ風の音。

 次の瞬間、肺を刺すような冷気が俺を現実に引き戻す。

 そこは、極寒のノルンの神託所だった。

 俺は確かに、過去から戻ってきたのだ。


「ご主人様、どうしたのかにゃん?」


 視界からノイズが完全に消えたところで、真っ先に目に飛び込んできたのは、呆れ半分の表情をした寅人の魔王リリィだった。


魔科学術師(トリックスター)さんは、まるで立ったまま眠っておるようでしたよ。それに……涙まで流されて」


 未人の魔王、メリーも覗き込んでいる。


「俺は……どうしてた?」


 喉が乾ききった声で、そう尋ねた。


「神託アプリでヴェルダンディと話してたと思ったら、急に魂が抜けたみたいに固まって、ぼろぼろ泣き始めたにゃん。正直、まともじゃなかったにゃん。どんな変態的妄想をしたら、ああなるにゃん?」


 ……どうやら、俺は元の時代へ戻ってきたらしい。

 気づけば、両目から涙が溢れ出ていた。


「この寒さで目をやられたのではないかのう? 用が済んだのなら、さっさと戻ったほうが良さそうじゃ」


 そしてもう一人、聞き慣れた落ち着いた声。

 振り向いた、その先に、風で銀の髪を揺らしている戌人の賢者、エルマの姿があった。


「……師匠」


 言葉よりも先に、身体が動いた。


「無事だったんだな!」


 気づけば、俺はエルマを抱きしめていた。


「なっ――!? な、なんじゃ急に! 頭までイカれたか!? 儂はお主の母親ではないぞ、甘えるでない!」


 エルマは珍しく声を裏返し、本気で狼狽えていた。


「いつも変態なご主人様が……さらに進化したにゃん……」


 リリィは呆れ顔で呟いてたが、エルマは、ふと何かを察したように言葉を止めた。

 次の瞬間、彼女の手が、優しく俺の頭を撫でた。

 俺は、ようやく呼吸を整え、顔を上げる。


 そこにあったのは、見慣れた、八百年前とまったく同じ、エルマの顔。

 エルマもまた、俺の顔をじっと見つめ、首を傾げた。


「……あらためて、よく見てみると、お主のその顔……イエティ……いや」


 誤魔化すように、微笑んで。


「はるか昔に会った、大切な人に……似ておるな。いや、まさかな……」


 それは、手の届かない何かに憧れるような微笑みだった。


「俺は――リバティ・クロキ・フリーダムだ」


 俺は、改めて告げた。

 ただひらすら自由を愛する、だが最近はそれより大切なものも自覚してしまった、俺の名だ。

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