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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第四章 回帰編

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規格外の魔法使い

 魔王の魔力で周囲の空気を震わせながら、ガルムは詠唱を始めていた。


「極寒の霧の生まれ出る場所より、霜のスカジの魔力を呼び寄せよ!」


 魔法陣の中心に向かって、白い霧が渦を巻く。


大氷塊(グランドフリーズ)!』


 魔力を凝縮させると、ガルムの眼前に巨大な氷塊が顕現した。触れたものすべてを瞬時に凍結させるという、紛れもない上級魔法。

 だが、大氷塊はその場に止まったままだ。


「上級魔法も、私に届かなければ意味はないのだぞ」


 呆れたようなエルマの言葉に、ガルムが少しニヤけたように見えた。俺は咄嗟に叫んだ。


「エルマ! あいつ、魔法を音に乗せて飛ばすぞ! 気をつけろ!」


「なに!?」


 エルマが空間を限界まで引き延ばそうとしたその直後だった。


「牙王の咆哮!」


 ガルムの咆哮が炸裂する。

 魔法を音速で射出する魔王の特技。


 空気が弾けるように、氷塊が一直線に迫る。

 速い。

 さすがに、エルマが空間を引き伸ばしても氷塊との距離が詰まってくる。


 だが、エルマは動じない。

 空間を歪める魔法陣を維持したまま、静かに詠唱を始めた。


「彼方なる虚空より、時すら凍てつく絶対零度の白氷……」


 淡々とした言葉に、力は応じた。


冥王氷塊(ハデスフリーズ)


 白く輝く氷塊が、静かに顕現する。


 解き放たれたそれは、迫り来るガルムの大氷塊を正面から包み込み、その存在を呑み込んだ。


「……おい」


 ガルムの表情から、余裕が消える。

 飛来する冥王氷塊は避けたものの、床で弾けたそれは、一瞬で部屋全体を氷結させ、氷の洞窟のような有様に変えた。


「その魔法……最上級じゃねえか」


「ああ、そうだ」


 エルマは、あまり興味もなさそうに答えた。


「精霊魔法は、十二の頃にすべて習得してしまったからな。やることがなくなったから、古代魔法の研究を始めたのだ」


「チクショウ、初めて見たぜ。……俺でも、まだ使えねえんだが」


 ガルムの呟きは、ほとんど独り言だった。

 エルマはただ最上級魔法を放ったのではない。空間を歪める五つの魔法陣の連携制御を続けたまま、さらに最上級魔法を放ったのだ。

 その魔法の能力はあまりに規格外。


「さて」


 エルマは、剣を杖代わりにして辛うじて立つリュカオンへ、ほんの一瞬だけ視線を向けた。


「リュカオン殿も、早く手当てをせねばなるまい。主との力比べも……ここまでとしよう」


 淡々と告げ、一歩、前へ。


「ことを急いで悪いが――先日、古代遺跡で見つけた、ハガルの魔法陣を使わせてもらうぞ」


「まだ別の古代魔法があるのか!?」


 その言葉に、ガルムの顔が引きつった。

 焦燥に駆られ、反射的に詠唱へ入る。


「極寒の霧の生まれ出る場所より――」


 だが。


崩壊(ドゥーム)!』


 詠唱半ばで、エルマの魔法が、容赦なく解き放たれた。


「ガァッ!」


 空間に魔法陣が出現した途端に繰り出された衝撃が直撃し、ガルムの巨体が宙を舞う。

 床を砕き、壁に叩きつけられ、魔王の身体が無様に転がった。


「ハガルは直接的な破壊の魔法陣。これでも加減しておるのだぞ。増幅させれば空間を崩壊させ穴も空けられる」


 ガルムは起き上がる前に再び詠唱を試みる。


「世の果て、北の極地より――」


崩壊(ドゥーム)!』


「ゴアァッ!」


 魔力の塊が容赦なく肉体を抉る。


「無駄だ。ハガルの魔法陣は無詠唱。主が詠唱を終える前に、十発は撃てる」


「この俺様が、負けるはずが――」


 床を這い、もがくガルムに、エルマは容赦しなかった。


崩壊(ドゥーム)!』


「くはっ! こんな、認められるかよ……分家ごときが――!」


崩壊(ドゥーム)!』


 ガルムの言葉は、もう何の意味も成していない。


「ま、待て……!」


崩壊(ドゥーム)! 崩壊(ドゥーム)! 崩壊(ドゥーム)!』


 やがて、ガルムは自らの血溜まりの中へと崩れ落ち、動かなくなった。


「……おい、エルマ。やりすぎじゃないか?」


 さすがに、俺も声をかけた。

 これが、八百年前のエルマ。

 俺の知る師匠より攻撃が直接的で、実戦の経験不足は感じるものの、それでも十分に強い。

 少なくとも俺が支えに回る必要は、まったく感じさせない。


 エルマは振り返りもせず、淡々と答えた。


「魔王の生命力はゴキブリ並だぞ。この程度で死にはせんと思うがな」


 ……つまり俺も、ゴキブリ並というわけか。


「それに……」


 エルマは、ガルムから視線を外さずに続けた。


「この戦いは、ガルムを倒さねば終わらん。私とて、親族を手にかけたいわけではないが……これで、仕舞いにしよう」


 そう呟くと同時に、空気が変わった。


「仕方あるまい。これも、ガルム自らが招いた結果だ」


 エルマの周囲に、これまでとは比べものにならない魔力が集まり始める。

 圧縮され、重ねられ、制御された魔力が、静かに膨張していく。


 その時だった。


「エルマよ。よくやってくれた」


 かすれた声が、背後から響いた。

 振り向くと、そこには満身創痍の本家当主、リュカオンが立っていた。

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