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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第四章 回帰編

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満月の夜を待つ

 エルマは何か言いかけたが、言葉にならなかった。

 俺は魔力を注ぎ続け、貪り喰うモノ(グレイプニル)は、それを容赦なく吸い上げる。


 魔王の魔力は膨大だが、無限ではない。

 このままではエルマの言う通り、ただの時間稼ぎにしかならない。

 俺の魔力が尽きれば、それで終わりだ。


 他に俺にできることはあるのか?


 今の俺には、魔道具もない。

 AIエージェントも、魔法プログラミングもない。

 それでも、諦めるという選択肢だけは、存在しない。


 だが、何もないわけじゃない。


 俺が使える魔法は、小火炎(リトルフレイム)と、転送魔法。

 その根幹にある古代魔法――エルマから教えてもらった、移動を意味する『ラド』。


 そして、古代遺跡で手に入れた二つの古代魔法。輪廻の魔法陣――周期を意味する『ヤラ』。詠法の魔法陣――言葉を意味する『アンスール』。


 エルマは、かつて言っていた。古代魔法は自由に組み合わせてこそ意味を発揮する、と。


 ――ならば。


 俺は、詠法の魔法陣(アンスール)を顕現させた。


 新しい言葉を定義しよう。エルマを救うためだけの言葉を。


 転送の魔法陣(ラド)の対象を、物質ではなく概念へと昇華させ、より緻密に特定する。

 対象は、貪り喰うモノ(グレイプニル)の内部に蓄えられた魔力。


 定義した言葉は祈りに近い響きとなった。


 それを、輪廻の魔法陣(ヤラ)で包み、循環させる。

 貪り喰うモノ(グレイプニル)に吸い取られた魔力を外へ取り出し、エルマに再投入。

 それを何度でも繰り返す。


 これまで、俺が制御できた多重魔法陣は、せいぜい二つまでだった。

 だが今、無我夢中で試みた結果、


『ラド』

『ヤラ』

『アンスール』


 三つの魔法陣が、連携した。

 これは、即席で編み上げた俺の独自魔法。


 貪り喰うモノ(グレイプニル)の魔力を喰らうために編み上げた、俺自身の貪り喰うモノ(グレイプニル)


 奪われた魔力を奪い返し、また奪われる。


 俺と貪り喰うモノ(グレイプニル)の、終わりの見えない戦いが続いた。


 魔道具にも頼らず、三つの魔法陣を同時に維持する。それは、俺にとって極限に近い集中力が要求される行為だった。


 神経が擦り切れそうになり、疲労が押し寄せる。

 視界が滲み、意識が途切れかける。

 だが、ここで一度でも中断すれば、もう二度と再開できない。

 そんな確信めいた予感があった。


 ふと、疑問が浮かんだ。


 俺は、なぜここまでしている?


 元の世界の俺は、人よりもパソコンと向き合っている時間の方が長かった。

 クライアントとの関係は、あくまで仕事。

 いつも他人とは一定の距離感を持って接していた。

 今のように、誰かを失いたくないと、心の底から願ったことなど、一度もなかった。


 俺にとって常に大切だったのは、縛られずに生きること。

 つまり『自由(リバティ)』。

 それだけだったはずだ。


 それなのに今はどうだ。

 他人のために、自分の命を削ることすら厭わない。

 彼女を助けたところで、莫大な報酬が得られるわけでもなく、俺が、より自由になれるわけでもない。

 それでも、どれだけ理屈を並べても、エルマを見捨てるという選択肢を、俺の全身全霊が拒絶していた。


 答えは、もう出ている。


 彼女が――何よりも、大切だから。


 それだけだった。

 俺にも、自由よりも優先すべきものが、確かにあった。


 長い、長い戦いだった。

 夥しい魔力の循環が途切れることなく続き、俺の意識は朦朧とし、何も感じなくなっていた。

 自分が意思を持っていることすら忘れそうになった頃、俺の視界の端が、淡く白く染まった。

 夜空の雲の切れ間から、満月が、昇っていた。


「エルマ……見えるか?」


 俺は掠れた声を絞り出す。


「満月だ。……ついに、満月の夜になった」


 だが、返事はない。

 エルマは静かに目を閉じたまま、微動だにしなかった。

 時間が止まっているかのようだった。

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