表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第四章 回帰編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

197/220

ノルンの神託所

 こうして俺たちは、魔王メリーとともにノルンの神託所を目指し、さらに北へ向かった。


 この先は、魔王級の身体能力がなければ寒さに耐えられないと言われている。

 そのため魔王ではないミーアはメープルタウンに残すことにした。本人は同行したいと最後まで食い下がっていたが、命に関わる以上、譲るわけにはいかなかった。


 魔法車の車内では、魔道具式ストーブを最大出力で稼働させている。それでも、体の芯が凍りそうなくらい空気は冷え切っている。


「魔王が三人で旅をするなんて、なかなかありませんわね。何だか楽しい気分になりませんか?」


 メリーが窓の外を眺めながら無邪気に言う。


「魔王は群れるものじゃないにゃん」


 リリィが即座に返す。


「腹の中じゃドロドロしたこと考えながら、表面だけ取り繕うような関係にゃん」


「それはそれで、楽しめますわよ」


 メリーは否定はせず、くすりと笑った。

 魔法車は、白と灰しかない世界を切り裂くように、さらに北へ進んでいく。


「ところで――ノルンについては、どの程度ご存知ですか?」


 しばらく沈黙が続いたあと、彼女が改めて口を開く。


「マリーから、運命を司る女神だと聞いたくらいだ。それ以上は何も」


「でしたら、道中でお話ししましょうか」


 魔法車を走らせながら、メリーの説明が始まった。


「この世界が形を成したのは、およそ五万年前とされていますわ。つまり、世界の黎(メー)。魔科学術師さんがいらっしゃったミッドガルドの世界軸では……二十五万年ほど前になるでしょうか」


 二十五万年前。人類で言えば、ホモ・サピエンスがようやく現れ始めた頃だったはずだ。


「ノルンたちは、そのさらに前から存在していたと伝えられています」


「……たちということは一人ではないのか?」


 思わず聞き返すと、メリーは三本の指を立てた。


「ノルンと呼ばれるのは、一柱ではありません。

 三柱の女神――

 過去を司るウルド、

 現在を司るヴェルダンディ、

 未来を司るスクルド」


 確かに、俺もその名には覚えがあった。

 神話として、概念として――俺のいた世界にも残っている存在だ。


「女神というからには……女性なんだよな?」


 素朴な疑問に、メリーは小さく頷いた。


「はい。彼女たちは、もともとは女性の形をしていたと伝えられています。ですが、あまりに長い時間を生きるうちに、人の形を保つことが難しくなったのでしょう。やがて、ノルンたちは自然と溶け合い、その一部になった。そう語り継がれています」


 人の姿を捨て、自然と一体化した女神たち。

 だとすれば、こちらが言葉を投げかけて、簡単に返事が返ってくるような相手ではなさそうだ。


 北へ進むにつれ、景色はさらに変わっていった。


 地平は白と灰だけで塗り潰され、空と地面の境界ももはや分からない。

 空気が、刺す。

 息を吸うたび、肺の奥に細い氷の針を落とされるような感覚が走る。


 ――ここは、生き物の居場所じゃない。


 外の気温はマイナス九十度前後。

 防護装備なしで外に出れば、常人なら即死する温度だ。

 しかも、進めば進むほど、その温度はさらに下がっているようだ。


「この温度、常に私の死の吹雪(デスブリザード)の術中にいるようなものにゃん」


 エルマの教えによれば、精霊魔法は他の空間から詠唱によって力を取り出す魔法だ。

 死の吹雪(デスブリザード)は『北の極地』から冷気を取り出す魔法だったはずだ。つまり、リリィの言葉はその通りで、まさにこのあたりの冷気を取り出していることになる。

 ここは魔法の根源的な場所。そう考えると、とても神秘的な気持ちになる。


 やがて、氷原の中央に、それは姿を現した。


 ノルンの神託所。


 巨大な円環状の石柱が三本。

 互いに距離を保ち、正確な三角形を描くように立っている。まるで三柱のノルンたちを象徴するように。


 どれも崩れておらず、長い年月を経たとは思えないほど完全で、静かな場所だった。

 中央には、祭壇も、像も、何もない。

 ここは――儀式を行う場所ではなく、運命の観測点。

 神託所に立ち入った瞬間、俺は背中にゾクリとした感覚が走った。

 寒さではない。

 何かに見られている、という感覚だ。

 ここでなら、理の存在と、直接向き合えるかもしれない。


「巫女たちは、どうやってノルンと対話していたんだ?」


 俺が問うと、メリーは円環の中心を指し示した。


「この場所で、長く祈っていたそうです。焦らず、穏やかに、信託が降りるのをただひたすらに待つ……そのようにして」


 俺は一歩前へ出て、円環の中心に立った。

 さて、何を口にすればよい?


「女神さーん」


 当然、返事はない。


「……やっぱり何も起きないか」


 俺が肩を落とすと、メリーがくすりと笑った。


「そんなすぐに信託は降りませんよ。伝説の巫女たちは、何日もここで祈り続けたと聞きます」


 そうだよな。何せ相手は理だ。そう都合よく会話になるはずがない。

 俺は腹を据え、もう一度息を吐いた。

 言葉を選び、ゆっくりと投げかける。

 対話ではなく、祈りのように。


 そうして時間を重ねたとき――ひとつ、気づいたことがあった。

 俺が何かを語りかけ、しばらく沈黙すると、風の音に混じって、極めて低い音が聞こえるような気がする。

 最初は氷原の唸りだと思った。

 だが違う。

 俺が話している間は、その音が止むのだ。

 まるで――こちらの声を聞くために、向こうが声を沈めているかのように。

『面白いかも!』『続きが気になる』と思った方、ブックマーク登録や↓の『いいね』と『★★★★★』をポチッとしていただけたら、それだけで作者は歓喜に満ち溢れ執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ