表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第四章 回帰編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

211/220

目立ちすぎる侯爵令嬢

 エルマ・フェリル。


 この町では知らぬ者のいない侯爵(マーキス)家の長女であり、領主である公爵(デューク)家の分家にあたる名門の血筋。

 家柄、才色兼備それだけを見れば、将来を約束された完璧な侯爵令嬢だ。

 だが俺は、ほどなく理解することになる。

 彼女の境遇は必ずしも幸せとは言えない。


「ロキ。この術式は、どう思う?」


 何の前触れもなく、エルマは指先で空間をなぞった。


 展開されたのは、五つの魔法陣。

 擬態に近い構造の魔法陣が一つ、増幅の魔法陣が三つ、そして、内向きの力を持つ念動魔法の魔法陣。

 それらが高度に連携した五重の多重魔法を瞬時に顕現させている。

 魔王である俺でも、とても真似のできる芸当ではない。

 だが、これが何を意味するのかは、俺の魔道具の知識を応用すれば予想できる。


「……空間を、圧縮する魔法か」


「おおっ、正解だ」


 エルマは目を丸くし、満面の笑みで頷いた。


「普段何気なく使っている擬態の魔法がな、実は『空間の歪み』を伴っておるのではないか、という着想からこれを考えてみたのだ」


 軽い思いつきを語るような口調だが、これまでの魔法に対する常識を覆すような内容だ。

 ちなみに、彼女のこの魔法を基にして俺が未来で開発した魔道具が、空間スフィアだ。


「それにしても……」


 エルマは楽しそうに俺を見上げた。


「こんな話が通じるのは、主くらいのものよ。話していて実に気分がいい」


 わずか十五歳。

 独力で、ここまで辿り着いている。


 屋敷の使用人たちは、いつもの光景とばかりに距離を取り、静かに見守っていた。

 慣れと諦めが混じった、複雑な表情。


「……また、エルマお嬢様の実験が始まりましたな」


 通りすがりの老執事が、ぽつりと漏らす。


「お嬢様は、本当に末恐ろしいお方です」


「恐ろしい?」


 問いかけると、老執事は苦笑した。


「フェリル家は、代々魔法を重んじる家系でしてな。エルマお嬢様は幼少より高度な魔法教育を受けておられました。天性の才能をお持ちのお嬢様は、その知識を常軌を逸する速さで習得されました」

 

 話によれば、わずか十歳で全ての上級精霊魔法を修得したという。

 本来、生涯を費やして習得するような領域を、既に踏み越えている。


「最近では、失われた古代魔法の研究にも手を出されております。さらに、このように魔法陣を自在に組み替え、独自の術式を生み出しておられる」


 繊細極まりない魔力制御。

 一目見ただけで高度な術式を再現し、複数同時に維持する多重展開。

 天才という言葉でも物足りない。


「本来なら――称賛されて然るべきなのですが」


 老執事は、言葉を濁した。

 並外れた才能は、軋轢を生む。

 それを快く思わない者たちもいる。


 数日後、フェリル本家からの来訪があった。

 公爵家の嫡流――リュカオンである。


 さすがにこのときばかりは、エルマも普段の申人の擬態を解き、戌人の姿で応対していた。

 戌人の姿のエルマも、白い子犬を思わせる愛らしさがある。


 リュカオンは応接室に入るなり、挨拶もそこそこにエルマを一瞥し、吐き捨てるように言った。


「エルマよ、随分と好き勝手に研究しているようだな。しかも街中で申人に擬態しているという話も聞いた」


 視線に、露骨な不快感が滲んでいる。


「戌人の誇りを忘れたか。恥を知れ」


 だが、エルマは眉一つ動かさない。


「私は、魔法使いとしての誇りを持って研究しております。研究とは、そもそも決められた道を進むものではないのでは?」


 淡々とした口調だった。反論というより、当然の事実を述べているかのようだ。


「独自に術式を組むなど、精霊への敬意を欠いた行為だ」


 リュカオンは鼻を鳴らす。


「それにお前は分家の娘だ。いたずらに世間の注目を集められては困る」


 エルマは、注目を集めようとしているわけではない。

 ただ、その才能があまりにも突出していて、自然に振る舞っていても人目を引いてしまうだけだ。


 リュカオンは、短く息を吐いた。


「……それに、古代魔法に手を出していると聞いた」


「はい。まだ、調べ始めたばかりですが」


 答えたエルマに、動揺はない。


「危険だとは、思わないのか」


「思います。だからこそ、制御する必要があるのです」


 理路整然とした返答だった。

 恐れも、反発もない。ただ当然の前提として語っている。


 沈黙が落ちる。

 リュカオンとエルマは、しばし鋭い視線を交差し合った。

 やがてリュカオンは、口元だけでかすかに笑った。


「……どうやら、手に負えぬようだな」


 その言葉は、称賛ではない。

 才能そのものではなく――扱えなさへの断定だった。


「今日はもうよい。下がってよい」


 それ以上、説明も忠告もなかった。

 エルマはそそくさと応接室を後にする。

 扉を閉めた後で、エルマは首を傾げた。


「不思議な男だな。新しいことに対して、否定しかせぬ。やってみなければ、何も分からぬというのに」


 嫌味でも、怒りでもない。本当に理解できていない声音だった。


 その背後で、老執事が静かに俺へ視線を向ける。


「フェリル家は侯爵家。ですが……この町を治めるリュカオン公爵家の分家に過ぎません」


「それでも、問題があるのか?」


「ええ」


 老執事は、わずかに言葉を選び、続けた。


「問題は――エルマ様が、本家の誰よりも優れておられることです」

『面白いかも!』『続きが気になる』と思った方、ブックマーク登録や↓の『いいね』と『★★★★★』をポチッとしていただけたら、それだけで作者は歓喜に満ち溢れ執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ