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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第四章 回帰編

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改変の刻

 リュカオンの鎧は砕け、血に染まり、息も荒い。

 それでも彼は、足を引きずるようにエルマに歩み寄る。


「これで……フェリル家の汚名も拭える」


 それは戦いの終わりを祝福するような言葉に聞こえた。


「叔父上が、私を褒めてくれたのは……これが初めてだと思うぞ」


 エルマの声には、わずかな戸惑いが混じっていた。


「ああ、そうやもしれんな。だが、今なら、お前を誇りに思う。お前のその力は……戌人の宝だ」


 その言葉に、エルマの表情がほんの少しだけ緩む。


「今こそ――お前に、これを渡そう」


 リュカオンは懐へ手を差し入れた。エルマはまだ警戒を怠っていない。


 その瞬間、視界に白い光が揺らいだ。

 俺たちは、同時にそれを見た。

 そこにあったのは、光を放つ白い少女の姿。


 間違いない、あれは過去を司る女神ウルド。


 悪寒が背筋を駆け抜けた。

 つまり、まさに今この瞬間、過去は変えられたのだ。


 慌ててエルマを見る。

 俺たちが白い光に目を奪われたほんの一瞬の隙に、リュカオンの手の中にあった紐のようなものが、生き物のように蠢き、禍々しい闇を放った。

 闇が蠢き、蛇のように伸び、エルマの身体へ絡みつく。


「――っ!」


 それは、強力な魔力を帯びた拘束具。


 エルマの身体はきつく締め上げられていた。紐が全身に絡みつき、エルマは動くこともできない。


「エルマ!」


 俺は彼女に駆け寄り、咄嗟に紐を引き剥がそうとする。

 だが、それはもう彼女の体と一体化しているかのように、掴むこともできない。


「う……油断した……」


 エルマが、苦しそうに声を絞り出す。


「これは……魔道具……いや……神具、か……叔父上、これはどういうことだ?」


 その姿を、リュカオンは冷ややかな眼差しで見下ろしていた。


「魔王ガルムに、とどめを刺すのは――当主である私でなければならん」


 そこにはもはや、エルマを讃える響きはなかった。


「分家の娘が、魔王と化した当主の息子を討ったとなれば、示しがつかぬ。本家の権威が落ちてしまうからな」


 リュカオンは淡々と言い切った。


「……分家が、本家に取って代わるなど、決してあってはならぬことだ」


 そこにあるのは、当主としての醜いプライドだけだった。

 リュカオンは剣を携え、倒れ伏すガルムのもとへ歩み寄る。


「我が息子ながら、実に愚かだ。魔王となってなお、分家の娘にすら及ばんとはな」


 剣先が、静かに持ち上げられる。


「ガルム、父である私が自ら葬ってやろう」


 だが――


 次の瞬間、血を噴いたのはリュカオンの方だった。


「……」


 剣は振り下ろされることなく、床に落ちる。

 胸を裂かれたリュカオンは、声を発することもできず、その場に崩れ落ちた。


「愚かなのは、お前だよ、親父。親父程度なら、瀕死の俺でも十分に仕留められる」


 ガルムが、血に塗れたまま立ち上がり、冷たい視線を、父の亡骸へ落とす。


「俺はまだ魔王になったばかりだ。能力の上限は上がったが、中身は人間だった頃と大差ねえ」


 視線が、拘束されたエルマへと向いた。


「だから、エルマ。お前だけが要注意だった。親父とサシでやったときに、先代魔王バーゲストが持っていた神具『貪り喰うモノ(グレイプニル)』を渡しておいた」


 ニヤリとガルムの口元が歪む。


「もし俺が倒されるなら、トドメを刺すのはエルマじゃなく、親父だって伝えた上でな。正直、ここまでうまく事が運ぶとは思ってなかった」


 神具……神クラスの相手にも通用するという、強力な道具。


貪り喰うモノ(グレイプニル)は対象を拘束し、魔力を吸い上げる神具だ。この状態じゃ、さすがのお前も魔法は使えねえ。指一本、まともに動かせねえだろ」


 それは完全に勝利を確信した声だった。


「……月並みな言葉で悪いが、卑怯者よな」


 エルマの言葉に、ガルムはわずかに表情を歪めつつも、即答した。


「ああ、それでいい。俺は魔王だからな」


 さらにその瞬間、居城の奥から重なり合う足音が押し寄せてきた。

 部屋の中に殺気がなだれ込んでくる。

 ガルムの軍勢だ。


 外の戦況は分からない。この場で動けるのは俺だけ。

 一瞬、俺がすべてまとめて叩き潰してしまおうかとも思った。

 が、俺が守るべきものは、最初から一つしかない。


 エルマだ。


 ガルムなど、今はどうでもいい。


 俺は迷わず、拘束されたエルマを抱き上げる。

 このまま離脱だ。


 俺は魔力を解放し、転移魔法を発動する。

 光に包まれ、俺たちは、戦場から消えた。

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