アースガルドへの帰還
二週間ぶりに、俺たちはアースガルドへ戻った。
そこまで長期の不在ではなかったはずだが、俺が突然姿を消したことに、国内は思いのほか騒ぎになっていた。
俺が姿を現すと、視線が集まり、ざわめきが走る。俺の帰還はすぐに広まり、情報が行き渡るのに時間はかからなかった。
「リバティさん、無事に戻られて本当に良かったです」
真っ先に声をかけてきたのはハルトだった。
「最近、少し具合が悪そうでしたから……正直、心配していました」
非難も、打算もなく、ただ純粋に俺の無事を喜んでいる声だった。
だが、落ち着く暇はなかった。ほどなくして、宮廷の使者が現れる。
現皇帝――プラティナスからの呼び出しだった。
俺はハルトたちとともに、そのままサリオン城の謁見の間へと向かう。
玉座に腰掛けたプラティナスは、俺の姿を認めると、静かに口を開いた。
「リバティよ。勝手に国を空けるのはいかがなものか」
玉座に腰掛けたプラティナスは、責めるでもなく、穏やかな声でそう言った。
「それとも、何か待遇に不満でもあるのか? そなたは国の宝だ。負担が大きいなら減らそう。人手が要るなら、いくらでも手配する。必要なものは何でも用意しよう」
「なんでも用意してくれるなら……たまに、ふらっと旅に出る自由くらいは欲しいな」
俺の返答に、プラティナスはふうと小さく息を吐いた。
「……まあ、確かにたまには息抜きも必要か。だが、どこへ行っていた?」
「魔王ガルムを討伐した、勇者と聖女の行程をなぞっていた」
「ほう」
その言葉に、プラティナスの眉がわずかに動いた。
「ノースベルでガルムを退けた後、勇者と聖女が、さらにガルムを追って侵攻した地まで行ってきた」
「……なんと。まさか、あの極寒の地――ニブルヘイムか?」
プラティナスが大げさに驚くように反応する。
「そうだ」
俺は頷いた。
「勇者と聖女が魔王ガルムを追って侵攻した、ニブルヘイムだ」
プラティナスは、特に訂正しなかった。
その反応を見た瞬間、胸の奥で何かが噛み合った。
俺は、そのまま話を進める。
「俺はその行程をなぞった。ニブルヘイムにあるガルムの城にも足を運んだ。だが、城はもぬけの殻だった」
「……そうか。無駄足であったのだな」
短い相槌。
俺はそこで、静かに言った。
「だが――この説明にはおかしい点がある」
プラティナスの視線が、わずかに揺れる。
「プラティナス陛下は、勇者と聖女がガルムを追って侵攻した地を、ニブルヘイムと答えた。だが、実際には違う」
俺は、はっきりと断言した。
「二人は、ガルムを追い出した後、ノースベルに留まっている。ニブルヘイムには――行っていない」
しばしの沈黙。
今のこの世界では、トオルとレイアはニブルヘイムに侵攻しなかった。これは事実だ。
「おお、そうであったな。余の勘違いであった」
プラティナスはそれが些細な間違いであるかのように訂正した。
「それは、本当に勘違いでしょうか? ノースベルからニブルヘイムまでは、馬で一ヶ月以上の道のり。空間転移のできる賢者でもいなければ、なかなかニブルヘイムまで進行しようとは思わないはず」
俺は、一歩踏み込む。
「だが、プラティナス。あなたは、さっき、それが当然であるかのように答えた」
「……」
俺は、視線を逸らさずに言葉を続けた。
「それはつまり――
あなたが、『書き換わる前の世界』を知っていたからじゃないのか?」
「リバティよ」
プラティナスは、ゆっくりと息を吐いた。
「……何を言っているのだ?」
声は落ち着いている。
だが、答えるまでの不自然な間――俺は、そこで確信した。
世界の書き換えによって得をしたのは、魔王ガルムだけじゃない。
「俺はこれまでに二回、過去の書き換えを経験した。過去が書き換えられた結果、ガルム以外に都合の良い人物がもう一人いる」
俺は、断言した。
「それが、あなたです。プラティナス」
「……まるで話が見えぬ」
俺は、一つずつ指を折って説明を続ける。
「書き換わる前の世界で、俺は元首だった。だが今、その座にはあなたがいる」
一拍、置く。
「そして、不自然な点はもう一つある。俺の師であり、世界の理を知っていたエルマは消えた。その空白に、うまくあなたが収まっている。まるで――書き換えられた過去の辻褄を、丁寧に合わせたかのように」
プラティナスは、黙ったままだ。
「そして――もし、あなたが、書き換えられる前の世界を知っているのであれば――」
俺は視線を外さず、言い切った。
「それは過去の書き換えの主犯であることになる」
重い沈黙が落ちた。
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