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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第四章 回帰編

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音速を防ぐ盾

 息をつく間もなく、もう一体のヘルハウンドが距離を詰めてきていた。

 鋭い牙を突き立てようと口を開けて飛びかかってくる。

 そして、ガルムはすでに次の詠唱に入っていた。


「――時すら凍てつく、絶対零度の白氷……」


 このままさっきの咆哮を放てば、ヘルハウンドごと氷結しそうだが、ガルムには迷いも、躊躇もなさそうだ。


 来る!


 再び氷系最強呪文、冥王氷塊(ハデスフリーズ)を咆哮に乗せて音速で叩きつけてくるつもりだろう。


 どう避ける? 身のこなしでどうにかなるものではない。転移魔法は詠唱が間に合わない。


 ならば、巨大な盾で受け止めるしか……


 俺は腰のホルダーから魔道具を引き抜いた。

 魔道具第二十一番――『空間スフィア』。


 音速の攻撃そのものは捉えられない。

 だが、遅延邪眼で、ガルムの口の動きを凝視すれば、咆哮を放つ直前のタイミングは把握できる。


「――牙王の咆哮!」


 その刹那、俺は空間スフィアを解放した。

 空間スフィアに圧縮されていた空間が展開される。

 中に詰め込まれているのは、前回空間スフィアを使った時に入れた、池一つ分の大量の水。


 一気に放出された水流が、音速の冷気と正面衝突する。


 次の瞬間、溢れ出した水は時が止まったように静止した。

 膨大な水は一瞬で熱を奪われ、巨大な氷壁へと変化したのだ。


「……チッ、氷の壁、だと?」


 ガルムが舌打ちした。


「水は扱いやすい」


 俺は、氷越しに淡々と言い放つ。


「そして、水は他の物質と比べて圧倒的に熱容量が大きい。熱も冷気も吸収する。冷え切れば、こうして壁にもなる」


 ヘルハウンドは濁流に飲まれたまま、氷壁の中で凍結していた。

 黒い獣影は、口を開けたまま、身動き一つ取れなくなっている。


「まだ水はいくらでもある。お前の咆哮は、もう通じない。ヘルハウンドも動けない。さて、どうする?」


 俺が挑発すると、ガルムは低く唸り、鉄の爪を氷壁に突き立てて凄んだ。


「……まだ俺様の身体能力があるだろうが」


 鋭い衝撃音とともに、氷壁が砕け散る。

 飛び散る氷塊に混じってガルム自身も飛び込んでくる。

 さすがは魔王。凄まじい闘志を感じる。

 だが、遅延邪眼を発動すれば、その攻撃も俺にとっては致命打にならない。


 ガルムは決して弱くない。

 魔王になる前の俺が、初見で挑めば敗れていたかもしれない。

 だが、魔王となり、上級神や、超人勇者たちと刃を交えてきた今の俺にとって、対処できない相手ではなかった。


 ガルムが正面から距離を詰めた、その瞬間。


「至れ、我が工房。顕現せよ――魔道具七番、改!」


 空間が歪み、重厚な構造体が出現する。

 魔道具七番『ヒトジゴク』。引き寄せる魔道具が仕込まれた大きな壺型の魔道具。それをタングステン合金で全面強化した、魔改造版。

 もはやヒトジゴクではない。言うなれば、『マオウジゴク』。魔王であろうと破壊困難な強度を持つ檻だ。


 予期せぬ出現に、ガルムは反応できなかった。


「閉門!」


 重々しい音とともに、檻が閉じる。


「オイッ! なんだ、これ! 出せ! 出せよ!」


 ガルムが鉄の爪を叩きつけるが、びくともしない。

 タングステンは、ダイヤモンドに次ぐ硬度を誇る金属だ。

 リリィの首輪に使った素材と同じ。魔王といえど、簡単に壊せる代物ではない。

 ……レアメタルだから値段は張るが。


「終わったみたいにゃんね」


 振り返ると、リリィとミーアが戻ってきていた。


「すみません、すみません。有無を言わさず固めちゃってすみません」


 ミーアがぺこぺこと頭を下げる。

 見れば、ガルムの配下だった戌人たちはすでに制圧されている。

 半数は石像、残りは氷漬け。

 戦意を保っている者は一人もいない。


「三獣士を名乗ってたクー・シーとかいうのと、ワーグとかいうのも出てきたにゃんけど……」


 リリィが肩をすくめた。


「正直、ショボかったにゃん」


 マオウジゴクの中で、ガルムが歯噛みする音だけが、空虚に響いていた。

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