リバティ包囲網
プラティナスが即座に号令を下す。
「リバティを逃してはいけない。彼のためにも。ハルトよ、頼む!」
その声が落ちた瞬間、ハルトが動いた。
「全員、リバティさんの進行を止めてください!」
ハルトの命令が走った瞬間に、俺の遅延邪眼の世界が変化した。人々の動きの速さが跳ね上がったのだ。
ハルトが持つ『先導者の加護・大』。彼の指示に従う者たちの能力を、最大で十倍まで引き上げる加護。
俺が時間の流れを十分の一に落としても、彼らはそれを相殺するほどに速く動いている。
正面の動きをかわした瞬間、横合いから別の影が飛び込む。
とっさに跳んだ先には、すでに次の人影。
視界は、人で埋まっている。
――抜けられない。
判断は、一瞬だった。
「すまない」
俺は魔力を解放し、無詠唱の念動魔法を放つ。斥力が数人の体を押し出した。
俺はその隙間を駆け抜ける。
「追ってください!」
ハルトの声が、背中から響く。
俺一人を確保するための大追跡が始まった。
彼らは、俺が本気で攻撃して来ないと理解している。だから、退かず、距離を詰めることを恐れない。
進もうとした先に次々に人影が現れ、かわしても別の気配が迫る。
それでも俺は何とか玉座の間を抜け、回廊へ。
ここならさすがにプラティナスの視線は届かないだろう。俺は走りながら転送魔法の詠唱を始める。
「我、扉を解放する。至れ――アースガルド西門、転送ポータル……」
魔法陣を完成させたその時。
「リバティさん、浄化させてもらいますよ!」
声が、横合いから割り込んだ。
セイズ魔法で覚醒した聖女レイアだ。
次の瞬間、レイアの結界が展開され、魔力の流れが強制的に寸断された。この中では転送魔法も使えない。
俺は考えるより先に走り、回廊の窓を蹴り破った。
外へ。下へ。
魔力を解放し、落下を制御する。
だが、着地した瞬間に悟った。もう囲まれている。
上から、下から、城壁沿いから。
ハルトの指示に従った人の流れが、俺の周囲へ集まってきていた。
全員が『俺を止める』という一点だけを目的としている。
速い。数が多い。しかも迷いがない。
個々はバラバラなのに、全体としては一つの意思のように動いている。これもハルトの『先導者の加護』の力か。
だが、人々の身体能力が強化されたとしても、純粋な力そのものでは、魔王である俺には及ばない。
このまま無理矢理脚で振り切る。
そう判断した、その瞬間だった。
「リバティ様が操られるなど、この国の一大事! 命に代えても、お止めいたしますわ!」
やけに気合の入った声が、正面から飛んでくる。
嫌な予感が確信に変わった。
「ホワイト・オーダー・メイド!」
「ブルー・マー・メイド!」
「グリーン・チェック・メイト!」
「レッド・グレ・ネイド!」
「ブラック・ダイナ・マイト!」
聞き覚えのあるこの名乗り。
「我ら、メイド界の頂点に立つ精鋭! メイド・イン・アース!」
ハルトの加護で能力強化された、万能メイドが出てきてしまった。
全員、本気だ。しかも、統制が取れすぎている。
「オーダースラッシュ!」
ホワイトが、居合い抜きのように鋭い回し蹴りを放つ。
危ない。風圧が、俺の頬を掠めた。
「グレネイドランチャー!」
レッドが、弾幕のような連続打撃を叩き込んでくる。拳が、もはや弾幕だ。
俺は即座に念動魔法を展開し、防壁を形成する。
「ダイナマイトパンチ!」
ところが、ブラックの拳が、魔力を纏って突き抜けた。
魔法陣が、粉砕される。
……これ、普通にやばい。
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