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魔道具エンジニアによる異世界革命〜魔改造済みにつき魔王はご主人様に逆らえません〜  作者: マシナマナブ
第四章 回帰編

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魔王ガルム

 黒く巨大な城が、白銀の大地にそびえ立っていた。幾本もの尖塔が空を裂くように突き出し、その隙間から不吉な風鳴りが響いている。


 ――ここが、魔王ガルムの居城。


「わわわ……お兄ちゃんの格式高い魔王城も素敵ですが、これはこれで、いかにも『悪の総本山』って感じで映えています」


 ミーアが目を輝かせている。

 ちなみに、彼女が言っている俺の魔王城とは、デズミーランドに建てた目玉アトラクションの、あれである。

 だが、その観光気分は、数秒ともたなかった。

 白い大地のあちこちから、戌人たちが無言で現れ、包囲網を形成していた。


「戌人は鼻が効くにゃんからね。でもまあ、この程度の相手なら、束になっても敵じゃないにゃん」


 俺たちが身構えると、それに反応するように、戌人たちも一斉に牙を剥いた。

 唸り音が重なり、空気が一気に張り詰める。


 そのときだった。前方の道を割るように、ひときわ巨大な影が歩み出てくる。

 蒼銀の毛並み。月光を宿したかのような鋭い眼光。

 見覚えがある。蒼月の牙王(アズールファング)こと、魔王ガルム。


「まあ、気持ちは分かるがな。正面からぶつかっても、お前らじゃ相手にならねえ。下がれ」


 ガルムはその一言で、場を制圧する。

 戌人たちは即座に身を引いた。

 やはり格の違いを感じる。


「俺様が今すぐ八つ裂きにしてやりてえところだが……相手はたったの三人だ。少しくらい話を聞いてやらあ」


 そう言って、ガルムは城内へと踵を返した。

 俺たちは、張り詰めた空気のまま城へ通される。


 玉座の間は広く、冷え切っていた。黒氷の床に足音が重く反響する。

 ガルムは玉座に腰を下ろした。

 周囲の戌人たちは無言で配置につき、俺たちは、ガルムの前で完全に取り囲まれた形になった。


「で……」


 ガルムが喉の奥で唸るように言う。


魔科学術師(トリックスター)と、冥府の女王(ヘルクイーン)が、こんなところまで何しに来た?」


 視線は一切逸れない。

 逃げ道も、油断も、与えるつもりはない。それを雄弁に語る目だった。


「俺たちをノースベルから追い出した、あの勇者と聖女……お前の差金だろうが」


 玉座の背後で、戌人たちが一斉に身構える気配が伝わってくる。

 俺は短く答えた。


「ノースベルは俺たちと同じ申人の街だ。見過ごすわけにはいかなかった」


 一瞬、沈黙。

 その直後、ガルムは苦虫を噛み潰すように吐き捨てた。


「ミッドガルドから来たという勇者と聖女……畜生。ありゃ予想以上に手強かった。おかげで俺は、こうしてニブルヘイムに逆戻りだ。とんだざまだな」


 自嘲とも怒りともつかない表現。だが、その目の奥にある警戒は消えていない。

 俺は、ひとつ確認した。


「トオル……いや、勇者たちは、ここまで来なかったのか?」


 その問いに、ガルムの片眉がわずかに動く。


「ああ。あいつらはノースベルを奪い返して、それで終わりだ。追っては来なかったぜ」


 ここにも、俺の記憶との違いがあった。

 俺の知る世界では、トオル、レイア、そしてエルマは、ガルムを追ってニブルヘイムにまで踏み込み、彼を追い詰めていたはずだ。


 俺は一度、静かに息を整えた。

 そして、最も気になっている問いを投げかける。


「エルマという賢者を、知らないか?」


「……エルマ、だと?」


 ガルムの声が低く沈む。


「お前と同じ戌人、エルマ・フェリルだ」


「なぜ、お前がその名前を知っている?」


 玉座の間に、重たい沈黙が落ちる。


「俺の名は、ガルム・フェリルだ」


 彼はそう名乗り、短く吐き捨てるように続けた。


「エルマは、俺様の従兄妹だった。そして――八百年前に、俺が殺した」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が、鈍く軋んだ。

 エルマは、ガルムに殺されていた。

 怒りが湧かなかったわけではない。

 だが、ここはやはり、俺の知っている世界とは違う。

 ガルムが語ったそれは、八百年前の遥か昔の出来事だ。俺が出会うよりも、ずっと以前のエルマの話だ。


「懐かしい話だな。フェリル家はな、戌人の中でも名の知れた一族だった。だが俺が魔王になったことで、一族は『凶悪な魔王を生んだ家』として非難された」


 ガルムの言葉は淡々としていたが、その奥に激しい感情が滲んでいるようだった。


「本家も分家も関係ねえ。一族総出で、俺を止めに来た。そして、そこにあいつもいた。エルマ・フェリルがな」


 ガルムは黒氷の床を、ゆっくりと歩き出す。

 爪が氷を引っかき、嫌な音を立てた。


「あいつは分家のくせに魔法の才に恵まれていやがった。だから、俺はあらゆる手を使って葬り去った。それだけの話だ」


 ガルムは俺を睨みつける。そこには思い通りにならない、苛立ちのようなものが感じられた。

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