開眼、石化邪眼
「神々のおわす天の頂より、あらゆる汚れを祓い清める聖なる光」
『浄化』
レイアの浄化の力で、川の上流も石化から解放され、滝からは水が降り注ぎ、川に清らかな水が再び流れ出した。そして、転がっていた石像たちも次々と元に戻っていった。その中には、トオルも含まれている。
「おお、なんだここ? 俺、どうしてたんだ?」
「あれ、私、大きな蛇を見てから……全然思い出せない……」
浄化の力で元に戻った人々は、混乱と驚きの表情を浮かべながらも、眼前で倒れている巨大な蛇の姿を見て腰を抜かし、少しずつ状況を理解し始めた。
「みんな、無事に元に戻れてよかった」
レイアは安堵の表情を浮かべながら言った。
静かに横たわるバジリスクを、ミーアはじっと見つめていた。そして彼女は決意を固めたかのようにゆっくりと口を開いた。
「お兄ちゃん、正直気は進まないけど……でも、私、これを食べなきゃいけない気がします」
俺も少し考えた。バジリスクは確かに蛇だし、それは彼女にとって重要なことなのかもしれない。ならば、せめて美味しく食べてもらえるように、俺ができる限りの手を尽くして調理してやろう。バジリスクの尻尾を輪切りにして、塩で味付けをしてから、小火炎の魔法でじっくりと炙る。新鮮なハーブも添えて。思わず食欲をそそられる香ばしく芳醇な匂いが辺りに広がった。
「バジリスクさんすみません。では、いただきます」
ミーアが神妙に両手を合わせた後、恐る恐る一口食べる。
「美味しい!」
俺が真心を込めて調理した甲斐があって、案外美味しかったようだ。その瞬間、彼女の体の半分がバジリスクの姿に変わった。同時に、彼女はバジリスクの石化光線を発する力も手に入れた。
『石化邪眼!』
試しに、ミーアの目から放った石化光線が木に当たると、それは石に変わった。うん、うちの妹、ちょっと強すぎないか? これからはこれまで以上にミーアを怒らせないように気をつけよう。また、ミーアは同時に、石化したものを元に戻す力も手に入れたようだ。
それから、レイアとミーアは手分けして、バジリスクに石にされたあらゆる場所を元に戻して回った。川の流れは上流から下流まで全てつながり、ついに水はイザベルの集落にまで到達した。それを見た人々は大歓声を上げて喜んだ。これで水の問題が完全に解決したのだ。みんなが聖女様、勇者様、リバティ様と讃えてくれる。これはもしかしたら、『スタチュー・オブ・リバティ』が建つ日も近いかもしれない。
石化から戻った人々も、60年以上の時を経て無事に集落に帰った。さすがに浦島太郎のようなあまりの変化に皆驚いている。
「ま、まさか、ダガン兄ちゃんだの?」
ダノンさんが目を見開いて驚き、声を上げる。子供の頃に生き別れた兄が、まさに昔のままの姿で立っているのだ。
「確かに俺はダガンだが……まさか、ダノンなのか? すっかりジジイになって……」
ダガンが驚いて応じる。
ダノンの兄、ダガンは昔、優秀な薬師として知られていた。山に薬草を採りに行った際、バジリスクに遭遇し、石化の呪いをかけられてしまったのだ。長い時間が経ち、こうして再会できたことに、彼もまた感慨深く感じているようだった。
俺はレイアとトオルに心から感謝の意を伝え、山ほどの海産物とポテチを手土産に渡し、魔法車でサリオン帝国へ送り届けた。
「お役に立てたみたいで本当に良かったわ。みんな泣きながら喜んでたね」
レイアが微笑みながら言う。
「だーははは! 勇者らしいことができて俺も気持ちいいぞ! だが、あの蛇、結局どうやって倒したんだっけか?」
バジリスクを倒したのはトオルの功績であることは間違いないのだが、あの劇的な戦いの内容については彼はまるで覚えていない様子だった。
思い返せば、この世界に来て初めて経験した命懸けの壮絶な戦いだった。けれども、二人はそんなことを気にする様子もなく、むしろ人々の感謝の言葉とその後のお土産で十分満足しているようだ。二人とも肝が据わっている。この借りは、何かの形で返さなければと思う。
今回、彼らには本当に助けられた。実際、もし彼らがいなければ、バジリスクを倒すことはできなかっただろう。彼らの力を改めて認めるとともに、自身の力不足を再認識する。俺もさらに新しい力を身につけなければならないな。
レイアとトオルは、親しい友人とほんの一時別れるかのように軽く手を振った。
「ユージ、じゃあまたな。また一緒に何かやらかそうや!」
「だから、ユージじゃなくて、リバティだって……」
また、後に思い返せば、この共闘はとても貴重な体験だった。
ミーアがめでたく邪眼を開眼しました。可愛い蛇ヒロインがさらに可愛くなりましたね。
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